我々は実験馬を常磐支所に運搬し,約10日間同所に設置の38~40℃ の浴槽に毎日午前,午後の2回,各30分宛温浴させ,これを温浴させなかった対照群と比較し,短期温泉浴が馬の生体に及ぼす影響を観察した。
1)馬を常磐支所の環境に移した場合,臨床所見の経日変化には概して著変を認めなかったが温浴群の血液所見はやや一定の変化を示し,特に本実験にみられた血液水分の著しい増加からして,血液性状の変化には水分含量が可成り重要な要素の一であるものと考える。
2)馬に温泉浴を行った場合,出浴直後には臨床,血液および蹄角質に毎回一定の変化を認めたが,温浴中の心拍変動が示したように常盤における温泉浴刺激は生体に何等の支障を及ぼさないものと考える。 また温泉浴に対する馴れの現象は比較的容易に現われ,出浴後の変化は漸次減少し回復の促進がみられた。
3)本実験における検査成績は概して著変を示さなかったが,一般に東京より常磐支所,更に対照群よりは温浴群にやや一定の傾向がみられ,しかもそれはヒトにおけると同様副交感神経緊張を推察しうる傾向であつた。