2025 年 35 巻 p. 47-55
長さ 80 m,内径 0.18 mm,膜厚 0.18 μmのDB-17msカラムを用いて,各種環境媒体中のダイオキシン類を定量した。得られた測定結果は,従来の複数カラムによる測定結果と良好に一致しており,本カラムを用いることで,TEFが設定された29の異性体を一回の測定で効果的に分離・定量できることが示された。
Dioxins present in various environmental media were quantified using a DB-17ms column with dimensions of 80 m × 0.18 mm ID, 0.18 μm film thickness. The analytical results obtained with this column showed good agreement with those acquired using the conventional multi-column method. These findings demonstrate that all 29 TEF congeners can be effectively separated and quantified in a single injection using the longer, narrower column.
ダイオキシン類(polychlorinated dibenzo-p-dioxins(PCDDs),polychlorinated dibenzofurans(PCDFs),dioxin-like polychlorinated biphenyls(DL-PCBs))は強い毒性と難分解性を有する環境汚染物質である。これらの化合物は,「ダイオキシン類対策特別措置法」に基づき,特定施設からの排出監視および環境モニタリングの対象とされている。環境中のダイオキシン類の定量にはキャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)が用いられる。PCDD/DFsは塩素の置換位置・置換数によって数多くの異性体が存在し,測定の対象とされている4塩素以上のものでも,PCDDsで49,PCDFsで87に及ぶ。ダイオキシン類の測定マニュアル・規格1,2,3,4,5)によると,使用可能なキャピラリーカラムの条件として,①PCDDsおよびPCDFsの測定においては,2,3,7,8-位塩素置換異性体が可能な限り単離でき,すべての化合物について溶出順位が判明しているもの,②DL-PCBsの測定においては,12種類のDL-PCBsが他のPCB化合物と可能な限り単離でき,4~10塩素化体のPCBs化合物すべての溶出順位が判明しているもの,と示されている。これまでに,様々なキャピラリーカラムにおけるPCDD/DFsの溶出順序が報告されてきたが,これらの報告に17ある2,3,7,8-位塩素置換異性体すべてが分離可能なものは確認されていない6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17)。このため,国内におけるダイオキシン類分析においては,毒性等(当)価係数(Toxic equivalency factor, TEF)が定められた29の異性体18)を分離・定量するために,複数のキャピラリーカラムを用いた複数回の測定が一般的に行われている。仮に一回の測定で29のTEF異性体を分離・定量することが可能となれば,キャピラリーカラムの購入コストの削減,カラム交換作業の簡略化,定量時における複数の測定データを統合する作業の省力化,さらにはデータ取り違いによる誤判定リスクの低減が期待される。これにより,ダイオキシン類分析の効率化および信頼性の向上が期待できる。
このような背景を踏まえ,筆者らは,ダイオキシン類分析において一般的に用いられている長さ 60 m,内径 0.25 mmのキャピラリーカラムよりも細長い,長さ 80 m,内径 0.18 mm,膜厚 0.18 μmのDB-17ms(以下,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)と略記する)を用いることで,17の2,3,7,8-位塩素置換異性体を効果的に分離できることを明らかにした19)。さらに,長さ 60 m,内径 0.25 mm,膜厚 0.25 μmのDB-17ms(以下,DB-17ms(60 m×0.25 mm×0.25 μm)と略記する)によるPCBs全209異性体の溶出順序を確認し,DL-PCBsが他の異性体から概ね分離可能であることも示している20)。これらの知見から,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いることで,TEFが設定された29の異性体を一回の測定で分離できることが予想され,筆者らは標準試料を用いた検討により,これらの異性体の分離を確認している21)。本研究では,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いて実試料の測定を行い,従来の複数カラムによる測定結果と比較することで,本手法の妥当性を確認した。
