環境化学
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調査報告
下水処理場の季別運転によるノリ養殖場への栄養塩類の到達状況調査
柏原 学秦 弘一郎松木 昌也古賀 敬興古閑 豊和平川 周作志水 信弘松本 源生石橋 融子熊谷 博史藤井 直幹宮脇 崇山西 博幸
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2024 年 34 巻 p. 79-88

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要約

福岡県内の下水処理場である大牟田市北部浄化センターでは,放流水中に含まれる栄養塩類を放流先水域である有明海のノリ養殖場に供給することを目的として,放流水中の全窒素(T-N)濃度を維持する硝化抑制運転(季別運転)を行っている。これにより,ノリの養殖期である冬季に不足しがちな栄養塩類の一つであるアンモニア性窒素(NH4-N)が主成分となる窒素を有明海に放流している。しかし,当該浄化センター放流水に含まれる栄養塩類がノリ養殖場まで到達している状況に関する詳細な現地調査は未だ報告されていない。本研究では,当該浄化センターが季別運転を実施している冬季の下げ潮時に,放流先である堂面川河口付近からノリ養殖場のある海域まで浄化センター由来の栄養塩類の到達状況を調査した。調査の結果,各地点の栄養塩類濃度の経時変化から,満潮時に河口付近に滞留していた水塊が,下げ潮の潮流により河口から西方向に 500 m離れた海域のノリ養殖場内に到達していることを確認した。また,T-Nに対するNH4-Nの割合から,NH4-Nは潮流により河口からさらに南西方向に 1 km離れた地点まで到達していると考えられた。さらに,NO3-Nはより離れた地点まで到達していることが示唆された。

Summary

The Omuta City Northern Sewage Treatment Plant (STP) in Fukuoka Prefecture conducts seasonal operation to release nutrients into seaweed booth of Ariake Sea. The purpose is to supply the nutrients contained in the discharged water to the seaweed farms in the Ariake Sea in the winter when nitrogen is scarce. During seasonal operation, the STP discharges wastewater containing ammonia nitrogen as its main nitrogen component. However, no detailed field survey regarding the status of nutrients contained in effluent water from the STP reaching seaweed farms has been reported. In this study, we investigated the arrival status of nutrients derived from STP from the Domen River estuary to the sea area where the seaweed farm is located. As a result, based on changes in nutrients concentration at each point over time, it was confirmed that water that had stagnated near the river mouth during high tide had reached the seaweed farm 500 m west of the river mouth as the tide went out. And, based on the ratio of NH4-N to T-N, it is thought that the tidal current reached a point further 1 km away from the river mouth in the southwest direction.

1. はじめに

有明海は福岡県,佐賀県,長崎県,熊本県に囲まれた閉鎖性水域であり,干満差が大きいこと,ノリ養殖が盛んなことが特徴である。そのため,有明海におけるノリ養殖は,福岡県においても重要な水産業の一つとなっている。しかし,有明海ではしばしばノリの不作問題が発生している1,2。ノリの不作問題の原因は様々挙げられているが,その原因の一つとしてノリ養殖に必要な栄養塩類の不足がある3,4,5。水産用水基準によると,ノリ養殖における最低限必要な全窒素(T-N)濃度は0.07~0.1 mg/Lであり,この濃度を下回るとノリの色落ちにつながることが指摘されている6。2017年のノリの色落ち被害の際は,栄養塩類供給のために佐賀県有明海漁協から佐賀県に嘉瀬川ダムや佐賀県営ダムおよび佐賀平野のクリークからの緊急放流の要請・実施がなされている7。このような中,安定的な栄養塩供給策の一つとして,一部の下水処理場で栄養塩類増加運転,いわゆる季別運転が行われている。季別運転とは,放流先水域の利用を鑑み,季節別または通年で栄養塩類の放流を増加させるために行う処理施設の運転を指し,栄養塩類の能動的運転管理として国土交通省にて積極的な導入検討が進められている。国土交通省が報告した実施例およびガイドライン(案)によると,2022年3月時点で47の下水処理場で実施されている8,9。2023年3月に示されたガイドライン(案)では,これまでに季別運転を実施している自治体の実施状況等の調査に基づき,導入に向けた関係機関との連携・調整方法や,栄養塩類の効果的な排出と安定的な運転方法の確立に向けた道筋が示されている。今後,必要に応じて本ガイドライン(案)を参考に全国の下水処理場への導入検討が期待されている8

