イネの切断根は, Linsmaier・Skoogの培地上で内鞘細胞と内皮細胞から側根を発生したが, 5×10-5 Mの2, 4-Dを含む培地では, 上記の細胞からカルスが誘導された. 光学顕微鏡観察では, カルス化しつつある組織の構造は, 側根原基の構造と基本的に相違しなかった. しかし両者間に, 微細構造上の差異が, 細胞壁・原形質膜・原形質連絡に認められた. セルローズの正常な繊維構造が, 側根原基の細胞壁に観察されたが, カルス化組織の細胞壁の多くには, わずかな不明瞭な繊維構造が見られただけだった. 側根原基細胞の原形質膜には, 明らかな単位膜構造が認められたが, カルス化組織では, 不規則に走行する不鮮明な構造が見られた. カルス化組織における原形質連絡は, 顕著に不規則な細胞壁の部分で不明瞭であった. これらの差異は, 多糖類のためのホスホタングステン酸染色で, 特に明らかに認識された. 上述のごとき研究成果にもとづき, さらに組織の分化と脱分化に関する細胞壁の構造と機能につき論議した.