抄録
根の生理的活性の低下に伴う光合成速度低下の要因を明らかにするため, ポットに生育させた水稲を用いて, 第10葉抽出期および出穂開始期に可溶性デンプン15 gまたは30 gを土壌中に加える処理を行った(処理水稲). この際, 土壌中の微生物の作用によって一次的に葉身の窒素含量が低下するのを防ぐため, 同時にそれぞれ硫安2.5, 5 gを施用した. 処理水稲と対照水稲について, 根の活性を表す葉身基部からの出液速度, 根のα-ナフチルアミン酸化力および午前中の最大光合成速度, 拡散伝導度, Rubisco初期活性およびRubisco含量を測定した. 可溶性デンプン処理後, 処理水稲の根のα-ナフチルアミン酸化力, 葉身基部の出液速度が減少し, 葉身の光合成速度および拡散伝導度は小さくなったが, Rubisco初期活性およびRubisco含量は対照水稲とほぼ同じかやや大きかった. また光合成速度と拡散伝導度との間には有意な正の相関関係があった. これらの結果より, 可溶性デンプン処理によって生じる根の生理的活性の低下による光合成速度の低下は, 葉内のCO2固定能力の低下ではなく, 拡散伝導度が低下し, 葉内へのCO2供給量が減少したためであると考えた. さらに, 処理水稲の光合成速度の減少は, 日数の経過とともに小さくなるか, みられなくなったのは, 可溶性デンプンとともに施用した窒素が吸収され, 葉内の窒素含量が高くなったことが関係していると推察した.