環境化学
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報文
顕微ラマン分光法による大気中マイクロプラスチックの試験的調査
佐々木 博行髙橋 司二見 真理遠藤 智美平野 瑞歩小竹 佑佳
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2024 年 34 巻 p. 61-70

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要約

大気中マイクロプラスチック(AMPs)の存在が近年明らかとなったが,現状では未解明の点が多く,調査手法の確立および実態解明が喫緊の課題である。本研究では,感度や空間分解能に優れる顕微ラマン分光法を使用したものとしては国内で初のAMPs調査として,4地点(新潟曽和および川崎(都市),笠堀ダム(田園),小笠原(遠隔))における存在状況の把握を試みた。その結果,精度管理下においてAMPsが検出された(n=32)。AMPsの大気中個数濃度は 0.52±0.24 MPs m-3,種類はポリエチレン(PE),プラスチック樹脂(RES),ポリアミド(PA)の順に多く,粒径(フェレ径)は 7.6±3.7 μm,形状はいずれも粒子または破片状であり,既往研究の報告と矛盾しなかった。2023/11/14~12/12にかけて実施した集中観測(新潟曽和,川崎,笠堀ダムの並行測定)の結果から,地点間の平均濃度水準は概ね同等だが,週別変動は都市と田園とで異なる推移を示した。気象場や捕集地点の立地状況,潜在的な発生源の違いが結果に与えた影響は不明確だが,清浄な大気環境下でもプラスチック汚染のおそれがあると考えられた。手法の精度のさらなる向上およびその確立,他の大気汚染物質を含め観測データの蓄積による検証が必要である。

Summary

The presence of atmospheric/airborne microplastics (AMPs) has become apparent in recent years, but there are still many unresolved issues, and establishing investigation methods and understanding the actual situation are urgent tasks at present. In this study, we attempted to assess the presence of AMPs in the environment at four different sites, namely Niigata-sowa and Kawasaki in urban areas, Kasahori Dam in rural area, and Ogasawara in remote area, making it the first domestic investigation of AMPs using micro-Raman spectroscopy (μRaman), which excels in sensitivity and spatial resolution. As a result, AMPs were detected under quality control and assurance (n=32). The atmospheric concentration of AMPs was 0.52±0.24 MPs m-3, with polyethylene (PE), plastic resin (RES, including epoxy and phenoxy resin), and polyamide (PA) being the most common types in that order. The particle size (Feret diameter) was 7.6±3.7 μm, and the shapes were particles or fragments, both of which were consistent with previous studies. Results from the intensive sampling conducted from 2023/11/14 to 12/12 (parallel measurements at Niigata-sowa, Kawasaki, and Kasahori Dam) showed little difference in the averaged concentration levels between the sites, while weekly fluctuation of AMPs concentrations showed different trends between urban and rural areas. Although differences in the effects of meteorological conditions, sampling site locations, and potential sources on the weekly fluctuation were not very clear, there was concern about plastic pollution even in clean atmospheric environments. Further improvements in method accuracy and verification through accumulation of observation data including other air pollutants (e.g., particulate matter) are essential.

1. はじめに

プラスチック製品はその誕生から現在まで,人類に便益をもたらしてきた。一方で,年間約800万tが海洋流出しているという世界経済フォーラムの試算1が示すように,プラスチックごみの問題は気候変動とともに喫緊の課題となっている。なかでも,5 mm以下の微細なプラスチック片と定義されるマイクロプラスチック(以下,MPs)は,世界の海洋に5兆個以上存在すると報告されており2,汚染は深刻な状況であると考えられる。MPsそれ自身に加え,付着する有害物質も生態系や人体に悪影響を及ぼすとの懸念から,日本学術会議は積極的な研究推進への提言を実施した3

海洋MPsに関する調査研究が進展し,またその機運が醸成される中,2016年に大気中に浮遊するMPsの存在が初めて報告された4。このようなMPsは“Atmospheric/Airborne Microplastics(AMPs)”と呼称され,海洋等のMPsと区別されている。AMPsは都市域に限らず,山岳域での検出事例も報告されており5,6,発生源からの輸送により大気中に滞留し,雲底下洗浄を経て7降水等とともに地表に沈着するという,他の大気汚染物質と似たような循環モデルが考案されている8。また,5 mm以下の微細なプラスチック片(固体)というMPsの定義,さらに呼吸器への吸入性を有する点から,AMPsは粒子状物質(Particulate Matter; PM)の一種である7,またはPM中に含有されている可能性が指摘されている9。呼吸によるヒト細胞・DNA等へのダメージ10のほか,動植物相への影響も懸念されており11,AMPs研究の進展は喫緊の課題である。

