抄録
1988年7月中~下旬の穂ばらみ期における異常低温により著しい不稔籾が発生したので,出穂日の相違に着目し,不稔籾の発生状況および穂の部位による稔実歩合の違いを検討した. まず,水稲個体群における主茎と分げつの出穂日の相違とその品種間差異について検討した. ひと株全茎の出穂開始から完了までに要する日数には,比較的大きな品種間差異があった. 同一個体の主茎と各1次分げつの出穂日を比較すると,(1)主茎に比べ中位の分げつの出穂が早く,下位の分げつの出穂が遅れる品種,(2)主茎と中位の分げつの出穂がほほ同じで,下位の分げつの出穂が若干遅れる品種,(3)主茎にくらべてすべての1次分げつの出穂が遅れ,とくに下位および上位の分げつの出穂がかなり遅れる品種の3グループに大別された. 品種,株内の茎に着目してもわずかな出穂日の違いによって稔実歩合は明らかに異なった. 出穂日が同じでも個々の茎の稔実歩合にはかなり大きな変異がみられたが,主茎と1次分げつの稔実歩合には,明瞭な相違は認め難かった. また,一本の穂についてみると,稔実歩合は,先端部が最も低く,中央部,基部の順に高い場合と穂の各部位間で明瞭な相違がみられない場合とがあったが,各部位の稔実歩合には,主茎と1次分げつとの間で明瞭な違いはみられなかった. これらのことから,圃場における穂の部位による不稔籾発生の相違には,低温に遭遇した時の幼穂あるいは幼穂の各部位に着生する穎花の発育段階の違いに加えて,穂上位置の異なる穎花の低温感受性の相違も密接に関与していることが推察された.