2017 年 41 巻 6 号 p. 237-248
近代日本において,色彩論は欧米より輸入され,受容される.その過程で,日本画家である田口米作により,『色彩新論』が著された.本書は明治43年に刊行されたが,欧米の近代的な色彩論を主に紹介する同時期の書籍とは性質が異なる.田口米作は著作の中で,色彩理論の解説に加え,日本の色彩文化論的内容を含む独自の視点を提示している.これは当時の色彩論関係の書籍ではあまり見られない特徴である.独特の色彩理論が構築された要因として,米作が浮世絵師出身でポンチ絵師であったこと,東京美術学校のようなアカデミズムとは距離があったこと,日本画家として色彩理論を独自に学んだこと,が挙げられる.一方で,米作は『色彩新論』刊行を待たず早世し,弟子筋へ技術や知識が継承されなかった.本研究は田口米作の『色彩新論』の成立における諸背景を整理し,その特異性を明らかにする.