2001 年 11 巻 2 号 p. 233-243
プラズマ有機薄膜を感応膜とするQCRセンサの, 室内大気質モニタリングに向けた基礎的な特性を検証するため, エッセンシャルオイルを発生源とした低濃度のニオイ識別と, 実室内環境としての喫煙室内における応答特性を調べた。プラズマ有機薄膜QCRセンサは, 人の嗅覚の閾値程度のエッセンシャルオイルから発生させたニオイに対しLangmuir式に則った収着特性を示した。また, ケモメトリクスにおいて一般的な方法であるPCAを用いて, 森林系の6種の香りの識別が可能であり, KNN法で91%という高い的中率であった。実際の室内空間として, 喫煙者の利用するリフレッシュルームを選び, 連続モニタリング試験を行ったところ, プラズマ有機薄膜QCRセンサは, 数分のスパンでのパルス状の周波数応答と, 数十分から一時間のスパンのマクロな周波数シフト応答とを重畳させた応答挙動を示した。このマクロな周波数シフトは, 相対湿度に代表される周囲の変動を示す一方で, パルス応答は, 従来の赤外線式CO、センサや静電容量式相対湿度計による連続モニタリングでは得られなかった室内の有機ガス情報も含むことが示唆された。これらの結果より, プラズマ有機薄膜QCRセンサは, 室内大気質モニタリングに向けた電子鼻へ適用できる素子であることが示された。今後, 室内大気質評価に適したプラズマ有機薄膜QCRセンサを基本とする電子鼻の開発にあたり, 室内大気中揮発性物質が制御された系での基本応答特性と, 実室内環境を想定した系での応答特性の両面からのアプローチが必要と考えられる。また, コンパクトな装置設計が可能なプラズマ有機薄膜QCRセンサをベースとする電子鼻は, 室内だけでなく, 車や飛行機などの移動体内大気質の常時モニタリングシステム42) としても同じく有望と考えられる。