福岡県内で季別運転を実施している大牟田市北部浄化センター(以下,浄化センター)では,2000年のノリの大不作を受け,放流水中に含まれる栄養塩類を放流先水域のノリ養殖場に供給することを目的として,全国に先駆けて2004年12月から季別運転を行っており,その放流水は放流先の堂面川を経由して,有明海沿岸域に放流されている。ノリの栄養塩類吸収速度は,硝酸性窒素(NO3-N)よりアンモニア性窒素(NH4-N)の方が速いとの報告がなされており,ノリ養殖に対する窒素供給ではNH4-Nが好ましいと考えられている10。このような点から,浄化センターで実施されている季別運転は,ノリの養殖期である冬季における当該海域への栄養塩類供給としてその効果が期待されている9。一方で,季別運転の効果を検証するためには,浄化センターから堂面川を経由して有明海へ供給される栄養塩類が,河口付近のノリ養殖場まで到達しているか,また,到達しているならばどの程度の濃度で存在するかを調査することが重要である。横山らは有明海全体を対象とした数値シミュレーションにより,河川や下水処理場から供給される無機溶存態窒素(DIN)の寄与濃度を求め,季別運転によるノリ養殖場へのDINの供給効果の解析結果を報告している11。山西らは,有明海湾奥部に位置する佐賀市下水浄化センターからの放流水の挙動を河川感潮域や流下沿岸域に及ぼす影響を現地調査と数値計算によって評価している12,13,14。本研究の対象とする浄化センターの季別運転に関しては,古賀らが水温および塩分に関する現地調査を行っており,季別運転によって放流先水域の水温の著しい上昇および塩分濃度の著しい低下が起こらないことを報告している15,16。これまで,筆者らは福岡県内で季別運転を実施している大牟田市北部浄化センター(以下,浄化センター)を対象として,季別運転に関する調査研究を行っており,浄化センター放流水に含まれる栄養塩類が,少なくとも堂面川河口付近まで到達し,一定量滞留していることを確認している17,18,19,20,21,22,23。しかし,浄化センター放流水に含まれる栄養塩類のノリ養殖場までの到達状況に関する詳細な現地調査は実施されていない。そこで,本調査では,浄化センターの季別運転に関する知見の集積の一環として,季別運転を実施している冬季(硝化抑制期)の下げ潮時に当該浄化センターに由来する栄養塩類の海域への到達状況を調査したので,ここに報告する。

2. 調査方法

2.1 調査地点および採水方法

採水は2020年2月21日の満潮時刻(A)である8時20分から約2時間毎に実施し,満潮から2時間後(B),満潮から4時間後(C),そして,干潮時刻である15時5分(D)まで行った。採水日の潮位図をFig. 1 に示す。採水地点は,Fig. 2 に示すとおり堂面川河口付近(St-2)を中心として,上流 500 mに位置する地点(St-1),下流 500 m地点(St-3~St-5),1 km地点(St-6~St-8),2 km地点(St-9~St-11)および 2.5 km地点(St-12)とした。これまでに,筆者らは浄化センター放流水がフラップゲート(FG)を経由して堂面川に放流され,その放流水に含まれる栄養塩類が少なくともSt-2 まで到達していることを報告しており19,22,St-1 もSt-2 と同様に栄養塩類が到達している地点となる。さらに,硝化抑制期における堂面川から有明海へ供給される化学的酸素要求量(COD),T-Nおよび全リン(T-P)負荷量のうち,浄化センター放流水由来の負荷量の割合は,それぞれ35~88%,82~98%,22~86%を占めており23,特にT-Nのほとんどは,浄化センター放流水から有明海に供給されていると考えられる。

Fig. 1 Tide chart at Miike Port (Omuta city) on February 21, 2020

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

Fig. 2 Survey points (St-1-St-12), STP: The Omuta City North Sewage Treatment Plant

