口腔衛生学会雑誌
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フッ素摂取量とラット母獣・新生仔の血漿および骨フッ素濃度に関する研究
渡辺 猛
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キーワード: フッ素, 血漿,
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1985 年 35 巻 5 号 p. 721-737

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抄録

低フッ素摂取環境下で, 母獣ラットの摂取したフッ素が胎仔に移行する様相を検討した。
ウィスター系ラットに低フッ素飼料 (F=0.3ppm) と蒸留水を与えて繁殖させた。次代の雌ラットを離乳後, 飼料と飲料水のフッ素濃度差によって9群に分けた。すなわち, 低フッ素飼料と蒸留水および0.1~10ppmのフッ素濃度の飲料水を投与した8群を0, 0.1, 0.2, 0.5, 1, 2, 5, 10ppm群とし, 普通飼料 (F=33ppm) と水道水 (F≒0.1ppm) を投与した群を水道水群と呼んだ。これら各群のラットを交配させ, 出産直後に母獣の血漿と大腿骨, 新生仔の血漿と下肢骨を試料として採取した。これらの試料について, 母獣と新生仔の血漿無機フッ素濃度と骨フッ素濃度を拡散・電極法で測定した。さらに, 母獣の血漿総フッ素濃度を灰化・拡散・電極法で測定し, フッ素摂取量とこれらフッ素濃度との関連を検討した。
母獣の血漿無機フッ素濃度と総フッ素濃度は, 互いに近似した値を示した。母獣の血漿無機フッ素濃度は, 0~1PPm群で2~4ppbの一定レベルにあり, 1~10ppm群と水道水群で4ppbから74ppbに変化し, フッ素摂取量に応じて上昇した。新生仔の血漿無機フッ素濃度は全群を通じて2~6ppbのレベルにあった。母獣と新生仔の骨フッ素濃度は, 各々7ppmから763ppmに, 7ppmから56ppmに変化し, フッ素摂取量に応じて上昇した。
0~1ppm群におけるフッ素摂取量と新生仔の骨フッ棄濃度の関連から, 低フッ素摂取環境下でラットの胎仔に移行するフッ素量は, 母獣のフッ素摂取量を反映することが認められた。これより, ラットの胎盤において, フッ素は単純拡散し受動輸送されると考えられる。また, 約3ppbの血漿無機フッ素濃度は, 血漿中に最低限必要とされる濃度かもしれない。
ラットの血漿中有機フッ素の存在は, 確認できなかった。

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