本稿において,ダイオキシン類の各化合物の略称は,以下の通りとする。PCDDsおよびPCDFsの同族体名と各異性体名の略号,ならびにPCBsの同族体名の略号は測定マニュアル・規格1,2,3,4,5)に準拠する。PCBsの異性体名は,国際純正・応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry, IUPAC)が定める番号を用い,「同族体の略号+#番号」の形式で表記する(例えば2,3′,4,4′-TeCB(#77)は「TeCB-#77」)。
2.2 試薬ダイオキシン類の標準品にはWellington Laboratories製を使用し,ノナン(ダイオキシン類分析用,富士フィルム和光純薬)で希釈して所定の濃度に調製した。試料の前処理に使用した試薬類は,濃硫酸(精密分析用,富士フィルム和光純薬)以外,すべてダイオキシン類分析用のものである。ヘキサン,44%硫酸シリカゲル,10%硝酸銀シリカゲルは富士フィルム和光純薬製,トルエン,活性炭分散シリカゲルは関東化学製のものを用いた。
2.3 試料本研究における比較・検証対象試料として,国立環境研究所が提供する認証標準試料(NIES CRM No.2 フライアッシュII)22)に加え,埼玉県内で採取した大気,河川水質,河川底質,土壌,廃棄物焼却炉の排ガス,および焼却灰(各5検体)を用いた。これらの試料は,各種測定マニュアル・規格1,2,3,4,5)に準拠して採取・測定・定量を行った。ただし,大気試料については十分な分析感度を確保するため,3台のハイボリウムエアサンプラ(柴田科学)を使用して,それぞれ 100 L/minの流速で約1か月間連続採取を行い,得られた抽出液を合わせて1検体として分析に供した(試料量は,計 11,780 m3~13,442 m3)。試料の前処理は既報23)に従い,以下の手順で実施した。まず,濃硫酸および44%硫酸シリカゲルによる硫酸処理を行い,続いて10%硝酸銀シリカゲル処理(ヘキサンで溶出),活性炭分散シリカゲル処理(ヘキサンで洗浄後,トルエンで溶出)を施した。得られた抽出液を濃縮し,測定用の検液とした。測定は既報24)に準じて次のとおりに実施した。Te~OCDDs,TeCDFs,1,2,3,4,7,8-/1,2,3,6,7,8-/1,2,3,4,6,7-HxCDFs,Hp~OCDFs,DL-PCBs(PeCB-#114とHpCB-#189を除く)の分離には,長さ 60 m,内径 0.25 mm,膜厚 0.25 μmのDB-5ms(Agilent Technologies)(以下,DB-5ms(60 m×0.25 mm×0.25 μm)と略記)を使用した。それら以外の化合物の分離にはDB-17ms(60 m×0.25 mm×0.25 μm)(Agilent Technologies)を用いた。本稿では,以降,DB-5ms(60 m×0.25 mm×0.25 μm)およびDB-17ms(60 m×0.25 mm×0.25 μm)による測定結果を,「複数カラムによる測定結果」と表記する。
試料の濃度範囲は次のとおりである。大気:0.010~0.056 pg-TEQ/m3,河川水質:0.42~1.1 pg-TEQ/L,河川底質:25~100 pg-TEQ/g,土壌:6.3~27 pg-TEQ/g,排ガス:0.019~0.17 ng-TEQ/m3,焼却灰:0.43~4.5 ng-TEQ/g。
2.4 測定GCキャピラリーカラムには,長さ 80 m,内径 0.18 mm,膜厚 0.18 μmのDB-17ms(Agilent Technologies)を用いた。なお,80 mのカラムは市販されていないので,20 mのカラム4本をプレスフィットコネクタ(Agilent Technologies)で接続した。カラムの注入口側には長さ 2 m,内径 0.32 mmの,検出器側には長さ 1 m,内径 0.18 mmの不活性チューブを接続した(それぞれ,Supelco製およびGLサイエンス製)。
測定には,測定マニュアル・規格1,2,3,4,5)で指定されている二重収束型の高分解能GC-MS(Agilent 8890A GC(Agilent Technologies)+JMS-800D UltraFOCUS(日本電子))を用いた。GCの条件は,既報19,21)に準じ,次のとおりに設定した。GCオーブンの温度プログラムは130°C(2 min)―210°C(5°C/min)―275°C(1°C/min)―320°C(6°C/min,27.5 min)(トータル:118 min)。キャリアガスにはHeを使用し,流速は 0.9 mL/minとした。インジェクションモードはSplitlessで,注入口温度は280°Cに設定した。
MSのデータ取得条件をTable 1 に示す。SIM測定モードで,各同族体について2つのチャンネル(m/z)をモニターし,m1を定量用のチャンネル,m2を同位体比確認用のチャンネルとした。ただし,HxCB-#157ではm3を同位体比確認用のチャンネルとして追加することで,m2による定量にも対応可能とした(理由は後述)。
*Three channels were monitored in Segment 3 of Group 2.