しかしながら,AMPsの最初期の報告4は前述のとおり2016年と,海洋MPsの研究と比較して新しく,MPs研究全体の中でAMPsの報告事例は2021年時点で約13%(約20例)と少ないこともあり7,各々の既往研究では採用されている手法が異なっている。一例として,ポンプによる大気吸引の有無(アクティブ/パッシブサンプリング),夾雑物の除去を目的とした前処理の有無またはその方法,プラスチックかどうかを同定判別するための機器(走査型電子顕微鏡(SEM),フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR),ラマン分光光度計など)の種類などが該当する。Revell et al.12が比較した既往研究のAMPsの測定データは,アクティブサンプリングに限定されるにもかかわらず,大気中濃度換算で 0.01~5,650 MP m-3 と6桁オーダーの開きがあり,地点間の濃度差を考慮しても手法間の誤差は無視できないと考えられる。したがって,AMPsの測定手法を確立および統一することが,本研究分野の進展,とりわけAMPsの健康等へのリスクを正確に評価するためには重要である13

また,日本国内におけるAMPsの測定事例はさらに限定されるが,大河内らは新宿や富士山頂などでのAMPsの検出例を報告している13,14。これらの報告では,試料の有機・無機系の夾雑物を除去するための前処理工程の後,顕微FT-IR(μFT-IR)による同定判別が実施されている。一方,分光法の1つである顕微ラマン分光光度計(以下,顕微ラマン;μRaman)を同定判別に用いる手法は,既往研究でも広く採用されており5,6,15,16,さらに顕微FT-IRなどの手法に比べて空間分解能および感度の点で優れているという特性がある15,17,18,19。日本国内をフィールドとしてAMPsを測定したもののうち,顕微ラマンを同定判別のために採用したという報告は現時点ではなく,同機器をベースとした手法による調査は,国内のAMPsの存在状況に関して重要な知見をもたらす可能性があると考えられる。

そこで,AMPsの測定手法確立に向け,前述のような様々な利点を有する顕微ラマンの使用を前提とした手法を考案すること,またその手法により国内の様々な地点属性(都市,田園,遠隔)におけるAMPsの個数濃度や粒径,種類などの特徴を把握することを目的として本研究を実施したので,その結果について報告する。

2. 調査方法

2.1 概要

Fig. 1 に本研究で採用した調査方法の概要を示した。なお,詳細は次節以降に記載する。

Fig. 1 The outline of the measurement methods adopted for this study

2.2 捕集工程(active sampling phase)

調査は新潟県保健環境科学研究所敷地内(以下,新潟曽和),(一財)日本環境衛生センター総局ビル屋上(以下,川崎),国設小笠原酸性雨測定所建屋屋上(以下,小笠原),三条地域振興局地域整備部笠堀分室建屋屋上(以下,笠堀ダム)の計4地点で実施した。Fig. 2 に調査地点の緯度・経度,属性,地表面からの捕集面高さ,川崎と笠堀ダムについては地点周辺区域の航空写真を併せて示した。なお,地点の属性は東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の技術マニュアル20に従い,小笠原を遠隔(Remote),笠堀ダムを田園(Rural),新潟曽和および川崎を都市(Urban)の属性と分類した。航空写真を見比べると,都市の川崎では住宅やビルに囲まれ,近傍には幹線道路もある一方で,田園の笠堀ダム周辺は森林や河川,水田などが広がっており,属性によって周辺環境が明確に異なっている。新潟曽和の近傍にも同じく幹線道路があり,これにより都市の属性としている。また,新潟曽和,川崎,小笠原は海洋までの直線距離がそれぞれ約 3.2 km,1.4 km,0.5 kmであり,気象場によっては海洋の影響を受ける可能性がある。一方,笠堀ダムは約 50 mというごく近傍にダム貯水池および水力発電所がある。

Fig. 2 The location, longitude, latitude, sampling height above the ground and attribute of each sampling site

(Satellite images of Kawasaki and Kasahori Dam were also attached.)

