改良DOMACⓇは,口腔衛生の保持増進を目的として開発された素材である.本研究では,口腔内環境に問題を自覚している者のうち舌苔中の細菌数を一定以上認める者を対象に,改良DOMACⓇを含むガムの咀嚼による舌の衛生状態や心理的要因の変化を検討することを目的とした.舌苔中の細菌数が1.00×107CFU/mL以上である被験者55名(男性30名,女性25名)を対照群と処置群の2群に分け,対照食品(改良DOMACⓇを含まないガム)もしくは被験食品(改良DOMACⓇを含むガム)を1日2回(2粒/回)の頻度で4週間摂取させた.その結果,処置群の舌苔中の細菌数は,試験開始時と比べて4週後で有意な減少を示し(p<0.01),対照群の値よりも有意に低くなった(p<0.05).Tongue Coating Indexについても,対照群の値は4週後に有意差がなかったが,処置群の値は4週後に有意に減少した(p<0.05).また,口腔の不快感に関するアンケートについて,どちらの群も,試験開始時と比べて4週後に肯定的な回答の割合が有意に増加したが(p<0.01),群間に有意差はなかった.さらに,心理的要因についても,対照群と処置群の双方ともに,4週後に否定的な気分状態は改善していた(p<0.05).そして,対照群と処置群との比較では,4週後の「抑うつ-落ち込み」の項目について有意差を認めた(p<0.05).本研究の結果は,改良DOMACⓇを含むガムの咀嚼には,舌苔中の細菌数を一定以上認める者の細菌数を減少させ,さらに否定的な心理状態を緩和させる効果があることを示唆している.
口腔の健康状態維持のためには,口腔保健行動が重要である.本研究では,社会的学習理論で提唱されている自己効力感(Self-Efficacy: SE)に着目し,SEが歯の喪失にどのような影響を与えるかについて,建設業従事者を対象に検討した.
2009年から2018年に職域での歯科健診を受診した建設業従事者425名のうち,2009年から2013年のいずれかの時点とその5年後に歯科健診受診歴があり,除外基準に該当しない61名を分析対象とした(男性:54名,女性7名,平均53.68±6.03歳).現在歯数,喪失歯数,Simplified Oral Hygiene Index(OHI-S),Community Periodontal Index,Self-Efficacy Scale for Self-care,定期歯科受診の有無,ブラッシング回数,喫煙の有無を測定指標とし,歯科健診および問診票によってデータを収集した.
5年後の歯の喪失を従属変数とした多変量解析の結果,喪失歯数を従属変数とした場合にブラッシングのSEで有意な標準偏回帰係数が得られた.歯の喪失を防止するためには,ブラッシングに関するSEを高めることの有用性が示唆された.
カチオン化セルロース (以下,CC),カルシウム (以下,Ca)塩およびリン酸塩を配合したフッ化物 (以下,F)配合歯磨剤 [TP-CC+FCaP] のう蝕予防における有用性の検証を目的に,in vitroにて歯面モデルへのF滞留性とその作用機序を検討した.さらにTP-CC+FCaPで処理した歯表層から唾液へのFイオン放出性を検討した.
3種類の試験歯磨剤 (CC+NaF+Ca塩+リン酸塩[TP-CC+FCaP],CC+NaF[TP-CC+F],NaF+Ca塩+リン酸塩 [TP-FCaP])懸濁液を遠心分離し,上清で処理したヒドロキシアパタイト(以下,HAP)ペレットから抽出されたFイオン量を測定した結果,TP-CC+FCaP処理群はTP-CC+F処理群,TP-FCaP処理群よりも有意に多かった.また,F滞留性の機序検証として各試験溶液 (CC+NaF+Ca塩+リン酸塩 [CC+FCaP溶液],CC+NaF[CC+F溶液],NaF+Ca塩+リ ン酸塩 [FCaP溶液])で処理したHAPペレット表面を走査電子顕微鏡で観察した結果,CC+FCaP溶液処理群の表面にのみ付着物が広範囲に確認された.さらにCC+FCaP,FCaP溶液を遠心分離して得られた沈殿物には,X線回折法により非晶質あるいは低結晶性化合物由来のピークが確認された.最後に,各試験歯磨剤で処理したエナメル質ブロックに対して唾液循環を模した条件で人工唾液の滴下・回収を繰り返し,回収した各人工唾液のFイオン濃度を測定した結果,回収2回目以降においてTP-CC+FCaP処理群から回収した人工唾液でTP-CC+F処理群よりも有意に高かった.
以上よりTP-CC+FCaPは多くのFイオンを歯面に留めるとともに口腔内に放出し,従来のF配合歯磨剤より高いう蝕予防効果を示す可能性が示された.
事業所での集団歯科健診 (う蝕と歯周病のスクリーニングおよび保健指導) と歯科医院での個別歯科健診への受診が任意に選択できる某企業の従業員を対象として,2014~2018年度の歯科健診受診状況と2015~2019年度の外来の歯科診療医療費および診療実日数との関係を検討した.2014~2019年度の全期間に,某企業に在籍した従業員2,104名 (男性43.0%,平均年齢37.9歳) を対象とした.目的変数を年平均外来歯科診療医療費または診療実日数,説明変数を5年間の集団および個別歯科健診の受診状況,共変量を性および年齢とした負の二項回帰モデルを用いてrate ratio (RR) とその95%信頼区間 (CI) を算出した.集団および個別の歯科健診を1回以上受診した者はそれぞれ80.0%と2.0%であった.年平均歯科診療医療費では集団歯科健診を5年間に4~5回受診した者のRR (95%CI) は,受診なしの者に比べて0.87(0.77–0.98) と有意に低かった.年平均歯科診療実日数では,個別歯科健診を受診した者と集団歯科健診を4~5回受診した者のRR (95%CI) は,受診なしの者に比べてそれぞれ0.71 (0.51–0.99) と0.86 (0.76–0.97) と有意に低かった.これらの結果から,集団および個別の歯科健診の受診は歯科への受診回数を抑制し,集団歯科健診の継続的な受診は歯科医療費を寄与することが示唆された.
本研究は,糖尿病外来で活用できる口腔管理支援のための看護ガイドを,口腔管理に関する患者教育に使用した後の看護師の認識を明らかにすることを目的とした.日本糖尿病療養指導士の資格をもつ看護師6名に半構造化面接を実施し,インタビューから得られたデータは内容分析を行った.
その結果,次の6つのカテゴリーが抽出された.(1) 口腔管理について学ぶことの重要性に対する気づき,(2) 患者の口腔内の問題の検出,(3) 看護師が口腔管理の実践に関心をもつことの重要性に対する気づき,(4) 口腔管理の実践に対するモチベーションの向上,(5) 口腔管理を実践することの難しさ,(6) 改善が必要な箇所についての指摘.前半の 5 つのカテゴリーはガイドの良い点であり,後半の1つのカテゴリーは改善が必要な点であった.また,参加者は,看護師が口腔管理を実践していくためには看護師に対する支援が必要であると認識していた.看護ガイドは,糖尿病の重症化予防において,口腔管理や外来での患者指導を促進するための重要なツールとなることが期待される.看護師が,看護ガイドを臨床でより使いやすくするためには,より簡単に評価できるアセスメントシートの検討,患者が記入できる口腔内評価表の導入,看護ガイドの看護師の自己学習項目と患者教育用教材の明確化,患者が歯科受診の際に看護ガイドと評価表を持参できるようにするなど,本結果に基づいた修正が必要であると考えられる.