各地点の表層水は船上からバケツにて採取し,ポリプロピレン製容器に移して保存した。(B)および(C)時点でのSt-1 およびSt-12 は移動時間の都合のため欠測,(D)時点でのSt-3,St-4,St-6~St-9 は水深が浅く,船での移動が困難であったため欠測となった。また,堂面川に最も近いノリ養殖場は,Fig. 2 に示すように堂面川河口から西方向に 500 m離れた地点から拡がっている。なお,福岡県大牟田市における調査日直前の降水量は,2月17日の降水量が 1.0 mm,2月18日~21日の降水量は 0.0 mmであった24

2.2 分析項目および分析方法

分析項目は,水温,pH,塩分,COD,T-N,NH4-N,亜硝酸性窒素(NO2-N),NO3-N,T-P,リン酸態リン(PO4-P)とした。塩分は,マルチ水質チェッカ(株式会社堀場製作所 U-52G)を用いて採水時に測定した。COD,NH4-N,NO2-N,NO3-N,T-P,PO4-PはJIS K010225,T-Nは既報18に従って測定した。

2.3 解析方法

各分析項目の濃度水平分布図は,各分析項目の濃度測定結果,国土数値情報海岸線データ26および河川データ27をオープンソースのGISソフトであるQ-GIS28にて加工して作成した。

3. 結果

3.1 水温およびpHの変化

各地点における水温は,満潮時(A)で8.3~11.9°Cであり,満潮から2時間後(B),満潮から4時間後(C)では時間経過に伴い全地点で水温は上昇し,干潮時(D)では13.2~15.6°Cであった。pHについては,満潮時(A)のSt-1 で7.3,その他の各調査時刻における各地点では8.2~8.9であった。各地点のpHより満潮時(A)のSt-1 のみ低かったことは,堂面川上流からの河川水が滞留していたことが推察された。

3.2 塩分の変化

Fig. 3 に各調査時刻における塩分の水平分布図を示す。図より,堂面川からの河川水が流下先の河口域で広がる様子が見て取れる。例えば,堂面川から流下方向に測線(St-1~St-2~St-4)をとり,その具体的な塩分値を観測毎に列記すると,満潮時(A)のSt-1 で 6.0 psu,St-2 で 27 psu,St-4 で 28 psu,満潮から2時間後(B)のSt-2 で 21 psu,St-4 で 28 psu,満潮から4時間後(C)のSt-2 で 16 psu,St-4 で 17 psuと低下し,さらに河口から離れたSt-9,St-10 でも塩分の低下が観測された。なお,その他の地点・時刻では,大きな変動は見られなかった。これらの結果は,少なくとも塩分の低下が見られた水域には放流水を含む河川水の影響が及ぶことを示唆するものである。

Fig. 3 Contour maps of salinity

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

3.3 CODの変化

Fig. 4 に各調査時刻におけるCODの水平分布図を示す。(A)のSt-1 では 7.9 mg/Lで,その他の地点では河川からの距離に応じてCOD値の低下が見られた。これは以前の堂面川河口付近の調査22でも確認されており,FGから放流された浄化センター由来の水が河川水および海水によって希釈・拡散しながらSt-2 まで及んでいると考えられた。(B)のSt-2 では 4.5 mg/L,(C)のSt-2 とSt-4 ではそれぞれ 5.7 mg/L,5.3 mg/Lと他地点より高い値を示していた。(D)のSt-1 では 5.8 mg/L,St-2 では 5.5 mg/Lであり,(A)と比較すると,St-1 では 2.1 mg/L減少,St-2 では 1.7 mg/L上昇していた。