捕集時はフィルターホルダー(SIBATA, TF-4;有効面積φ40 mm)にPTFEろ紙(ADVANTEC, T080A047A, 0.8 μm孔径)を挟み込み,金属製の風防内に設置した状態で,流量 10~20 L/min(20°C換算),72~168時間連続で大気吸引した。なお,1検体あたりの大気総吸引流量が 70 m3 を下回ると汚染による影響を受けやすいという報告21から,これを下回らない設定とした。吸引は流量制御が可能なローボリウムポンプ(SIBATA, LV40BR, LVS-30),または汎用のローボリウムポンプ(ULVAC, DA-60Sなど)とマスフローメーター(azbil, CMS0050BSRN200000など)の組み合わせにより行った。

2.3 前処理工程(sample preparation phase)

既往研究14,22,23,24を参考として,クリーンルーム(AIRTECH, APB-558S)内で綿100%の白衣,および綿またはニトリルゴム製の手袋を着用のうえ以下の手順で実施した。2.2で得られた捕集後のろ紙,超純水 20 mLをガラス遠沈管に入れ振とう器(TAITEC, SR-1D)により振とう抽出し(120分,130 rpm),遠沈管内の溶液,および接液したガラス器具を超純水で4~5回共洗いした溶液をすべて親水性PTFEろ紙(ADVANTEC, H050A025A, 0.5 μm孔径)で減圧ろ過した。このろ紙を,30%過酸化水素水 20 mLと共に同じ遠沈管に入れ,加温撹拌した後(60°C,24~48時間),新しい親水性PTFEろ紙で遠沈管内の溶液,および接液したガラス器具を超純水で4~5回共洗いした溶液をすべて再び減圧ろ過した。このろ紙を 5.3 Mに調製したヨウ化ナトリウム溶液 30 mLと共に同じ遠沈管に入れ,同じ振とう器で振とうした後(120分,150 rpm),遠心機(HITACHI, himac CT6D)により遠心分離を行った(60分,2,500 rpm)。60分以上静置後,上澄み液 15 mLをアルミナ製ろ紙(Cytiva, Whatman®, Anodisc® 25, 0.2 μm孔径)によりこの上澄み液,および接液したガラス器具を超純水で4~5回共洗いした溶液をすべて減圧ろ過し,デシケーター内で十分乾燥させたものを2.4における測定用試料とした。ただし,遠心分離後のヨウ化ナトリウム溶液は,液面が波立つと比重の大きい夾雑物が上澄み側(AMPsの存在する層)に舞い上がるおそれがあることから,遠沈管を共洗いしなかった。

試料がこのような前処理工程を経ることで,有効ろ過面積がφ40 mmからφ4 mmまで濃縮されている。併せて,本工程によりプラスチックではない有機物や無機物,さらにプラスチック表面のバイオフィルムの除去が行われ,以後の顕微ラマンによる測定精度が向上すると考えられる5,14。一方で,Hurley et al.25は60°Cまたは70°Cの30%過酸化水素水に曝露した際,70°Cの条件下の方が有機物の分解能が高い一方でプラスチックの回収率が低下し,プラスチック表面の損傷状態(クレージング)がより顕著であることを報告している。これらのことを踏まえ,本研究では,AMPsが比較的損傷を受けにくい条件であることを優先し,前述のとおり60°Cの30%過酸化水素水による有機物分解を実施することとした。

2.4 同定判別工程(plastic detection phase)

レーザラマン分光光度計(JASCO, NRS-3100;以下,顕微ラマン)を用いて,Table 1 に示した測定条件の下でラマンスペクトルの測定を行った。顕微ラマンでは前述のとおり空間分解能や感度における優位性があり,特に粒径が 20 μm未満のAMPsに対する検出能力は顕微FT-IRに比べて優れており26,2.5 μm未満のAMPsに対しては分光法としては唯一の選択肢となる15

Table 1 Conditions and settings of the measurement(meas.)of Raman spectroscopy adopted for this study

