抄録
穂ばらみ期の冷温によりもたらされる不稔が, イネの前歴・後歴によってどのように影響されるかを実験した。イネの前歴・後歴は, 小胞子初期の前後10日間に, 時期別に17℃で3~9日間の処理をおこなうことによってかえた。これらの前処理・後処理単独では不稔発生に及ぼす影響はほとんどないか, あるいは小さかった。しかし, 小胞子初期冷温処理(12℃3日間)と組合わせると, 不稔の発生を助長する効果が認められた。その効果は, 前処理・後処理の時期が小胞子初期に近いほど大きく, また, 後処理よりも前処理の方が大きい傾向を示した。前処理を3日間おこなった3試験区と対照区について, 小胞子冷温処理の開始直前に材料をとり, イネの窒素成分を分析したところ, 前処理によって全-Nたんぱく態-N含有率は減少し, 全水溶性含有率は増加した。その傾向は前処理が小胞子初期に近いほど大きくなった。また, 稔実歩合と全-N, たんぱく態含有率の間には有意な正の相関関係が認められた。