抄録
パインアッブル(スムース カイエン 三菱系優良系統)を用い,地上部のガス交換に及ばす土壌水分の影響を調査した. 土壌水分条件は,今までにCAM植物以外の植物で明らかにされてきた4種の土壌水分条件,すなわち過湿,生長有効水分域,初期萎凋点,永久萎凋点を設定した. 得られた結果は以下のとおりである. 1. いずれの土壌水分下でも昼の後半と夜にCO2を吸収した. 2. 昼の後半,夜および1日のCO2収支はpF2からpF3にかけての生長有効水分域で極大値を示した. 3. CAM植物の一種であるパインアップルでは初期萎凋点や永久萎凋点といわれる土壌水分域でも正のCO2収支を示した. 4. 昼の後半のCO2吸収は,初期萎凋点から永久萎凋点にかけての土壌水分域で大きく減少することが認められた. しかし,このときの夜のCO2収支の低下は,それほど大きくなかった. 5. 地上部全体について求めた水蒸気交換係数はCO2交換の推移と同様な動きを示した. 6. CO2交換の日変化の各相(昼の後半,夜,1日)で求めた蒸散比は,土壌水分よりも昼間の光強度により律速されるものであった. 7. 本実験で得られた土壌水分の影響は,主に気孔開度の調節を通して生じたことが明らかにされた.