**Used as dummy channel for sensitivity adjustment.
***Delay time of 10 ms was set before each channel; for the lowest channel within the group, set to 20 ms.
感度の向上には,1チャンネル当たりのサンプリング時間をより長く設定する必要があることから,各化合物の溶出時間を考慮し,測定時間を5つのグループに分割してモニターするチャンネルを割り当てた。さらに,グループ2および3については,より小さなチャンネルのまとまり(セグメント)に分割し,それぞれ3つおよび2つのセグメントに分けることで,同時にモニターするチャンネル数を削減した。使用した機器は,グループ内では磁場を固定する仕様で,複数のセグメントにまたがってモニターする場合でも,セグメント間で感度が変わらない設計となっている25)。また,クロマトグラム上のピーク形状をより精密に再現するため,各測定サイクルの時間は 600 ms以内に設定した。
2.5 検量線検量線の作成には,各TEF異性体を含有する5段階の濃度の標準液を使用した。標準液の濃度は,0.2,1,5,25,100 pg/μLであり,OCDDおよびOCDFについては2倍の濃度とした。それぞれの標準液には13C12でラベル化した各TEF異性体が 10 pg/μL,OCDDとOCDFは 20 pg/μLとなるように含有させた。各濃度の標準液について,2 μLずつ3回繰り返し注入して測定を行い,検量線を作成した。
2.6 検出下限・定量下限検出下限・定量下限の算出は,測定マニュアル・規格1,2,3,4,5)に準拠して実施した。まず,Te~HpCDD/DFsおよびDL-PCBsについては濃度 0.1 pg/uLの標準液を2 uL注入する測定(注入量 0.2 pg)を,OCDD/DFについては濃度 0.4 pg/uLの標準液を 2 uL注入する測定(注入量 0.8 pg)を,それぞれ5回繰り返した。得られた定量結果の標準偏差に対し,3倍の値を装置の検出下限,10倍の値を装置の定量下限とした。さらに,所定の抽出液に対して,GC-MSへの注入量が装置の定量下限と同等となるように標準物質を添加し,前処理,測定,定量を行った。この操作を5回繰り返し,得られた定量結果の標準偏差に対し,3倍の値を測定方法の検出下限,10倍の値を測定方法の定量下限とした。
Fig. 1 に,実試料の測定例として灰試料のクロマトグラムを示す。図中には,モニターチャンネルの切り替えタイミングも併せて表示した。赤字で示した29のTEF異性体に加え,各同族体における最初および最後のピーク,ならびにモニターチャンネルの切り替えの目印となる異性体については,図中に異性体名を記した。その他の異性体のピーク帰属については,既報19)を参照されたい。モニターチャンネル切り替えの目印として用いた異性体は次の通りである。グループ1⇔2:TeCB-#77⇔1,4,6,8-TeCDF,グループ2のセグメント1⇔2:1,2,7,8-TeCDD⇔3,4,6,7-TeCDF,同セグメント2⇔3:1,2,8,9-TeCDF⇔1,2,4,7,9-PeCDF,グループ2⇔3:2,3,4,7,8-PeCDF⇔1,2,3,6,9-PeCDF,グループ3のセグメント1⇔2:1,3,4,6,7,8-HxCDF⇔1,2,4,6,7,9-HxCDF,グループ3⇔4:1,2,3,4,8,9-HxCDF⇔1,2,3,4,6,7,8-HpCDF,グループ4⇔5:1,2,3,4,7,8,9-HpCDF⇔OCDD。

最初に溶出するダイオキシン類はTeCB-#81(53分)で,最後に溶出したのはOCDF(106分)であった。なお,PeCB-#118とその右側のピーク(PeCB-#106),1,2,3,7,8-PeCDDとその左側のピーク(1,2,3,4,6-PeCDD)が近接していたが(Fig. 1 中に拡大したクロマトグラムを示した),いずれのTEF異性体も隣接するピークとは明確に識別可能であり,実用的な分離が達成されていることが確認された。
