口腔衛生学会雑誌
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原著
パーソナライズド・カリエス予防(PCP)プログラムへのアクセスは歯科医師によって決定される:日本におけるPCP現利用者と潜在的利用者を対象とした横断研究と彼らのカリエスリスクの知識
西 真紀子熊谷 崇ウェルトン ヘレン
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2016 年 66 巻 4 号 p. 399-407

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抄録

 リスク評価(CRA)に基づき,患者個人にカスタマイズドしたう蝕予防,つまりパーソナライズド・カリエス予防(PCP)は日本人にまだ新しい医療サービスである.Rogersのイノベーション普及理論によると,普及の初期段階のキーパーソンは,イノベーションについての知識が高いとされている.われわれは,PCPプログラムへのアクセス困難が,この新しいプログラムの普及を妨げていると仮定した.アンケート調査による本横断研究の目的は,う蝕と歯周病のリスク評価を促進することを目的としたあるNPO 法人(PSAP)を通した成人(20 歳以上)を対象に,(1)PCP 利用者の割合を調べ,(2)PCPプログラムを受けていない理由をまとめ,(3)カリエスリスクについての知識がPCPへのアクセスと関係しているかを決定することにより,この仮定を調査することである.被験者はPSAPの初期の賛同歯科医院会員の患者(グループA:N=389),新規の賛同歯科医院会員の患者(グループB:N=78),新規一般会員(グループC:N=68)とした.主要なアウトカム変数は,患者によるPCPプログラムの利用,PCPプログラムを受けていない理由,選ばれたカリエスリスクファクター/インディケータの合計と,8つのリスクファクター/インディケータを選んだ回答者の割合である.

 グループAはPCPプログラムの利用率が最も高く(83.0%, 99% CI: 71.4–94.7),グループB (59.0%, 99% CI: 21.8–96.1),グループC (27.9%, 99% CI: 13.4–42.5)と続いた.グループAとCには,統計学的有意差があった(p<0.01).PCPプログラムを受けていない最も多い理由は,グループAB(グループAとBの混合)で"それについて知らなかった"(68.4%),グループCで"かかりつけ歯科医がしてくれない"(53.1%)だった.彼らはグループABのPCP非利用者よりカリエスリスクの知識が高く,リスクファクター/インディケータの中にはグループABのPCP利用者よりもよく知っているものもあった.これらの知見を一般化すると日本における潜在的なPCP利用者は,彼らの歯科医師がこのサービスを提供していないためにPCPプログラムへアクセスする機会がないのだろう.

 結論として,PCPプログラムへのアクセスは,歯科医師が提供しているサービスに決定され,患者の知識はPCPへのアクセスに関係なかった.日本において社会決定要因へのアプローチを通してPCPプログラムの利用可能性を高めるために更なる努力が必要である.

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© 2016 一般社団法人 口腔衛生学会
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