ただし,顕微ラマンの測定にあたっては,レーザー照射に伴う試料へのダメージと,蛍光発色によるスペクトルの妨害の2点が懸念される17。試料へのダメージの対策としては,照射するレーザー出力を25%まで減光し(OD0.6),問題なく測定できたことを確認したうえで,段階的に50%減光(OD0.3),減光なし(オープン)とすることで,ダメージの軽減を図った。本研究ではOD0.6で測定した場合,スペクトルの変化が生じるような試料へのダメージはいずれも確認されなかった。また,蛍光発色については,分光器スリットの絞りを小さいピンホール状に切り替えることで発生の抑制や妨害の軽減を図った。ただし,借用した顕微ラマンの制約上,レーザーの励起波長を変えることが困難であったことから,蛍光発色の影響は完全に除外されていないと考えられ,本研究の結果は潜在的に個数の過小評価のおそれがある。

手法としては,実視野画像内(80 μm×110 μm)に写るすべての粒子または繊維に対し,2,850 cm-1 付近に現れるC-H伸縮のピークの有無を確認し,同ピークが現れたものを対象に広帯域スペクトルを測定する,というスクリーニングを実施した。なお,1検体当たりの視野数を50とし,実視野画像の取得および粒子または繊維の粒径(実粒径(長径)および円筒直径(短径))の計測は,顕微ラマンに付属のソフトウェアの機能により行った。有効ろ過面積φ4 mmに対する実視野面積の占める割合は0.070%で,重複なく50視野を確認した場合は3.5%に相当する領域が同定判別の対象となる。有効ろ過面状に均一に分布していると仮定して個数のカウント,および後述するように大気中濃度の計算を行ったが,不均質に分布している場合はばらつくため,本研究の結果は潜在的に不確実性をはらんでいる。なお,確認する視野の重複を避けるため,視野を移動する前に画像データ化して都度参照するともに,アスベストモニタリングマニュアル27に準じて規則的に一定の方向に視野を移動し,測定を行った。

得られたスペクトルデータをスペクトルライブラリ(Wiley, KnowItAll, およびSLoPP, SLoPP-E28)に照合し,Hit Quality Index(HQI)が75以上かつプラスチック類が最上位でヒットしたとき,当該プラスチックであると同定した。なお,HQIはスペクトルの一致性の指標であり,100が完全一致,0が完全不一致を意味する。

また,AMPsの大気中濃度(個数濃度)については,Eq. 1 により算出した。

  
C= n× S f V× S r ×N (Eq.1)

ここで,各パラメーターが示す意味は以下のとおりである。

 C:大気中濃度[MPs m-3

 n:同定されたAMPsの個数[MPs]

 Sf:有効ろ過面積(φ4 mm)[m2

 V:総大気吸引流量(20°C換算)[m3

 Sr:顕微ラマンの1視野当たりの面積[m2

 N:顕微ラマンで測定した検体あたりの視野数

ただし,顕微ラマンにより測定可能な最小の試料径(空間分解能)は 1 μm程度であるため15,17,本研究では粒径 1 μm未満の微小な浮遊プラスチック粒子(Atmospheric/Airborne Nanoplastics; ANPsと一般に呼称され,AMPsと区別される)を対象外とした。

さらに,AMPsがいずれも円柱状の繊維または粒子であると仮定して,空気動力学径をEq. 2 により近似的に算出した6,29

  
D a ( d c ln2β ) 1/2 D c (Eq.2)

ここで,各パラメーターが示す意味は以下のとおりである。

 Da:空気動力学径[μm]

 dc:AMPsの密度[g cm-3

β:長さ(長径)に対する円筒直径(短径)の比(アスペクト比)

 Dc:円筒直径(短径)[μm]

ただし,dcはプラスチックの種類により取りうる値が異なることから,参考資料30,31,32に基づいて検出されたAMPsの種類ごとに代表値を定め,それぞれTable 2 に示した。ただし,共重合体(コポリマー)の密度については,各ホモポリマーが同じ割合存在すると仮定して,両者の密度の算術平均により求めた。

Table 2 List of each acronym, density, and name of plastics

2.5 精度管理

精度管理として,操作ブランクの確認および定性的な回収確認試験を以下のとおり実施した。なお,トラベルブランクによる移動や試料交換時の汚染の有無については,本研究では確認しなかった。