Fig. 4 Contour maps of COD

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

3.4 窒素の変化

Fig. 5 に各調査時刻におけるT-Nの水平分布図を示す。(A)におけるSt-1 でのT-Nは 4.7 mg/L,St-2 では 0.84 mg/L,St-4 では 0.59 mg/Lで,他の地点と比較して高い値を示し,放流水を起点としたT-Nの流下が見て取れる。これは以前の堂面川の調査22より季別運転を行う浄化センター放流水由来の水に起因した結果と考えられた。また,(A)から(B),(B)から(C)へと時間経過することで堂面川河口付近St-2 からその下流域へのT-Nの拡がりが確認できた。さらに,(C)におけるSt-2 で 2.4 mg/L,St-4 でも 2.2 mg/Lと同程度まで上昇し,特にSt-4 では(A)と比較して 1.6 mg/L,(B)と比較して 1.9 mg/L上昇していた。干潮時(D)には,堂面川から河口沿岸域におよそ 2.8 mg/L(St-1 で 2.9 mg/L,St-2 で 2.7 mg/L)のT-Nが供給されていた。なお,Fig. 5(C) および(D)の水平分布から読み取れるT-Nの影響範囲は,河口からおよそ 1~2 km程度と推測され,これは塩分分布の結果とも一致した。また,ノリ養殖場内に位置するSt-4 で(C)におけるT-Nが 2.2 mg/Lまで上昇していたことから,ノリ養殖に最低限必要なT-N(0.07~0.1 mg/L)が供給されていることが確認された。

Fig. 5 Contour maps of T-N

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

次に,窒素を形態別に調査した結果を示す。Fig. 6 およびFig. 7 は,各調査時刻におけるNH4-NおよびNO3-Nの水平分布図である。なお,NO2-Nは全調査地点で 0.10 mg/L未満であったため,ここでは図示していない。また,NH4-Nについては,0.01 mg/L未満の地点は,0.00 mg/Lとして作図した。

Fig. 6 Contour maps of NH4-N

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

Fig. 7 Contour maps of NO3-N

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

まず,NH4-Nの水平分布について解析した。(A)におけるSt-1 でのNH4-Nは 1.6 mg/L,St-2 では 0.24 mg/L,St-4 では 0.14 mg/Lで,0.10 mg/L未満であった他の地点と比較してもその濃度が高いことがわかる。これは以前の堂面川の調査17でNH4-Nが堂面川上流付近で検出されなかったことも併せて,T-Nの結果と同様に,季別運転を行う浄化センター放流水由来の水に起因した結果と考えられた。また,Fig. 6(A) からの放流水を起点としたNH4-Nの流下の様子や,(A)から(B),(B)から(C)への時間経過による堂面川河口St-2 からその下流域へのNH4-Nの拡がりもT-Nの結果と同様の傾向であったが到達範囲はT-Nに比べて狭いと推測された。干潮時(D)には,堂面川から河口沿岸域におよそ 1.0 mg/L(St-1 で 1.1 mg/L,St-2 で 1.0 mg/L)のNH4-Nが供給されており,Fig. 6(C) および(D)の水平分布から読み取れるNH4-Nの影響範囲は,河口からおよそ 1 km程度と見積もられた。

次に,NO3-Nの水平分布について検討した。Fig. 7(C) および(D)の水平分布から読み取れるNO3-Nの影響範囲は,T-Nと同様に河口から 1~2 km程度と見積もられた。

3.5 リンの変化

Fig. 8 に各調査時刻におけるT-Pの水平分布図を示す。(A)におけるSt-1 でのT-P値は 0.15 mg/L,St-2 では 0.069 mg/L,St-4 では 0.056 mg/Lで,他の地点と比較して高い値を示した。Fig. 8(A) からも放流水を起点としたT-Pの流下の様子が見て取れる。また,(A)から(B),(B)から(C)へと時間経過することで堂面川河口付近St-2 からその下流域へのT-Pの拡がりが確認できる。さらに,(C)におけるSt-2 およびSt-4 では 0.13 mg/Lまで上昇し,St-4 では(A)と比較して 0.074 mg/L,(B)と比較して 0.084 mg/L上昇していた。最終的には,干潮時(D)に河口沿岸域でおよそ 0.16 mg/L(St-1 で 0.17 mg/L,St-2 で 0.15 mg/L)のT-Pが観測された。Fig. 8(C) および(D)の水平分布から読み取れる季別運転を行う浄化センター放流水由来の水に起因するT-Pの影響範囲は,河口からおよそ 1~2 km程度と見積もられ,これまで述べてきた塩分やT-NおよびNO3-Nの影響範囲と同様の結果が得られた。Fig. 9 に各調査時刻におけるPO4-Pの水平分布図を示す。PO4-Pの結果はT-Pと同様の流下状況を示し,Fig. 9(C) および(D)の水平分布から読み取れるPO4-Pの影響範囲は 1~2 km程度と推測された。

