酵素抗体法染色を用いて,増殖歯肉と対照歯肉におけるp53タンパク質の発現を調べたところ,Phenytoinによる増殖歯肉7例中4例に,またNifedipineによる増殖歯肉4例中2例の歯肉上皮細胞の核にp53タンパク質の散在的な発現を認めたが,薬物を服用していない患者から得られた対照歯肉5例では明らかなp53タンパク質の発現は認められなかった。増殖歯肉上皮のp53タンパク質発現パターンは,これまで報告されてきた,癌化の初期段階に認められるp53タンパク質発現パターンに類似したものであった。同様にして増殖歯肉の上皮におけるKi-67抗原の発現を調べたところ,Ki-67抗原の発現が対照歯肉に比較して増加している部位が認められた。増殖歯肉のKi-67抗原陽性細胞率は10%以上であり,すでに報告されている異型性のある上皮の所見に類似していた。しかし,粘膜固有層に突出しているrete pegではKi-67抗原の発現は弱かった。歯肉増殖症は一般的に悪性腫瘍ではなく,上皮の異型性も認められていないが,以上の所見は本症と癌化の初期段階との関連性を示唆するものである。