抄録
農業生態系では、生産物が農業生態系の外に持ち出され、農業生態系に還元される有機物が極めて少なくなる例と、飼料を海外からの輸入に頼っている畜産分野のように、多量に発生する家畜排泄物が集積し、農業生態系の中に有機物が過剰になる例がある。局所的に過剰な排泄物は、地下水汚染といった環境負荷の原因となる。しかしながら、経営に家畜を組み込んでいない農業生態系では、農地に施与する有機物が少なくなる場合もあることから、余剰な排泄物を有機物の少ない農業生態系に利用することは、物質循環や資源の有効利用の点から、重要なことであり、さらに、環境負荷を軽減させるはたらきを持つと考えられる。家畜排泄物の農地への還元は、排泄物の運搬を考慮すると、近距離の移動が最も合理的であることから、市町村レベルで、家畜排泄物の負荷量(1年間における農地1haあたりの家畜排泄物発生量)を検討した。さらに、家畜排泄物施与による生態系保全農業システムの確立例を、負荷量の異なる市町村の間で、負荷量に応じた家畜排泄物施与の戦略を比較検討した。