Fig. 8 Contour maps of T-P

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

Fig. 9 Contour maps of PO4-P

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

4. 考察

4.1 単純混合による計算値との比較

著者らは,St-1 はFGを経由して堂面川に放流される浄化センター放流水の水質に近いものであることを報告しており,満潮時(A)のSt-1 の水質は,浄化センター放流水の水質を反映している19。浄化センター放流水の特徴は,放流先海域と比較して塩分が低く,栄養塩類の濃度が高いことである。満潮時(A)におけるSt-12 は,満潮時(A)における浄化センター放流水の影響が最も小さく有明海の水質を反映できると考えられる。上記3の結果では,満潮時から4時間後(C)のSt-4 にて最も顕著な栄養塩類の流れ込みが見られた。そこで,満潮時(A)のSt-1 の塩分(6.0 psu)および満潮時(A)におけるSt-12 の塩分(31 psu)を基準として,それらが単純混合した場合に予想される満潮時から4時間後(C)のSt-4 における栄養塩類濃度を計算し,その計算値と実測値を比較した。

T-Nは計算値(2.2 mg/L)と実測値(2.2 mg/L)であり,T-Nは計算値と実測値に差が見られなかった。NH4-Nは計算値(0.90 mg/L)に対し実測値(0.73 mg/L),NO3-Nは計算値(0.86 mg/L)に対し実測値(0.78 mg/L)であり,NH4-NおよびNO3-Nは計算値と比較して実測値が低かった。このことから,満潮時(A)のSt-1 とSt-12 は単純混合しつつも,NH4-NおよびNO3-Nは有機態窒素に変換された可能性が高いことが示唆された。一方で,T-Pは計算値(0.098 mg/L)に対し実測値(0.13 mg/L),PO4-Pは計算値(0.026 mg/L)に対し実測値(0.050 mg/L)であり,T-PおよびPO4-Pは共に計算値と比較して実測値が高かった。著者らは本調査地点付近における底質からの溶出試験を行っており,その中でT-PおよびPO4-Pは底質から溶出することを報告している21。上記の結果は底質から溶出したT-PおよびPO4-Pに起因することが示唆された。

4.2 栄養塩類の到達状況

時間毎の栄養塩類の水平分布より,堂面川河口付近の水塊は河口から 500 m地点のSt-4 まで流れていること,また,干潮時の河口付近では海水と河川水が一定量混合している状態であることが推測された。潮流による水塊の移動では,希釈・拡散等のため,濃度低下が発生する。そこで,既報22と同様に,T-Nに対するNH4-Nの割合(以下,NH4-Nの割合),T-Nに対するNO3-Nの割合(以下,NO3-Nの割合),T-Pに対するPO4-Pの割合(以下,PO4-Pの割合)を算出することで,ノリ養殖場への栄養塩類の到達状況をより詳細に確認した。その結果をFig. 101112 に示す。

Fig. 10 Contour maps of ratio of NH4-N to T-N

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

Fig. 11 Contour maps of ratio of NO3-N to T-N

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

Fig. 12 Contour maps of ratio of PO4-P to T-P

(A): high tide, (B): 2 hours after high tide, (C): 4 hours after high tide, (D): low tide

まず,NH4-Nの割合について水平分布を解析した(Fig. 10)。(A)では,St-1 で最大の0.35を示し,河口から海域へ離れるに従い低下していった。河口St-2 から 1 km以上離れた地点の中には,0.10未満のものがあった。(B)では,St-2 で最大の0.36を示し,St-5 の0.20,St-8 の0.17を除き,0.10未満の地点が多く見られた。(C)では,St-4 で最大の0.33を示し,次いでSt-2 で0.31を示した。さらに,St-5 で0.18,St-8 で0.23を示していた。St-2 の値と比較すると,NH4-Nを含む水塊は希釈・拡散等しながらSt-4,St-8 の順に流れていき,St-5 まで拡散したことが示唆された。なお,調査地点周辺における下げ潮時の潮流は,海岸線に沿って南西方向である29,30。これは,今回のNH4-Nの割合の結果と一致したものであった。(D)では,St-1 で最大の0.38となり,St-2 で0.37,St-5 で0.13であった。St-1 およびSt-2 でのNH4-Nの割合が時間に関わらず0.30前後で推移していたこと,また,NH4-Nの割合は(B)や(C)に比べて河口から近い範囲で変化が大きくなっていることから,干潮時の河口付近の水塊は滞留しており,潮流によって一部が海域に排出されていることが示唆された。

