抄録
第1回 (1957年) から最近 (1981年) 迄の6年目毎に実施される厚生省歯科疾患実態調査報告より算出すると, 日本人の歯牙は, 乳歯, 永久歯共に, 前歯では上顎の方が, 各々同じ部位の下顎の歯牙よりも, う蝕による疾患歯が多い傾向である。この傾向が何に起因しているのか, 未だ明確ではないものと思われる。そこで今回, 上顎と下顎の歯質の差異を, まず, 日本人脱落乳歯の咬耗と硬度の検索を通して探ってみたものである。方法は, 対象とした脱落乳歯を新たに考案した咬耗基準度で分類するとともに, 切断面を硬度計で測定した。その結果, 上顎乳前歯は下顎乳前歯より咬耗度の価が高く, 硬度の価は逆に, 下顎乳前歯の方が上顎乳前歯よりも高い傾向であるという知見を得た。この事は, う蝕の罹患傾向となんらかの関係があるのかも知れない。