認知科学
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建築学における人間と構築環境の関係についてのいくつかの研究の紹介
藤井 晴行
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2008 年 15 巻 1 号 p. 216-220

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抄録

建築研究のひとつに建築物や都市が構築する環境(構築環境, built environment)と人間の心理的反応や行動との関係を明らかにしようとするものがある.その多くは両者の関係に関する知見をよりよい建築空間や構築環境の設計に活かすことを意図する.人間と環境との関係を主に認知プロセスに焦点をあてて見る認知科学と同関係を建築や都市のありようの側から見る建築学との間には相補的な関係があると仮定し,最近の建築研究の中から認知科学における関心と関連がありそうなものを紹介する.日本建築学会計画系論文報告集または日本建築学会環境系論文報告集に発表された論文のうち,構築環境と人間との関係を扱う研究をいくつか取り上げ,その概要を紹介する.また,いくつかの論文の題目を紹介する.当該機関に発表された人間-環境系研究はこれらにとどまるものではない.最後に参考書籍の題目を挙げる.
 建築学における人間と環境の関係の研究は大きく二種類に分けられる.ひとつは建築空間や構築環境とそこにいる人(主に居住者や利用者)との関係を対象とするものであり,ひとつは設計のための環境と設計者との関係を対象とするものである.ここで紹介する論文は前者に属する六編である.それぞれ,次のような特徴をもつ.第一論文(青木・朴・大佛)は都市空間の認知が概念図式に依存することをイメージマップを用いた実験によって確かめようとしている.第二論文(徐・西出)は展示空間における回遊行動と空間認知との関係を対象とし,実際の展示空間において実験を行っている.第三論文(末繁・両角)は都市空間における視覚的な情報と回遊行動との関係を対象とし,実際の市街を模した回遊行動シミュレーション実験を行っている.第四論文(掛井ほか)は非常時の避難行動を誘導するために有効な情報提示の形式を対象とし,建築空間を模した避難シミュレーション実験を行っている.第五論文(高橋・大井)は建築のインテリア空間の美しさの評価に関わる一般的な美的価値観を対象とし,被験者に刺激を提示する評価実験と被験者の評価構造を抽出するためのインタビューを行っている.第六論文(坂本ほか)は温冷感と色彩との関係を対象として,実験室において設定した温熱環境における暖色・寒色の注視傾向を測定している.
 建築学におけるこれらの論文を紹介する理由は,認知プロセスのモデル化よりも建築設計や都市計画により強い関心をもつ研究者が人間と環境との関係にどのようにアプローチしているのかを知ることが認知科学者にとっても有意義なことであると信じるためである

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© 2008 日本認知科学会
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