3.2 PCDDsによるDL-PCBsへの干渉ダイオキシン類の測定において,DL-PCBsの定量に使用されるモニターチャンネルが,PCDDs由来のイオンによって干渉を受けることが報告されている26,27)。具体的には,PeCBsの検出に通常使われるm/z:325.8804がTeCDDsのm/z:325.8877によって,HxCBsの検出に通常使われるm/z:359.8415がPeCDDsのm/z:359.8487によってそれぞれ干渉を受ける。このため,DL-PCBsに比べてPCDDsの濃度が著しく高い一部の排ガスや焼却灰試料などにおいては,質量干渉の影響でDL-PCBsの定量精度が低下する可能性がある。筆者らが,DB-17ms(60 m×0.25 mm×0.25 μm)を用いた測定で確認したところ20),次のような干渉が認められた。1,3,6,8-TeCDDによるピークがPeCB-#118のピークに近接し,1,2,6,8-/1,2,4,9-/1,2,4,6-/1,4,7,8-TeCDDがPeCB-#105に,1,2,6,9-/1,2,3,9-TeCDDがPeCB-#126に,1,2,3,6,8-PeCDDがHxCB-#157に,1,2,3,6,9-PeCDDがHxCB-#169に干渉していた。DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いることで,これらのうちPeCB-#118,PeCB-#105,PeCB-#126,HxCB-#169への干渉は概ね回避可能であったが,HxCB-#157に対する1,2,3,6,8-PeCDDによる干渉は回避できなかった。このため,HxCBsの定量においては,最も存在比の高いm/z:359.8415の使用を避け,干渉の少ないm/z:361.8385(理論存在比:81.5%)を定量チャンネルとし,m/z:363.8356(同35.5%)を同位体比確認用のチャンネルとした。さらにHxCB-#157の定量では,より干渉の少ないm/z:363.8356を定量チャンネルとしても使用することに対応するため,同位体比確認用としてm/z:365.8326(同8.8%)を追加した。
3.3 検量線,検出下限・定量下限作成した検量線をFig. 2 に示す。いずれの異性体についても,直線性の高い検量線が得られ,定量分析に十分な精度を有することが確認された。

測定方法の検出下限をもとに,各試料の試料量,分取率,最終検液量,注入量を考慮して,試料の検出下限・定量下限を算出した。本条件で得られた装置の検出下限および試料の定量下限をTable 2 に示す。装置の検出下限はいずれの異性体においても,測定マニュアル・規格1,2,3,4,5)が要求する値(Te~PeCDD/Fsで 0.1 pg,Hx~HpCDD/FsおよびDL-PCBsで 0.2 pg,OCDD/Fで 0.5 pg)を十分に下回った。なお,PeCB-#157で同位体存在比が小さいm2チャンネルを使用した場合,m1を使用した場合に比べて検出下限・定量下限は高くなった。しかしながら,その値は他のDL-PCBsと大きく乖離するものではなく,定量に用いる上で支障はないと判断した。
* Quantified using the channel m2 (m/z: 363.8357).
DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いた認証標準試料(NIES CRM No.2 フライアッシュII)の測定結果をTable 3 およびTable 4 に示す。PCDD/DFsの測定結果(Table 3)は,すべての異性体および同族体で,認証値の不確かさの範囲内に収まり,両者の値は良好に一致した。DL-PCBsについては認証値が設定されていないため,参考値との比較を行った。DL-PCBsの測定結果(Table 4)と参考値との平均値に対する,測定結果の差は,すべての異性体において0~7%の範囲にあり,参考値と良好な一致を示した。以上の結果から,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いた一回の測定により,ダイオキシン類の定量が問題なく実施可能であることが示された。
*Ref. 22
*Ref. 22
大気,河川水質,河川底質,土壌,廃棄物焼却炉の排ガス,および焼却灰の各試料について,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いた一回測定による結果と,従来の複数カラムによる測定結果との比較を行った(Fig. 3)。測定マニュアル・規格1,2,3,4,5)に示されている二重測定の評価方法に倣い,両測定法の平均値に対して,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)による一回測定の結果を比較した。なお,比較にあたり,試料の定量下限値未満の濃度のTEF異性体,ならびにそれらを含むPCDD/DFsの同族体は除外した。PCDD/DFsにおいては,すべてのTEF異性体で平均値に対する濃度差は,測定マニュアル・規格で求められている二重測定の許容範囲の30%以内(Fig. 3 中の紫色の帯の範囲)に収まり,98.9%は15%以内であった。同族体の比較でも同様で,すべての同族体が30%以内の範囲に収まり,99.5%が15%以内に収まった。DL-PCBsに関しても,すべての異性体が30%以内,99.4%が15%以内に収まった。以上の結果から,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いた一回測定による結果は,複数カラムによる測定結果と良好に一致していることが確認された。