2.5.1 操作ブランク

未使用の捕集用ろ紙を 50 mLガラス遠沈管に入れ,通常の環境試料と同様に2.3および2.4の操作を行った(n=3)。

2.5.2 回収確認試験(定性)

ポリスチレン(PS)製のマイクロビーズ入り懸濁液(Polysciences, Polybead Microspheres, 10.0 μm, 2.5%)を 1,000 MPs mL-1 程度に調製し,この希釈した懸濁液 1 mLを未使用の捕集用ろ紙とともに 50 mLガラス遠沈管に入れ,通常の環境試料と同様に2.3および2.4の操作を行った(n=3)。ただし,懸濁液の希釈調製および添加時にマイクロビーズがホールピペットの内壁に付着することなどにより,一定量のマイクロビーズを安定的に添加することが技術上困難であったため,本研究では添加回収率を求めず,アルミナ製ろ紙上のマイクロビーズの有無を定性的に確認することとした。

3. 結果と考察

3.1 精度管理用試料について

3.1.1 操作ブランク

操作ブランク用の検体(n=3)からはいずれもAMPsが検出されなかった。したがって,2.3および2.4の工程における汚染の影響は軽微であると考えられた。

3.1.2 回収確認試験(定性)

Fig. 3 にスペクトルライブラリにおけるPSのラマンスペクトル(上段;橙色),回収確認試験用検体の測定により得られたラマンスペクトル(下段;黒色)を示した。ここで横軸は波数,縦軸は吸光度を示しており,本稿ではスペクトルの表示方法は以後同様とする。HQIが90以上と両者のスペクトルの一致性が高いこと,1,000 cm-1 付近にあるベンゼン骨格由来のブリージング振動およびC-H面内変角振動というPSに特徴的な2つのピーク33が認められること,同粒子の粒径(10.3 μm)が添加したビーズの粒径(10.0 μm)と概ね整合することから,この粒子は添加したPS製マイクロビーズであると認められた。また,本試験を実施した3試料すべてから同様のPSが検出された。

Fig. 3 Comparison of the spectra between polystyrene(PS)from the Raman spectra libraries(upper, orange)and the one obtained by measurement of added standard plastic beads(lower, black)

以上のことから,本研究で採用した2.3および2.4の手法は 10 μm程度の粒径のAMPsに対して有効であると考えられた。ただし,さらなる精度の向上のため,定量的に評価できる手法を考案したうえで添加回収率を計測することが必要と考えられた。

3.2 環境試料について

3.2.1 試料全般について

Table 3 に本研究で検出されたAMPs(n=32)の種類,粒径(実粒径;フェレ径),大気中濃度の一覧を地点および捕集期間ごとに整理して示した。ただし,2022/4/11~14に採取した検体は前処理工程における有効ろ過面積が他の検体より広く(φ16 mm),比較が困難であるため,大気中濃度を参考値とした。また,表中の“N/A”は捕集が行われなかったことを意味している。2023/11/14~12/12の間は集中観測期間として,新潟曽和,川崎,笠堀ダムの3地点における並行測定が実施された。さらに,Table 3 で使用されている略語と対応するプラスチックの名称,および密度の代表値をTable 2 に,検出されたAMPsの種類とその割合をFig. 4 にそれぞれ示した。なお,日本におけるAMPsの存在状況についての研究報告のうち,顕微ラマンを採用したものは確認できる限りで本稿が初である。

Table 3 List of kinds, size, and air concentrations(concs.)of AMPs collected and detected in this study(sorted by each site and sampling(spl.)period)

*1 Acronyms and their meanings are listed in Table 2.

*2 The concentration is treated as a reference value, since the filtering area during the sample preparation phase was different from that of other samples.

*3 “N/A” means sampling was not carried out.

*4 The intensive sampling was carried out from 14 Nov. to 12 Dec., 2023, where the parallel measurement of Niigata-sowa, Kawasaki, and Kasahori Dam was conducted as well.

Fig. 4 The profile of all the AMPs detected in this study(n=32)

*Acronyms and their meanings are listed in Table 3.

