認知科学
Online ISSN : 1881-5995
Print ISSN : 1341-7924
ISSN-L : 1341-7924
博士論文紹介コーナー
A Computational and Empirical Study on Blink Synchronization Induced by Performer's Inputs
野村 亮太
著者情報
ジャーナル フリー

2019 年 26 巻 3 号 p. 391

詳細
抄録

 落語の鑑賞中に観客が示す自発性瞬目の時間当たりの生起回数に着目すると,その増減のタイミングが観客間で一致する現象がしばしば観察される.この瞬目同期(blink synchronization) が生じる箇所は,口演の意味内容と対応していていたことから,演者の表現が観客一人ひとりの注意の配分・解放をガイドし,観客の注意過程に連動する瞬目も結果的に同期するのだと考えられている(野村・岡田, 2014,『認知科学』, 21(2), 226-244). 研究1 では,瞬目同期の程度に観客の視聴経験が影響するか否かを心理実験で検討した.その結果,視聴経験が多い群では,視聴経験が少ない群よりも同期の程度は高く,視聴経験が瞬目同期を促進することが示唆された.研究2 では,集団実験と個人実験の比較から,観客間相互作用が瞬目同期に与える影響を検討した.その結果,集団実験の場合には,個人実験の場合に比べてズレ30%から60%が小さくなり,観客間相互作用が瞬目同期を促進することが示唆された. 数理的にみれば落語は,非線形力学系として応答する観客群に演者からの共通入力が印加される状況としてモデル化することができる.だが通常,こうした状況下の共通入力は未知であり,客観的に測定することは容易ではない.そこで以下の研究では,観客の瞬目から共通入力を再構成する手法を提案した.この手法ではまず,共通入力を複数の力学系に入力し,出力の点過程時系列を得る.次に,点過程時系列から時間当たりの生起数を算出し,一定間隔の遅れ時間をとって多次元空間に埋め込む.その後,力学系の数だけリカレンスプロットを作成し,これらの和集合をとる操作により,力学系に固有のダイナミクスを相殺する.これを本研究では,重畳リカレンスプロットと命名した.最後に,リカレンスプロットから多次元空間内の距離を算出する手法(Hirata et al., 2008) を重畳リカレンスプロットに適用し,共通入力を再構成して各時点の振幅を得る.研究3 では,パラメータを変えて分岐させた神経細胞の数理モデルに共通入力を与え,発火時刻の時系列の情報のみを用いて未知の共通入力を再構成できることを示し,提案手法の妥当性を確認した.研究4 では,提案手法を実験で得た瞬目時刻の時系列に適用し,演者からの共通入力を再構成した.本提案手法は,観客の瞬目に着目するため,落語に限らず,演劇,授業,映像作品といった視覚表現の訴求力を客観的に評価する手法として応用が期待できる.

著者関連情報
© 2019 日本認知科学会
前の記事
feedback
Top