次に,NO3-Nの割合について水平分布を解析した(Fig. 11)。(A)では,St-1 で最大の0.33を示し,河口から海域側へ離れるに従い,低下していった。一方,(B)では,St-3 で最大の0.37となり,他の地点も(A)と比べて上昇していた。これは,下げ潮により浄化センター下流のFGが開放されたことに加え,下げ潮により河口域に滞留していた水塊が海域へ供給され始めたためと考えられる。さらに,下げ潮が進行した(C)では,St-9 およびSt-10 で最大の0.41となり,他の地点でも(A)や(B)と比べてNO3-Nの割合が上昇していた。また,干潮時の(D)では,St-12 で最大の0.35となり,St-1 およびSt-2 の0.34と同程度であったことから,干潮時のNO3-Nの割合は広域で一定になっていたと考えられる。Fig. 67 に示すようにSt-1 やSt-2 の河口付近におけるNH4-NとNO3-Nの濃度は同程度である。しかし,Fig. 10Fig. 11 に示すようにNO3-Nに比べてNH4-Nの到達範囲は狭いことが示唆された。NH4-NがNO3-Nに比べて到達範囲が狭くなった原因として,NH4-Nは負電荷を帯びた土壌粒子に吸着されやすく,NO3-Nは水への溶存性が高いこと31,32やノリの栄養塩類吸収速度がNO3-NよりNH4-Nの方が速いためNH4-Nがノリに吸収されたこと10が考えられる。また,その他の原因として,上記3.1に示したとおり,満潮時(A)のSt-1 を除いたその他のpHが8.2~8.9であり,アンモニアのpKbは4.7533であることから,NH4がNH3 に変化し,その一部が大気中に揮発したことが考えられる。

最後に,PO4-Pの割合について水平分布を解析した(Fig. 12)。(A)では,St-2,St-4,St-9 およびSt-12 で最大の0.32を示し,他の地点も0.30前後であった。(B)では,St-3 で最大の0.41となり,St-9 の0.40を除き,他の地点は0.30前後であった。(C)では,St-4 で最大の0.38となり,他の地点でも河口付近と同様の0.35前後であった。(D)では,St-2 で最大の0.43となり,St-1 の0.34を除き,他の地点は0.30未満であった。そのため,放流水を含む河川水のPO4-Pの割合は,海水のPO4-Pの割合と顕著な差はなかったため,放流水の影響は小さいと考えられる。

5. まとめ

本研究では,浄化センター放流水に含まれる栄養塩類のノリ養殖場への到達状況を調査・確認することを目的として,下げ潮時の満潮から干潮まで堂面川河口付近から 2.5 km離れた海域までの水質を調査した。栄養塩類等の到達状況に関する調査の結果,満潮時に河口付近に滞留していた水塊は,下げ潮の潮流により河口から西方向に 500 m離れた海域のノリ養殖場内に到達していることが示唆された。また,塩分変化やT-Nに対するNH4-NまたはNO3-Nの割合から,NH4-Nは潮流により河口からさらに南西方向に 1 km離れた地点まで,NO3-Nは 1~2 km離れた地点まで到達していると考えられた。

謝辞

本研究実施にあたり,採水および情報提供にご協力いただいた大牟田市企業局,大牟田市環境保全課および福岡県水産海洋技術センター有明海研究所の方々に感謝の意を表します。また,本研究は,平成29年度および平成30年度「瀬戸内海の環境保全・創造に係る研究助成」から支援を受けました。ここに,感謝の意を表します。

文献
 
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