大気中濃度については,すべての地点および期間を通じた平均値が 0.52±0.24 MPs m-3 だった。Revell et al.12が比較したアクティブサンプリングに基づく既往研究の調査結果15,16,34,35,36,37,38,39,40,41は 0.01~5,650 MP m-3(n=13,中央値は 2.9 MP m-3)であり,本研究はいずれもこの濃度の範囲内であった。一方で,本研究と同じ顕微ラマンを使用し,かつ対象とする粒径の範囲が 1 μm以上である報告15に限ると,2.1~10.3 MP m-3(n=2)であった。ただし,10.3 MP m-3 は砂塵の多い環境時の結果であるため除外し,一般環境下の値である 2.1 MP m-3 と比較すると本研究の結果はやや低いが,データ数が不十分であり評価は困難である。

また,AMPsの種類については,ポリエチレン(PE;37.5%)が最多で,次いでプラスチック樹脂(RES;エポキシ樹脂,フェノキシ樹脂を含む;15.6%),ポリアミド(PA;12.5%)が占め,この上位3種類で全体の3分の2を占めた(Fig. 4)。また,他に検出されたAMPsはポリビニルアルコール(PVA;9.4%)やポリプロピレン(PP;3.1%),ポリエチレンテレフタラート(PET;3.1%)などで,いずれも汎用プラスチックだった。AMPsの種類の内訳については既往研究間でも差異はあるが,PEは2022年の日本国内におけるプラスチック生産量のうち約4分の1を占め最多であり42,またPE,RES,PAはいずれも既往研究での検出事例の報告があることから15,40,43,44,これらの点で整合性が認められた。一方,大河内ら13の国内調査の結果では,PPやPETが多く占めており本研究の種類の内訳と大きく異なっていた。大河内らが採用している顕微FT-IRと顕微ラマンとでは得意とする官能基が異なり,前者ではカルボニル基(C=O),ヒドロキシ基(OH),アミノ基(NH),後者では二重結合(C=C)のピークが比較的高く現れる17。また,環境中試料は紫外線等により劣化が生じることがあるが,ポリマーの劣化によりC=O,OH,カルボキシ基(COOH),二重結合等の官能基が変化する45。さらに,空間分解能の違いにより,顕微FT-IRと顕微ラマンとでは対象とする粒径範囲が異なる。したがって,両研究の種類の差異の一因として,測定法の特性の違いや試料の劣化の度合い,粒径分布の違いが挙げられると考えられた。

粒径(実粒径;フェレ径)については,すべての地点および期間を通じた平均値が 7.6±3.7 μmで,近似的に求めた空気動力学径については,頻度分布において 4.0~6.0 μmの階級を最頻値とする一山型を示した(Fig. 5)。ただし,このことは試料の逸失がない,あるいは逸失率が粒径に依存しないという前提に基づくため,粒径により逸失の程度が異なれば,異なる分布を示す可能性がある。前述のRevell et al.12は 15~250 μmの間に典型的な分布が見られることを報告しており,本研究の粒径分布よりも大きい。ただし,同定判別の手法を顕微ラマンに限定すると,Allen et al.5は繊維状,粒子状のAMPsについてそれぞれ粒径別の存在割合を示しているが,このうち粒子状のAMPsでは 25 μm未満の階級が過半数を占める。また,Levermore et al.35は 5~10 μmの階級が52.5%,11~20 μmの階級が35.0%を占めることを報告しており,両研究で共通して,より小さい粒径域で個数濃度が大きくなる傾向を示した。一方,Morioka et al.46は熱分解GC/MSを用いた手法により,空気動力学径が 0.43~0.65 μmまたは 0.65~1.1 μmの分画において,質量濃度から推計される個数濃度が最も多いことを報告しており,顕微ラマンを用いた同定判別法の結果よりも小さい。分光法による粒径の空間分解能(検出下限値)は,機差はあるものの,顕微FT-IRは 10~20 μm程度17,26,顕微ラマンは 1 μm程度であるが15,17,26,熱分解GC/MSの検出下限値は一般的にこれより小さく,前述のMorioka et al.はアンダーセンローボリュームエアーサンプラーの最小捕集粒径である 0.43 μmを下限値としている46。したがって,研究間の粒径分布の差異は,採用する同定判別の手法が異なることが一因であり,本研究の結果は顕微ラマンを採用した他の既往研究と整合すると考えられた。

Fig. 5 Histogram of approximately calculated aerodynamic equivalent diameter of AMPs detected in this study(n=32)

