抄録
根系の深さは作物の収量性や環境ストレス耐性と密接な関係にあるといわれる.しかし, これまでは深さの定義があいまいで, 根系の深さの定量化は遅れていた.そこで, 深さを根量で重み付けして平均する「根の深さ指数」を導入して, これまでに発表されたイネ, コムギおよびダイズのいくつかの文献データを用いて根系の深さの平均値を求めた.その結果, 同じ栽培条件でもイネが他の作物に比べて半分程度の浅い根系を作ることや根系の深さに統計的に有意な品種間差異があることが示された.また, 同じ品種でも根系の深さは栽培環境によって変化し, 土壌の乾燥で最高4割程度, 低窒素条件で1割程度深くなることが確認された.これらの知見に基づいて, 作物の耐乾性の向上には根系が深くて根の水分反応性の高い品種を開発すること, 耐倒伏性の向上には栽培土壌の物理的な特性に応じた根系形態が必要であることなどを指摘し, 多収を目指した根系の遺伝的改良と栽培管理の方法についての考察を行った.