抄録
糖質ならびに各種代用糖のエナメル質の脱灰程度に及ぼす唾液の緩衝能の影響を検討した。改良型エナメル質脱灰装置を,8名の被験者の下顎第一大臼歯頬側部に装着し,口腔内装着後,4日間は,同部の歯口清掃を行うことなくエナメル質切片表層に歯垢の蓄積を促した。4日後,装置を口腔内より取り出し,in vitroにおいて被検溶液50μlまたは被検溶液50μ1+唾液50μlを直接装置上に,8時間ごとに3回滴下し,37℃で24時間培養を行った。被検溶液には,10%ショ糖溶液,10%カップリングシュガー溶液,10%パラチノース溶液および10%ソルビトール溶液を用いた。エナメル質薄切切片(100μm)は,Microradiographによって脱灰程度を評価した。唾液を作用させることによる脱灰程度への影響は顕著であり,唾液を作用させた場合,パラチノース+唾液作用群とソルビトール+唾液作用群の間には,統計学的有意差は認められなかったが,糖質単独作用群と唾液作用群の間では統計学的有意差が認められた(p<0.01)。本研究より,唾液を作用させることにより,エナメル質脱灰能が低下する要因としては,唾液のもつ緩衝能に由来するものと推察された。