Japanese Journal of Equine Science
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東亜と日本在来馬の起源と系統
野澤 謙
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1992 年 3 巻 1 号 p. 1-18

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抄録

 ウマの家畜化は,他種家畜のそれと同様,漸進的な過程として理解しなければならないが,BC3,000年前後に,東南欧の草原地帯を舞台にして,この過程は大きく進展したと考えられる。この家畜化中心地から東に向う家畜馬伝播の過程,特に蒙古馬成立に至るまでに,Przewalsky野生馬から遺伝子が流入した可能性がないとは言えない。 東亜と日本の在来馬の源流は疑いもなく中国在来馬であるが,中国在来馬には体型を異にした蒙古系馬と西南山地馬の2大類型があり,これらに,西域経由で導入されたアラブ・ペルシア系馬種が多かれ少なかれ遺伝的影響を与えている。中国在来馬の2大類型間の系統的関係については,それらの間の遺伝学的比較調査をおこなうことによって明らかにされよう。「2大類型」と言われてはいるが,西南山地馬が蒙古系馬が単に山地環境での駄載と輓用を主とする用役に適応して生じた矮小化型に過ぎない可能性もないとは言えない。 大陸部,島嶼部を問わず東南アジアの広域に分布する小型在来馬が,中国西南山地馬の系統につらなることに疑問の余地はいまのところない。この地域の現在の産馬は,植民地化の歴史のなかで,西欧系馬種の遺伝的影響を多少とも蒙っていると考えられる。 東北アジア,すなわち韓国や日本の諸在来馬種は主に蒙古系馬の系統につらなると考えられる。韓国済州島馬成立の歴史はこれを示唆しており,この馬種の成立の初期以来,小型化して現在に至っているという可能性がある。日本在来馬のうち南西諸島の小型在来馬が中国西南山地馬に由来するとの説については,この説が,縄文・弥生両期に,南西諸島を含む日本に馬産があったという推測に根拠を置いているところから見て,疑いなきを得ない。最近の考古学的発掘が,日本における馬産が古墳期以降に始まったことを物語っているとすれば,古墳期に朝鮮半島を経由して種々の文物を受け入れるなかで,蒙古系馬が輸入され馬産が始まったと推測する方がより合理的であろう。その場合,南西諸島の小型在来馬はもと本土より南下し,小型化したものと考えられる。ただし,この点については,遺跡から出土した馬骨の生存年代を化学的方法によって明らかにしたデータが蓄積するのを待って最終的判断を下すべきである。

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