古典発達研究やThelen のダイナミック・システムズ・アプローチ,生態心理学に基づく国内の観察研究を検討し,発達を身体とその環境を包摂した系における行為の時系列的な変化として捉えるという観点を提示した.この観点を踏まえ,ろくろ挽きにより大型の一点物の作品をつくる木工作家,N の一名を対象に,2 つの作品の制作していくプロセスを縦断的に観察した.特に,ろくろ挽きの主要な道具に着目して分析を行った.結果,N は探索的に作品の形状を決めていくことが示された.また,制作プロセスのなかで,ハメという固定具の入れ替えや加工,鉋の持ち手を変えるなど,工房内での道具の設えの変化が観察された.ハメの入れ替えや加工は1 つの作品を作る間にも何度か生じていたが,ろくろの下の穴の部分に板を渡すなどの設えは2 つの作品制作プロセスを通して持続していた.これらの結果を踏まえて改めて理論的な考察を行い,発達には身体的なものだけではなく道具の設えのなどの環境の変化も含まれうること,作家-道具系として技術の発達を捉えるなどの理論的観点が示された.