環境化学
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DTA・DSC・TG熱分析法による有機スズ化合物 (TPT) の熱特性
首藤 征男矢原 正治鈴木 良實
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2006 年 16 巻 3 号 p. 381-388

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抄録

本研究は, 海産巻貝類のインポセックスを引き起こす原因物質とされているトリフェニルスズ (TPT) による環境汚染防止のため, TPTの無害化処理のための基礎となる熱解析を行うことを主目的とした。
TPTの熱解析には, 示差熱分析 (DTA) , 示差走査熱量測定 (DSC) , 及び熱重量測定 (TG) を用い, 必要に応じて元素分析 (CHO) と粉末X線回折測定を行った。
TPTの熱解析の結果, TPTは88℃で分子内の構造変化を起こし, 123℃で融解した。その後, 若干の揮発が観察され, 230℃で2個のフェニル基を離脱後, 中間生成物モノ-n-フェニルスズオキシドを生成, 280℃で残りのフェニル基を離脱しながら無機スズにまで分解し, 最終的に空気中で酸化スズまで酸化されると示唆した。TPTのDSC測定の結果, 二酸化スズの標準生成エンタルピーΔHof580KJ/molに対して, 実測では363KJ/molと低い値が得られた。低い値となった要因として, TPTの加熱生成物のX線回折及びCHO測定結果から, 最終生成物の無機スズが, 主として一酸化スズ並びに二酸化スズの混合物である可能性を示唆した。
TPTは, スズ元素のsp3混成軌道によって, 4配位の4面体構造をとる。しかし, 4配位中, 1配位がOH基3配位がフェニル基であるため, 分子内の構造に歪みがあることと, OHラジカルの電気陰性度の強さから生じる分極性によって, フェニル基とスズ原子との問の結合度に差異を生じるために, TPTの熱分解の場合,
フェニル基の脱離が一度に起きるのでなく, 段階的に起きるものと推定した。

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© 日本環境化学会
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