抄録
著者らの研究グループが計画している歯質崩壊実験の一環として, 酸性域でのEDTAによるエナメル質の崩壊過程を連続的に観察した。実験方法は, 石井, 吉田, の考案したsandwich methodに準じたが, その概要は, 次の通りである。約30μの平行薄切片を, スライドおよびカバーグラス間に, エナメル質表面のみ露出させた状態で, 接着剤 (Polyvinylmethylether) を用いて接着し, このエナメル質表面に, 脱灰液を作用させ, 生ずる変化を顕微鏡下で連続的に観察するものである。脱灰液としては, 0.01M EDTA 2Na溶液 (pH4.8) を用い, 流通速度は約1mm/5minである。生づる変化過程を位相差顕微鏡で観察し, 且つ記録は16m/m自動微速度撮影装置でおこなった。一方, エナメル質内層における崩壊patternを有機酸脱灰の場合と比較するために, 1/10N酢酸酢酸ナトリウム緩衝液 (pH5.0) を用いて前記と同様脱灰した。両者ともに脱灰後の切片についてcontact-法により, microradiogramを撮影した。結果の要約は次の通りである。
1) エナメル表層における, attack-entryとしては, 1~2μ幅の小細管, Retzuis線末端および一部の小欠損部をあげることができる。これは, 既に報告した酢酸脱灰の場合と同じである。
2) 崩壊の広がり方は, 酢酸脱灰に比べるとかなり急速である。
3) 崩壊の程度も, 酢酸脱灰に比べると遙かに強い。そのためprismless layer, 又はRetzius線等は, 崩壊patternに, ほとんど影響を及ぼさない。且つ歯質の再石灰化機構をもかなり損傷することが推測された。