日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
最新号
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原著論文
  • 野村 友美, 藤田 和樹, 川端 香, 小林 康孝
    原稿種別: 原著論文
    2025 年24 巻2 号 p. 3-12
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    【背景】神経疲労は注意機能低下を引き起こし、自動車事故を発生させる要因の一つとなり得る。一方、有酸素運動は脳の前頭前野の賦活により神経疲労を回復させ、注意機能向上に結び付く可能性がある。本研究では、有酸素運動により神経疲労が回復するかどうかを、脳波を用いて検証する。【方法】対象は20~30歳代の健常者30名とし、Paced Auditory Serial Addition Test(PASAT)を12分間行うことで即時的に神経疲労を生じさせた。神経疲労を回復させるための介入は、リカンベントバイクを用いた有酸素運動(運動群)またはベッド上臥床による安静(安静群)を20分間とし、無作為に割り付けた。主観的評価にはVisual Analogue Scale(VAS)、客観的評価には脳波(θ波、α波のパワー値)を用い、疲労課題前後、介入前後の比較、さらに介入による変化量の群間比較を行った。【結果】PASAT前後におけるVASおよびθ波の結果から、神経疲労の発生が確認された。介入前に比べ介入後では、運動群で前頭部と頭頂部、安静群で前頭部のα波のパワー値が有意に増加し、群間比較では安静群に比べ運動群で有意に前頭部のα波のパワー値の変化量が大きかった。【結論】神経疲労を生じた対象者に対する有酸素運動の実施は、α波のパワー値の増加を引き起こし、疲労回復に有効である。また、その効果は安静臥床よりも大きい。

  • 川端 香, 久永 千夏, 藤田 和樹, 佐藤 万美子, 林 幸司, 小林 康孝
    原稿種別: 原著論文
    2025 年24 巻2 号 p. 13-24
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    近年、脳損傷患者の運転再開支援が注目されており、視覚的注意や危険予知能力は安全な運転に重要な役割を果たす。脳損傷患者の運転再開支援においては、同乗者を伴うことを条件に運転を再開する事例がみられるが、同乗者との会話によって運転者の注視行動がどのように変わるかについては、明確な結論が得られていないのが現状である。本研究は、同乗者との会話が運転者の視覚的注意に及ぼす影響について基礎的データを提供することを目的としている。対象は、視力に問題がなく、日常的に運転を行っている若年健常者20名である。視線解析装置を用いて、運転動画を視聴している際の視線を測定した。同乗者との会話の有無を条件とした2つの測定条件で実施した。運転動画視聴時の注視座標、特定のハザード(関心領域: areas of interest 以下、AOI)への累積注視時間、訪問回数、注視割合について、統計学的に比較検討した。注視座標の分析結果において、同乗者と会話をすることにより、注視範囲は水平方向に狭小化し、垂直方向に拡大することが明らかとなった。AOIに基づく視線測定データの分析では、訪問回数と注視割合に有意差は認められず、累積注視時間に有意差が認められた。同乗者との会話は、ハザードへの注視時間が短縮し、特定のハザードに限らず、ハザードに対する注視が全体的に抑制する可能性が示唆された。会話による注意リソースの再分配が、スキャンパターンやハザードへの注視時間に変化をもたらした可能性がある。今後は、同乗者との会話が運転者の注視行動に及ぼす影響をより詳細に解明することが重要である。

  • 國富 将平, 鮏川 佳弘, 長岡 靖
    原稿種別: 原著論文
    2025 年24 巻2 号 p. 25-36
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    重大な交通事故によって生命に危険を及ぼす傷害を負った場合、医師による治療までの時間が長くなると、救命率が低下するとともに、後遺症発生リスクも高くなる。より早く医師による治療を開始するため、先進自動事故通報システム(Advanced Automatic Collision Notification, AACN)を活用したドクターヘリおよびドクターカーの早期出動判断を目的とするD-Call Netの本格運用が2018年より開始され、医師の現場派遣が行われている。しかしながら、現行の自動通報対象は自動車乗員に限られており、歩行者や自転車乗員などの交通弱者、および二輪車乗員への適用範囲の拡大が強く望まれている。そこで我々は、ドライブレコーダ画像を用いた深層学習手法による交通弱者衝突検出モデルの作成を試み、その有効性を示してきた。
    本研究の目的は、四輪車対二輪車事故が記録されたドライブレコーダ画像を基に、深層学習手法を用いた衝突検出モデルの作成とその評価である。衝突検出モデルの性能は、テストデータにおける衝突時の二輪車乗員に対する検出率を用いて評価した。さらに、検出結果を基に、未検出および誤検出の要因について考察した。
    本研究で作成した衝突検出モデルは、49件中35件(77.8%)の四輪車対二輪車事故に対して衝突時の二輪車乗員を検出した。このことから、深層学習手法を用いた画像認識技術を二輪車の衝突画像に適用することで、四輪車対二輪車事故が記録されたドライブレコーダ画像に基づく、二輪車乗員の衝突検出の実現可能性が示された。しかしながら、画像データごとの平均検出率は48.0%であり、先行研究の交通弱者を対象とした衝突検出モデルと比較して低い値を示した。この要因として、交通弱者との事故ではあまりみられない特徴的な二輪車事故(検出対象者の身体の一部のみが写る事故、車両間の相対速度が高く、衝撃が軽微な事故、衝突時に大きな衝撃が自車に加わる事故)の存在が挙げられた。これらの事故では、衝突時の二輪車乗員に関する情報が不十分、あるいは画像が不鮮明となることによって、衝突時の二輪車乗員の衝突検出が困難になったと考えられる。

