認知科学
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模倣と行為の理解に関する最近の研究の紹介:ミラーシステム,サル,乳児の模倣
川合 伸幸
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2007 年 14 巻 1 号 p. 155-160

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抄録

「ミラーニューロン」の発見から10年が経過した.その間,「模倣」の重要性の再認識とともに,心理学の諸領域(発達,比較認知)や神経科学のみならず,工学(ロボティックス,人工知能),言語学などにも大きな影響を与え,「ミラーニューロン」という言葉が一人歩きしている感さえある.「ミラーニューロン」が模倣に関連していることは広く知られているが,実はかならずしも正確に理解されていないように思われる.たとえば,ミラーニューロンはサルで見つかったが,サルは決して模倣をしない.チンパンジーの模倣でさえ非常に限定的である.サルのミラーニューロンは,模倣にどのように関わり,何をしているのだろうか? そこで,ミラーニューロンを発見した著者の1人がそれ以降の研究をまとめ展望を述べた論文を紹介し,ミラーシステムとはどのようなものであるのかを確認する.結論をいえば,ミラーシステムは模倣に関わっているが,その一義的な働きは,他者の「行為を理解」することである.著者らは,模倣はコミュニケーションや学習メカニズムの一部としてのみ必要とされると考えている.ここでは読みやすくするために,図を補いオリジナルの論文とは多少異なる説の分け方をした.2番目の論文は,サルはこれまでのレパートリーにない新たな行動が要求されるいわゆる運動模倣をしないが,認知的なルールをコピーする認知模倣は可能であることを示している.模倣には,「行為レベルの模倣」と「プログラムレベルの模倣」があり,この論文では,サルはプログラムレベルの模倣が可能であることを示している.3番目の論文は,行為が行われた状況ではそれらのどちらのレベルの模倣が合理的であるか,という推論を14ヶ月齢の赤ちゃんが行うことを示している.つまり,大人のモデルが行った目的指向的な行動が,その目的を達成するための合理性があるかを推論し,そう判断される場合には同じやり方の行為で模倣するが,そうでなければ(すでに行動レパートリーになっている)より簡単なやり方の模倣で目的を達成することを示している.これらの論文を,図などを補足しつつ簡単に紹介したい.

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© 2007 日本認知科学会
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