日本交通科学学会誌
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高齢運転者の自動車事故刑事裁判例の検討による運転者の法的責任と予防策について
馬塲 美年子一杉 正仁
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2020 年 19 巻 2 号 p. 26-34

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抄録

近年、高齢の免許保有者は増加しており、交通事故発生件数における高齢者率も年々増加している。2017年の道路交通法(以下、道交法)改正で、認知機能検査で第1分類(認知症のおそれあり)と判定された高齢者は、免許の更新時に医師の診断書提出が義務づけられたが、高齢者の事故の原因は、認知症に起因したものばかりではない。そこで、増加する高齢者事故の特徴、および事故を起こした高齢運転者の法的責任を検討し、事故予防策を講じる知見を得ることを目的として、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行後に発生した高齢運転者(65歳以上)による事故の刑事裁判例について検討した。対象は26例で、運転者の平均年齢は76.0±7.4歳であった。3人は、職業運転者であった。何らかの疾患に罹患していた運転者は7人で、認知症、てんかん、糖尿病、心臓病、がん、難聴、白内障であった。事故原因は、不適切な操作(アクセルとブレーキの踏み間違いなど)が9例ともっとも多かった。有罪となったのは23例で、過失運転致死傷が20例、危険運転が2例、道交法違反(酒気帯び)が1例であった。過失運転では、結果の重大性、基本的な注意義務の違反、悪質性が認められるケースでは起訴されて公判が開かれる可能性が高くなる。そしてその結果や注意義務違反・悪質性がとくに重いと判断された事例では実刑判決が下されていた。量刑において、高齢であることや長期間の安全運転経歴が考慮されることもあるが、過失の刑事責任は免れない。また、故意が認められる危険運転では、高齢などの諸状況が考慮される余地は少ないと考えられた。高齢運転者の事故は、認知症患者の免許を取り消すことだけでは解決できない。運転経験を過信することなく、加齢に伴う運転能力の低下を自覚できるようなサポートが必要であろう。また、高齢の就業者が増加するなか、高齢者を雇用している事業者による安全対策も求められよう。

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