傷病による休職・休業期間を経た職業運転者の復職、退職、解雇に係る問題が争われた近年(1989年以降)の判例を調査し、現状における職業運転者の傷病と運転業務の復帰に関する司法判断について検討した。
対象例は15例で、運転者はすべて男性であった。休職・休業の原因となった傷病は、外傷、神経・筋・骨格障害が各5例、慢性疾患が3例、精神疾患が2例、がん、脳血管疾患、薬の影響が各1例であった(重複あり)。判決は、解雇・退職無効が3例、解雇・退職有効が8例、運転者に対する賃金・損害賠償の支払いが認められたものは4例であった。
雇用の継続・復職を求める職業運転者と、人材を確保したいが事故リスクは抑えたい事業者の間で、休職制度の適用や復職の可否判断をめぐって争われることがある。休職制度は解雇猶予の制度であり、期間内に治癒したと認められなければ、退職・解雇となるため、休職命令も休職期間も明示的に伝える必要がある。ただし、休職命令の発令については事業者に裁量があり、裁量を逸脱した場合のみ、解雇権濫用となる。職業運転者は運転業務に限定された職種であり、最終的に当初の限定された職種に復帰することが困難な場合、一般に解雇・退職は有効と判断されるが、近年、事業者の規模などを考慮して、今後の回復の見込みや配置換えの可能性など事業者に配慮を求める判決もみられた。運転業務への復職の判断には医学的判断が大きく関与するが、産業医を選任していない中小企業も多く、運輸業の実態を把握していない主治医の判断しか得られていない場合や、事業者が独自に復職可否の判断を行っている場合も多いと考えられた。運輸業界全体の問題として、運転業務復帰に係る一定の基準の設定や、復帰後も運転者が安心して治療を継続していけるような制度の導入を検討することも必要と考えられた。
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