抄録
水田生態系においてソウ類は,イネ,雑草とともに一次生産者として光合成を行ない,生産物を消費者や分解者に供給している. 本報告は,ソウ類の現存量・光合成量の季節的推移を調べ,併せてその変動の要因について検討を行なったもので,得られた結果は次の通りである. 1. ソウ類の現存量は,イネ作付期間中の初期に小さく,季節のすすみに伴い増加した. 特に稲生育中期以降の増加が顕著であった. クロロフィル量であらわした現存量は30~183mg/m2で中栄養湖ないしは富栄養湖のそれに相当した. 2. ソウ類は主に土壌表面に付着するものとミドロ類で,浮遊性のものは極めて少なかった. 初期には付着性ソウ類が,後期にはミドロ類が優占した. このような優占種の交替は水温の低下によりもたらされるものと推察された. 3. ソウ類の光合成速度の日中における経過は日射強度のそれとほぼ並行した. 両者の日変化から求めた光-光合成曲線には,光飽和の傾向が認められなかった. 光合成速度をクロロフィル当りでみた時,光-光合成曲線の勾配は水稲の初期に緩く,季節のすすみに伴い大きくなった. この変化は,付着性ソウ類からミドロ類への優占種の変化と対応するものと考えられた. 4. 1日当りの総生産量は,初期881mgC/m2であったが次第に低下し,後期には300~400mgC/m2となった. 5. 水稲の葉層を通過し田面に到達した光合成有効放射の総生産への利用効率は初期には0.24~0.42%と低く,その後次第に増加し,最大値は4.78%と極めて高い値を示した. 6. ソウ類のターンオーバーレートは初期には大きい(0.3回/日)が後期にはその10%程度(0.04回/日)に低下した. このことが季節のすすみに伴い田面に到達する光の強度が低下し,光合成量が減少するにもかかわらず,現存量が増加した要因と考えられた. 7. 測定期間中(5月27日より10月17日までの144日間) の総生産量は71gC/m2,1日当り0.49gC/m2で,この値は富栄養湖における一次生産量に匹敵する.