形状については,WHOのガイドライン47を準用し,長径・短径のアスペクト比が3:1より大きいことを繊維状であることの判断基準とする既往研究が多いが34,48,この定義に合致するAMPsは本研究では確認されず,確認されたAMPsはいずれも粒子または破片状だった。既往研究では繊維状のAMPsの占める割合が多いことが報告されている一方で38,43,44,粒子または破片状のAMPsの方が多いとの報告もあり5,14,15,49,両者が混在している。Table 4 にこれらの報告と本研究におけるアクティブ/パッシブサンプリングの別,前処理の有無とその方法,同定判別手法および占める割合が多い形状(繊維状または粒子・破片状)を一覧で示した。ここで,観察による同定手法(Visual Observation)とは,ナイルレッド等の蛍光性の染料をMPsに塗布し,蛍光顕微鏡により蛍光発色した試料を観察する手法15,43,50である。Table 4 に示した研究のうち,粒子状のAMPsが多いとする報告ではいずれも試料に対する前処理を採用しており,特に本研究で採用した過酸化水素水による有機物分解,ヨウ化ナトリウム等による比重分離および遠心分離の手法は,繊維状のAMPsが多いとする報告では採用されていなかった。このことから,繊維状または粒子・破片状の多寡の傾向は,採用する手法の違いにより異なる可能性があると考えられた。

Table 4 List of difference in active/passive sampling, use/disuse of the sample preparation phase, types of adopted detection methods, and dominance in shape, regarding the past studies and this study

*1 Samples are stained by dyes(e.g., Nile Red), and fluorescently labeled MPs are observed by a fluorescence microscope50.

以上より,本研究で検出されたAMPsの大気中濃度,種類,粒径,形状について,既往研究等との報告との矛盾はないと考えられた。また,前処理の有無や同定判別法の違いによる粒径分布や形状の内訳が異なることから,AMPsの調査研究における確立手法の必要性がより強調されたと考えられた。

3.2.2 測定地点別の試料について

以下では,主に2023/11/14~12/12に実施された集中観測(新潟曽和,川崎,笠堀ダムにおける並行測定)の結果に基づき,捕集地点の差異について論述する。地点ごとの試料数は4と少ないため慎重な議論を要するが,前述のとおり顕微ラマンによる国内のAMPsの測定事例がないことに鑑み,本稿では速報的に結果を示すことを優先した。なお,気象データについては,観測地点に設置の風向風速計および雨量計(笠堀ダム),または最寄りのアメダス局(新潟曽和:アメダス巻局,川崎:アメダス羽田局)の風向風速計および雨量計の値をそれぞれ用いた51Table 5 に大気中濃度と気象パラメーター(最大瞬間風速,積算雨量)の相関係数を地点別に示した。また,Fig. 6 に検出されたAMPsのスペクトルと実視野画像の例として,PE(笠堀ダム,2023/11/14~21に採取)とPA(笠堀ダム,2023/11/21~28に採取;ナイロン6とナイロン6,6の共重合体)を示した。両者ともHQIが85を超えて参照スペクトルとの一致性が高いことから,AMPsであると同定判別された。3.2.1で述べたように,形状はいずれも粒子または破片状を呈しており,粒径はμmオーダーだった。

Table 5 Correlation coefficients between AMPs air concentrations and meteorological parameters at each site during the intensive sampling period

Fig. 6 Examples of spectra and real images of detected AMPs in this study: polyethylene(PE)and polyamide(PA; copolymer of Nylon 6 and Nylon 6,6)

* upper, orange spectra: references from the Raman libraries; lower, black spectra: obtained by measurement of samples

集中観測期間を通じた大気中濃度は,新潟曽和が 0.42±0.16 MPs m-3,川崎が 0.50±0.26 MPs m-3,笠堀ダムが 0.57±0.37 MPs m-3(いずれもn=4)であり,地点や属性ごとに明確な差は現れなかった。一方,試料単位(日付が古いものから順にNo. 1~No. 4 と呼称する)の濃度に着眼すると,新潟曽和と川崎はともにNo. 1 とNo. 2 で低く,No. 3 とNo. 4 で高いという推移を示したのに対し,笠堀ダムではNo. 1 が最も高い値を示すという異なる推移を示した(Fig. 7)。

