日本交通科学学会誌
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歩行者交通事故の特徴と対策について
松井 靖浩及川 昌子水戸部 一孝
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2016 年 15 巻 3 号 p. 3-10

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抄録

高齢歩行者の事故低減に向けた方策を提案することを目的とし、高齢歩行者の単路横断時の特徴、車両色が高齢歩行者の知覚能力に及ぼす影響を分析した。高齢歩行者の単路横断時の特徴について、高齢歩行者がどのようなタイミングで道路を横断するのか、実車を用いて調査した。20、30、40、45km/hの所定の速度で接近する車両に対し、高齢歩行者が中心視野により、この距離でぎりぎり横断できると判断した瞬間における歩行者と車両との距離(歩車間距離)を計測した。昼間の場合、右側歩行者については、高速度条件(45km/h)において、高齢者は若年者より歩車間距離が有意に短く、横断判断が緩慢になる。車両がロービームを点灯した夜間の左側歩行者の場合、20km/hの走行条件では、高齢者は若年者より歩車間距離が長くなる。ハイビームを点灯した夜間の左側歩行者の場合、20、40km/hにおいて、高齢者は若年者より歩車間距離が有意に長くなる。車両側の対策として、夜間における前照灯の点灯は、ロービームよりハイビームのほうが高齢者にとって歩車間距離を確保する有効な手法と考えられる。次に、高齢歩行者の視力に着目し、高齢歩行者の歩者間距離を視力0.7以上の群(高視力)と、0.6以下の群(低視力)の2つに分けて分析を行った。昼間の結果では、横断判断のタイミングは視力による影響を受けていない。しかし、夜間の場合、前照灯をロービーム、ハイビームいずれの条件においても、全速度の左側歩行者について、高視力の高齢者群は、低視力の高齢者群と比べ有意に歩車間距離が長くなる。高齢者が定期的に視力の計測を受け、必要に応じて視力を補正することが、高齢歩行者自身が行える事故予防として極めて有効な手段と考えられる。車両色が高齢歩行者の知覚能力に及ぼす影響について、高齢者を実験参加者とし、正面を注視し走行音のない車両が右または左から接近する際、周辺視野で車両に気付く時の歩車間距離について仮想交通環境を使用し調査した。接近する車両が黒色の場合、白色に比べ歩車間距離が有意に短い。車両色の明度が暗い場合、高齢者は周辺視野で接近する車両に気付きにくい可能性のあることが示唆される。

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© 2016 一般社団法人 日本交通科学学会
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