抄録
福井県九頭竜川上流の真名川流域に昭和36年ごろから止葉に赤枯れ症状が発生し, 登熟に悪影響がみられた. このため昭和42年より本症の防止対策と発生機作について現地試験, 調査分析を実施した. 1. この症状は登熟期に止葉の先端から赤褐色に枯れ第2葉におよんだ. 発生は出穂後高温の続く年に著しく, 収量構成要素のうち登熟歩合や千粒重など, 後期に決定される形質への影響が大きい. 2. 罹病稲の止葉から2,000~5,000ppmの高いマンガン含量が分析されたが, 逆に, 窒素, 珪酸, 鉄等の含量が少なく, 稲体の養分バランスの指標とされるFe/Mn比が著しく低くなり, 結局マンガン過剰による体内の代謝異常にもとづく, 生理病と認められた. 3. この症状は主として, 透水の良い乾田に発生しており, マンガン含量は高いが, その他の養分は相対的に低く土壌肥沃度が低いため, マンガンと鉄, 珪酸などとの拮抗作用から稲体養分の不均衡を招きやすい傾向があった. 4. このことが誘因となって, 登熟期の秋落ち症状を呈するような場合に発生することが, 葉鞘のヨードデンプン反応の結果からうかがわれた.