Fig. 7 Weekly fluctuations of AMPs air concentrations(concs.)at three different sampling sites(Niigata-sowa, Kawasaki, Kasahori Dam)during the intensive sampling period

AMPsの発生源候補としては,道路交通,海洋,土壌,廃棄物の埋立,施肥,長距離輸送など多岐に渡るが7,52,新潟曽和と川崎はいずれも都市の属性で幹線道路が近傍にあること,海洋までの直線距離がそれぞれ約 3.2 km,1.4 kmであること,波飛沫の巻き上げにより海洋MPs由来のAMPsが生成されるという既往研究の報告16,52を踏まえると,道路交通および海洋が潜在的なAMPsの発生源である可能性が考えられた。川崎では2022/7/11~14にポリフェニレンサルファイド(PPS)が検出されているが(Table 2),PPSは自動車部品等として現に使用されており,今後も需要が急速に伸びる予測であるとの報告53,54から,このAMPsは道路交通由来である可能性が示唆されている。また,笠堀ダムの約 50 m先というごく近傍には貯水池および水力発電所があるという立地条件,ダム貯水池の表層および底質にはMPsが含まれるという報告55,56を踏まえると,貯水池が潜在的な発生源である可能性が考えられた。

以上の結果と,既往研究の山岳域5,6,13や外洋40におけるAMPsの観測事例,さらに本研究でも小笠原という遠隔地で検出されたことに基づくと(Table 2),従来の酸性沈着物質や大気汚染物質の濃淡で定義される属性と,AMPsの多寡とは必ずしも一致しておらず,比較的清浄な田園・遠隔属性の大気環境中においても,すでにプラスチック汚染が進行しているおそれがあると考えられた。ただし,これらの考察の是非については,特定の季節に偏ることなく地点ごとに十分な試料数を揃えたうえで,今後さらなる精緻な検証が必要である。

4. まとめ

本研究では,AMPsの測定手法の確立に向けて,試料捕集,前処理に加えて,感度や空間分解能の点で優れる顕微ラマンを用いた手法を考案した。また,この手法に基づくAMPsの調査としては初めて,異なる属性および地点での測定を実施し,日本国内の大気環境中における存在状況の把握を試みた。

操作ブランク試験および定性的な回収確認試験の結果から,本研究で考案された手法において試料の汚染や逸失のおそれは軽微であると考えられた。AMPsと同定されたすべての環境試料(n=32)について,大気中濃度は 0.52±0.24 MPs m-3,プラスチックの種類の内訳は主にPE,RES,PA,粒径(フェレ径)は 7.6±3.7 μm,形状はいずれも粒子または破片状であり,既往研究の報告と概ね矛盾しないが,顕微FT-IRを使用した国内の調査結果と種類の内訳が異なっていた。前処理の有無や同定判別法の別による粒径や形状の違いの傾向から,統一的な手法の確立の必要性が強調された。

集中観測の結果から,新潟曽和,川崎,笠堀ダムにおけるAMPsの大気中濃度の水準に明確な差異はなかったものの,試料単位では都市(新潟曽和,川崎)と田園(笠堀ダム)とで異なる推移を示した。捕集地点の立地条件から,発生源となり得るものの違いが示唆され,清浄とされる大気環境下でもプラスチックによる汚染が進行しているおそれがあると考えられた。

定量的な添加回収試験によって精度を向上させ,測定手法を確立することが必要である。また,季節別・地点別の観測データの蓄積に加え,他の汚染物質,とりわけAMPsとの類似性が指摘されている浮遊粒子状物質(PM)や7,9,各成分の内訳とAMPsの存在量(濃度)との関係性についても併せて調査し,その結果に基づく十分な検証を行うことが今後の課題として求められている。

5. 謝辞

本研究の実施に当たっては,早稲田大学の大河内博教授および研究室の皆様から種々の技術的助言を頂戴しました。また,新潟県工業技術総合研究所からは測定機器(顕微ラマン)を,新潟県三条地域振興局地域整備部笠堀分室からは笠堀ダムの捕集用スペースを,それぞれ借用いたしました。関係者の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。本研究はJSPS科研費JP23K11468および(一財)日本環境衛生センターの研究奨励制度の助成を受けたものです。

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