日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
最新号
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  • 徐 琴, 伊藤 安海, 土屋 駿丞, 上運天 和輝, 佐藤 桂, 山田 隆一
    2023 年 22 巻 2 号 p. 3-14
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2024/04/14
    ジャーナル オープンアクセス
    【はじめに】高齢ドライバの運転中止は要介護リスク上昇やQOL低下につながるため、一律に運転中止を促すことは望ましくない。一方、多様な能力、社会的背景が影響する運転能力をすべての高齢ドライバに対して精密に検査することは現実的ではない。【目的】高齢ドライバの運転能力を多角的にスクリーニング(精密検査対象者の洗い出し)可能な手法を提案する。【対象】富士河口湖町シニアドライバー支援事業に自発的に参加した65歳以上の高齢ドライバ。【方法】Trail Making Test(TMT)を用いた視覚探索・処理能力検査、質問紙による個人属性(年齢、学校教育年数など)調査、簡易ドライビングシミュレータ(DS)を用いた危険回避能力検査といった複数の簡易検査を行い、それらの検査(調査)結果の関係を分析する。【結果】①年齢、②学校教育年数、③TMT-Aおよび④TMT-Bの所要時間が危険回避能力とわずかな相関関係があることが明らかとなった。DSによる危険回避能力(DSスコア)の有意差が大きくなる境界を求めた結果、年齢81歳[以上]、学校教育年数12年[未満]、TMT-Aは60秒[より長い]、TMT-Bは150秒[より長い]が、運転能力評価のスクリーニング基準として適していることがわかった。【結論】各項目の基準に該当せず、能力低下のリスクが少ないと判断された群は運転継続可能な群とし、逆に2項目以上当てはまる場合、実車による運転技能検査、医学的診断などの追加検査の実施を推奨する。
  • 馬塲 美年子, 一杉 正仁
    2023 年 22 巻 2 号 p. 15-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/14
    ジャーナル オープンアクセス
    傷病による休職・休業期間を経た職業運転者の復職、退職、解雇に係る問題が争われた近年(1989年以降)の判例を調査し、現状における職業運転者の傷病と運転業務の復帰に関する司法判断について検討した。
    対象例は15例で、運転者はすべて男性であった。休職・休業の原因となった傷病は、外傷、神経・筋・骨格障害が各5例、慢性疾患が3例、精神疾患が2例、がん、脳血管疾患、薬の影響が各1例であった(重複あり)。判決は、解雇・退職無効が3例、解雇・退職有効が8例、運転者に対する賃金・損害賠償の支払いが認められたものは4例であった。
    雇用の継続・復職を求める職業運転者と、人材を確保したいが事故リスクは抑えたい事業者の間で、休職制度の適用や復職の可否判断をめぐって争われることがある。休職制度は解雇猶予の制度であり、期間内に治癒したと認められなければ、退職・解雇となるため、休職命令も休職期間も明示的に伝える必要がある。ただし、休職命令の発令については事業者に裁量があり、裁量を逸脱した場合のみ、解雇権濫用となる。職業運転者は運転業務に限定された職種であり、最終的に当初の限定された職種に復帰することが困難な場合、一般に解雇・退職は有効と判断されるが、近年、事業者の規模などを考慮して、今後の回復の見込みや配置換えの可能性など事業者に配慮を求める判決もみられた。運転業務への復職の判断には医学的判断が大きく関与するが、産業医を選任していない中小企業も多く、運輸業の実態を把握していない主治医の判断しか得られていない場合や、事業者が独自に復職可否の判断を行っている場合も多いと考えられた。運輸業界全体の問題として、運転業務復帰に係る一定の基準の設定や、復帰後も運転者が安心して治療を継続していけるような制度の導入を検討することも必要と考えられた。
  • 益満 茜, 川崎 貞男, 一杉 正仁
    2023 年 22 巻 2 号 p. 30-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/14
    ジャーナル オープンアクセス
    高速道路は高速走行となるため、事故が発生した場合は重大事故に発展することが多い。さらにトンネル内の事故では、救助活動、救命処置および搬送において工夫した対応が求められる。そこで、新たに建設された近畿自動車道紀勢線の開通前に、同道路上のトンネル内で多重事故が発生したという想定で合同訓練を行い、ドクターカーとともに参加した。ドクターカーの医療スタッフは医師2名、看護師1名の編成であったため、現場指揮本部に到着報告をしたのち医師1名は現場指揮本部に入り、もう1名の医師と看護師は現場救護所での診療を開始した。救急隊による一次トリアージにより重症2名、中等症3名、軽症3名と判断された後、看護師が二次トリアージを行い、緊急度の高い傷病者から順に安定化処置を行った。看護師が1名しかいないため、処置を行う際は救護所に配置された救急救命士にも協力を仰いだ。走行可能な状況を加味したうえで搬送先を決定し、いずれも救急車で搬送した。高速道路のトンネル内事故では、救助・救急活動を行ううえで非常に過酷な環境であること、救命処置を行うのに困難が予想されること、二次災害への対応が必要であること、状況に応じて臨機応変に搬送先を選定する必要があるなど、特異的な対応が必要になる。したがって、医療従事者が、このような想定下での訓練に参加することで、円滑な病院前救護活動が実践できると考え、その意義は高いと思われた。
  • 片岡 瞳, 東條 美紗, 高相 真鈴, 中村 磨美, 一杉 正仁
    2023 年 22 巻 2 号 p. 36-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/14
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は60歳代の男性で、3年前より非代償性肝硬変、高アンモニア血症、食道静脈瘤と診断され近医通院中であった。男性は、薬物治療を受け主治医より自動車運転を禁止されていたものの、独り暮らしで、かつ個人タクシー運転者であり、自動車運転を継続していた。某日、男性は目的地と反対方向に進行していたが、対向車線に逸脱して正面衝突事故を起こし、下肢の挫創、左脛骨および腓骨の粉砕骨折を負った。受傷部位からの多量出血による出血性ショックで、翌日に死亡した。剖検では、進行した非代償性肝硬変および脾腫を認め、血液検査では、アンモニアの上昇を認めた。目的地と反対方向へ進行したことや、対向車線へ逸脱したことを考慮すると、男性は肝性脳症により交通事故を引き起こしたと考えた。進行した肝硬変に起因した交通死亡事故例の報告はまれであり肝硬変が交通事故の原因になり得ることについては、広く認識されていない。本例を通して、肝硬変患者における自動車運転能力の確認と適切な患者指導の重要性が示唆された。また、患者のアドヒアランスを良好に保つこと、家族とともに適切な助言を行うことが健康起因事故を予防するうえで重要と考えた。
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