Fig 3 の右端には,m1(m/z:361.8385)で定量したHxCB-#157の結果も示した。いくつかの排ガスおよび焼却灰試料で,30%の範囲を大きく超えていた。これらの試料ではm1とm2の同位体比が理論値から大きく逸脱しており,1,2,3,6,8-PeCDDによる質量干渉によって,HxCB-#157が過大評価された可能性が示唆された。HxCB-#157の定量においては,このような場合,干渉の少ないm2(m/z:363.8356)を定量チャンネルとして使用することで,より適切な濃度での定量が可能であることが確認された。
3.6 ポリ塩素化ジフェニルエーテルによる干渉DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いて実試料を測定したところ,一部の試料において1,2,3,4,7,8-HxCDFのピークの左側と1,2,3,4,6,7,8-HpCDFのピークの右側に,干渉ピークが出現する事例が確認された。大気,河川水質,河川底質,土壌,排ガス,焼却灰のいずれの媒体においても,これらの干渉ピークが出現する検体が存在した。これらのピークは,PCDFsに現れていること,また同位体比がPCDFsと変わらなかったことから,精密質量を同一にするポリ塩素化ジフェニルエーテル(PCDEs)26,28,29)の可能性が示唆された。PCDEsは,塩素が2つ脱離したフラグメントが,PCDFsと同一の精密質量数と塩素同位体比を示す。そこで,4~8塩素化PCDFsへの影響を確認するために,本法のGC条件で,6~10塩素化PCDEs(HxCDEs,HpCDEs,OcCDEs,NoCDEs,DeCDEs)に相当する質量チャンネル(それぞれ,m/z:375.8364,m/z:409.7974,m/z:445.7555,m/z:479.7165,m/z:513.677530))を測定し,PCDEsの存在を確認した。
底質試料の測定結果をFig. 4 に示す。1,2,3,4,7,8-HxCDFの左側と1,2,3,4,6,7,8-HpCDFの右側に見られた干渉ピークの位置に,それぞれOcCDEs(Fig. 4c)とNoCDEs(Fig. 4d)のピークが一致しており,これらの干渉がPCDEsによるものであることが確認された。さらに,1,2,3,6,7,8-HxCDF(Fig. 4c)にも,小さいながら,干渉ピークが重なっていることが確認された。TEF異性体以外の化合物でも,以下の干渉が確認された。1,2,4,7-TeCDF,1,2,4,8-TeCDF,2,3,6,7-TeCDFにはHxCDEsによる干渉(Fig. 4a)が,1,2,3,6,8-/1,2,4,7,8-/1,3,4,7,8-/1,3,4,6,7-PeCDFおよび2,3,4,6,8-PeCDFにはHpCDEsによる干渉(Fig. 4b)が認められた。一方,OCDFに対するDeCDEsの干渉ピークは確認されなかった。これらの干渉ピークが大きい場合,PCDFsの定量値に影響を及ぼす可能性があるため,注意が必要である。PCDEsに由来する干渉は,前処理操作における活性炭カラムによる分画操作を工夫することで低減可能であると考えられる26,28,29)。また,GCの条件を再検討することで,干渉ピークの分離性を向上できる可能性が考えられる。

本研究では,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)を用いて各種環境媒体中のダイオキシン類を測定し,得られた結果を複数カラムによる測定結果と比較した。その結果,両者は良好に一致し,DB-17ms(80 m×0.18 mm×0.18 μm)による一回の測定で,TEFが設定された29の異性体を効果的に分離・定量できることが確認された。筆者らが知る限り,同様の性能を有するキャピラリーカラムの報告はなく,本法は新規性を有するものである。本法には,測定時間が118分と長時間であること,複数のカラムを接続する必要があることなど,実用面での課題も存在する。しかしながら,測定が一回で完結できることにより,カラム交換の手間や,複数の測定データの統合作業の負担を軽減できる点は,分析業務の効率化に大きく寄与すると考えられる。また,DB-17ms以外でも,これまでにダイオキシン類の溶出順序が報告されているカラムの中には,サイズを検討することで,より実用的な分離性能が得られる可能性が考えられる。
本研究は,環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20255004)により実施した。