抄録
湛水(W)・適湿(M)・乾燥(D)の土壌條件下で, 生育させた9種類の夏作イネ科作物の出葉間隔, 乾物生産と蒸散係数の変化の程度を, 4回の実験を通じて比較検討した(第1表). M区に比べてD区では, すべての種の出葉間隔が長くなったが, W区では水稲・陸稲, シコクビエ, ハ卜ムギ, ヒエで短くなり, キビ, 卜ウジンビエ, アワ, モロコシ, トウモロコシで長くなった(第1図). 植物体と穂の乾物重にもとづくW/M比が, D/M比より大きいか, またその逆の関係かどうかによって, 供試作物は2群に大別された(第2, 3, 4図. 第2, 3, 4, 5表). その一つは, D/M比よりもW/M比の方が大きい群で, 水稲・陸稲, シコクビエ, ハトムギ, ヒエを含む. 他の一つは, W/M比よりもD/M比の方が大きい群で, キビ, トウジンビエ, アワ, モロコシ, トウモロコシを含む. 前者の群を耐湿性程度が大きい群(LWTC群), 後者の群を耐旱性程度が大きい群(LDTC群)とした. W・M・D区の各作物の蒸散係数を, 地上部乾物重当リ(TCs)だけでなく, 植物体全乾物重当リ(TCp)と穂乾物重当リ(TCe)でも求めた(第6, 7表). 各作物のTCsとTCpにもとづくD/M比は, 約1.00であったが, W/M比は種によって変異を示した(第5図B, C). SHANTZとPIEMEISEL の知見にもとづいた「TCeにおけるW/M比またはD/M比が, 1.00を大きく上回れば上回るほど, 湛水または乾燥條件はその種の生育にとって不適当な環境であることを示す」 とする假説によって, 各作物の耐湿性・耐旱性程度を評価した(第5図A). この評価法による各作物の耐湿性と耐旱性程度の大きさの順位は, 穂乾物重のW/M比とD/Mによる順位とほぼ一致した. そして, この評価法によってLWTC群とLDTC群は, さらに2つの亜群に分けえた. LWTC群は, (1) 湛水條件でもっとも安定しているが, 乾燥條件に対する感受性がもっとも高い種である水稲・陸稲, ハトムギを含む亜群と, (2) 湛水條件でも乾燥條件でも比較的安定している種であるシコクビエ, ヒエを含む亜群に分かれた. 一方, LDTC群は, (1) 湛水條件に対する感受性は比較的高いが, 乾燥條件では安定している種であるキビ, トウジンビエ, モロコシ, 卜ウモロコシを含む亜群と, (2) 湛水條件に対する感受性がもっとも高いが, 乾燥條件では安定している種であるアワを含む亜群に分かれた.