抄録
イネおよびムギ類の催芽種子を管瓶に入れた寒天に植え, 管瓶をさらに, 2-chloroethylphosphonic acid (CEPA, Ethrel) の種々の浪度の溶液を入れた広口瓶に封入した. 広口瓶の蓋にはワセリンをぬり, CEPA より発生したエチレン・ガスが外にもれないようにした. このように幼植物はCEPA溶液に直接触せずCEPA より発生するエチレン・ガスによって処理された. その結果, CEPAは野生種を含めて供試したイネ品種のすべてで子葉鞘伸長を促進したが, ムギ類ではコムギ, オオムギ, ライムギ, エンバクのすべてで子葉鞘伸長を抑制した. 土壌のような物理的ストレスに合うと, エンドウ芽ばえはその幼芽および幼芽フックを含む先端数mmのところから著しくエチレンを発生し, その作用で伸長が抑制され, 茎が太くなり土壌の物理的障害をつきやぶって空中に出芽しうるようになるという報告(Goeschl et al ; plant physiol.41 : 877-884,1966) と本実験および筆者らの既報(Ku et al.; planta. 90 : 333-339,1970)の結果とあわせて考えるときわめて示唆にとんでいる. 水中に播かれたイネでは水圧が同様に物理的ストレスとして作用しているものと思われ, エチレンが抑制作用を示すムギ類はエンドウと同じく陸上作物で無酸素又は低酸素状態における抵抗性が弱く水中発芽がない事実をみるとき, 種子発芽におけるエチレンの役割の重要性を示唆している.エチレンのこのイネに対する特異な作用はイネの水中発芽性と関係あるものと思われる.