  • 三尾 雅人, 一杉 正仁, 三林 洋介
    原稿種別: 原著論文
    2025 年24 巻2 号 p. 37-45
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    従来活用されてきた作業者の覚醒計測装置にフリッカー試験器がある。本研究では、従来のフリッカー試験器に用いられていた点光源を、有機EL材を用いた面光源とすると同時に計測方法、光源色の適正化を図り、新たな構造を有する覚醒度計測装置の開発と検証を行った。そして製作した覚醒度計測装置に、覚醒度の低下に応じて警告音が鳴り、腰部にバイブレーション刺激を加えるシステムを考案・製作し、覚醒度計測管理システムとして実際のドライバーに使用してもらい検証を行った。その結果、従来のフリッカー試験器に用いられているLED点光源と新たな開発器に用いた有機EL材面光源に一定の整合性が確認され、光源色は黄色が他色に比較して測定精度が高く、装置の測定方式は測定結果に影響を与えることを明らかとし、これらを新型装置に実装することができた。加えて、自動車運転者の覚醒度計測管理システムを開発しドライビングシミュレータ及び実車を用いて行った実装実験より、システム作動による運転者の覚醒度上昇を確認することができた。また、覚醒度と心拍数の間に一定の相関がみられ、実車走行時においても実用に供することを確認できた。

  • 木内 匠, 水戸部 一孝
    原稿種別: 原著論文
    2025 年24 巻2 号 p. 54-64
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    日本は高齢化率が進んでいる国の一つであり、高齢化率は高い水準にある。近年、交通事故死者数は減少傾向であるが、交通事故死者数全体に占める自転車乗用中事故死者数の割合は依然として高いままであり、高齢自転車運転者の事故防止は交通事故死者数を減らすうえで重要である。自転車の運転に関して、運転動作に関する知見はいくつか報告されているが、車道横断行動についての知見は少ない。
    本研究では、VR技術にモーションキャプチャ装置を組み合わせて実現した仮想環境で危険な交通環境を安全に疑似体験できる自転車運転シミュレータを用いて、若年者19名と高齢者15名を対象に、自転車乗用時の運転行動を計測した。ここでは、片側一車線直線道路の路側帯を自転車で走行中に前後の安全を確認して右折横断する「右折横断能力」および、事前に計測した若年者の安全な右折横断経路を手本として手本の走行経路をトレースする「横断経路トレース能力」について検査した。計測した横断行動を解析し、車両との衝突発生率、左右方向の重心動揺とトレース検査におけるキューブ通過率に着目して高齢者の特徴について検討した。
    検査結果より、若年者に比べ高齢者の車両との衝突発生率が高く、特に手前車線において衝突率が高いことを確認した。また、直進走行期間の重心動揺を解析した結果、若年者に比べ高齢者の左右方向の重心動揺が大きいことが明らかになった。さらに、右折横断検査では高齢者の衝突群が非衝突群より有意に大きいにも関わらず、トレース検査では衝突群と非衝突群で有意差が生じないことを明らかにした。また、トレース検査による高齢者群のキューブ通過率は若年者に比べ有意に低下することを明らかにした。さらに衝突群のキューブ通過率は非衝突群に比べ有意に低下することを明らかにした。以上より、キューブ取得率および重心動揺の左右成分から加齢が自転車運転におよぼす影響を顕在化でき、また、右折横断時の後方確認動作を含む自転車運転において直進走行期間の重心動揺の左右成分の増加および操舵能力から高齢者の事故誘発要因を推定できると考えた。

症例研究・事例研究
  • 小野 航暉, 渡邉 修, 山田 尚基, 上原 朋子, 江 南, 赤川 立樹, 吉田 健太郎, 安保 雅博
    原稿種別: 症例研究・事例研究
    2025 年24 巻2 号 p. 46-52
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2026/04/01
    ジャーナル フリー

    【緒言】健康起因事故とは、「運転者の疾病により、自動車の運行を継続することができなくなった事案のこと(自動車事故報告規則第2条)」である。この度、不適切な健康管理が健康起因事故につながったと考えられる1例を経験したため報告する。【症例・経過】40歳代男性。会社の定期的な健康診断で、血圧高値、腎機能障害、肝機能障害、尿酸値高値を指摘されるも、医療機関は受診していなかった。X年X月X日に飲食店のドライブスルーを利用中、突如車を後進させ後方車に衝突した。言動に異常が見られたため救急搬送されたところ、左大脳皮質下出血を認め緊急入院となった。入院時の血液検査で肝機能障害、腎機能障害を認め、入院後の精査で慢性的な高血圧症を原因とする腎硬化症が診断された。頭部MRIでは脳出血の他に、陳旧性脳梗塞や、動脈硬化症を示唆する両側脳室周囲の白質病変を認めた。保存加療後、数ヶ月のリハビリテーション治療を経て実家に退院したが、失語症、高次脳機能障害(注意機能障害、遂行機能障害)、右同名半盲が後遺した。【考察】本症例は、脳出血発症による体調不良を感じ停車を行おうとしたが、誤操作の結果後進してしまったと推測された。そして、脳卒中による意識変動や自分でも意図しない運転誤操作は、錯乱状態を助長することとなり、感情や誤操作を制御できず、事故に至ったと考えられる。陳旧性脳梗塞の存在が、発症直後の意識障害や判断能力の低下、その後の高次脳機能障害において、脳出血単体だった場合より悪化させた可能性は否定出来ない。多数の動脈硬化症のリスク因子を健康診断で指摘されていたのに、医療機関を受診せずにいたのが発症の原因であり、健康診断や過去に体調不良を自覚した時点で病院を受診していれば発症を予防できた可能性はある。【結語】健康管理は自動車運転者の義務である。企業の安全衛生推進者や産業医と、地域施設・医療機関との連携が必要である。

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