日本交通科学学会誌
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車対歩行者の事故とニアミスの近似性について
松井 靖浩高橋 国夫安藤 憲一
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2011 年 11 巻 1 号 p. 28-32

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抄録

交通事故における歩行者死亡者数を大幅に減少させるためには、事故の特性を詳細に把握する必要がある。ただし、実事故からの調査可能なデータ数は限定されるため、ニアミス事例を調べることも重要と考えられる。ニアミスデータは車両に搭載したドライブレコーダより取得され、大量のデータ蓄積、集約が可能である.本研究では、車両と歩行者とのニアミス事象に着目し、ドライブレコーダのニアミスデータを使用することでニアミスデータの危険な状況を把握し、実事故解明のためのニアミスデータの有効性を明確にすることを目的とした。実事故とは、車両、歩行者、自転車、二輪車のいずれかが関与する事象であり、ニアミスとは、ドライバーもしくは歩行者や自転車、二輪車乗員等が関与する極めて危険な状況ではあったが、事故には至らなかった事例である。ここで、事故データは交通事故総合分析センターが解析したマクロデータを引用し、ニアミスデータは社団法人自動車技術会が保有するヒヤリハットデータベースを使用した。分析では、「危険認知速度」と「歩行者と車両の接近状況」について、ニアミスと実事故の特徴を比較した。ニアミスと実事故における危険認知速度を比較した結果、ニアミスの危険認知速度の累積線は重傷の累積線に近似することが判明した。また、歩行者と車両の接近状況を調査した結果、死亡事故とニアミスの共通する特徴として、車両が直進し前方の路上を歩行者が横断する事象が約7割を占め最も多いことが判明した。この結果から、危険認知速度および接近状況についてニアミスは実事故と近似しており、ニアミスデータは事故状況を解明するための基礎資料として活用可能と考えられる。今後、このような基礎資料を基に車両による安全対策が講じられ、歩行者事故における保護性能の向上に繋がることが期待される。

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© 2011 一般社団法人 日本交通科学学会
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