作物の個体群蒸散速度および植被コンダクタンスをリアルタイムで遠隔的に評価する手法を開発した. 遠隔法は個体群についての熱収支モデルに基づいており, 遠隔計測される植被温度および個体群に吸収される純放射エネルギを主要な入力とするものである. 干ばつ, 灌水, 湛水の各土壌水分条件下にあるダイズ個体群について, 同手法による推定値と茎熱収支法による測定値とを比較検討した. 茎熱収支法による個体群蒸散速度の値は, 自作した茎熱収支法ゲージによる個体蒸散速度と破壊サンプリングによる葉面積から求められた. 茎熱収支法を用いて測定した個体蒸散速度は日射強度や風速の変化によく応答して変動し, かつ反復個体の変動は非常によく同期していた. 個体間の蒸散速度の差はおもに葉面積の差に支配されていたが, 散乱光条件下よりも直達光条件で拡大する傾向があった. 遠隔法と茎熱収支法から求めた個体群蒸散速度を, 1) 同一個体群についての日変化, 2) 3つの土壌水分処理の影響が大きく現れた日の全区の10分当たり平均値, 3) 3種の土壌水分条件における全測定日の日蒸散量, の3つの角度から比較した. その結果, 多様な土壌水分ならびに微気象条件において, 遠隔法が個体群蒸散速度と植被コンダクタンスの正確な推定値を与えることがわかった. 本方法により, サンプリングや周辺環境の撹乱を伴わずに, 野外条件で植物個体群レベルの蒸散速度, コンダクタンスを連続的に評価できる可能性が示された.