抄録
間接抗グロブリン試験(IAT)陽性妊娠馬(IM群)と陰性妊娠馬(NM群),およびこれらの新生子ウマの血液学的性状について経時的に検索した。雌馬の妊娠や分娩に伴う血液性状には,経時的にもまたIM・NMの群間にも有意な変化が認められなかった。新生子ウマでは,分娩直後の白血球数,特にリンパ球数,sIg陽性リソパ球(B-リンパ球,sIg-L)数およびANAE陽性リンパ球(T-リンパ球,ANAE-L)数が著しく低く,その後徐々に増加して,生後3か月齢で成馬の正常値に近似する値を示した。IM群からの子ウマ(FIM群)とNM群の子ウマ(FNM群)の比較ではほとんど差がなかった。またFIM群のうち,初乳の哺乳を制限(分娩直後から分娩後6-9時間)した子ウマ(FNSC群)と自由に哺乳させた子ウマ(FSC群)の比較では,slg-LとANAELの比率にはほとんど差が見られなかった。しかし,μl当りの実数値では,7日目には両群間に差がなかったが,FNSC群のリンパ球数及びsIg-L数は1か月目以降,またANAE-L数は3か月目以降からFSC群のそれよりも高値を示した。 IM群のIATにおける血清中の抗体価の消長には3種のパターンが,また乳汁中では4パターンが観察された。これらのうち,分娩直前に抗体価の出現するものや急激に上昇するもの,および分娩後1-6時間に乳汁中の抗体価が上昇するものでは,新生子黄疸の予知診断や予防上,注意が必要と考えられる。 IM群からの子ウマのうち,初乳の哺乳を制限したFNSC群のIATは,何れも陰性であった。よって,IAT陽性妊娠馬からの子ウマに分娩直後から6-9時間までの初乳制限処置は,新生子黄疸の予防上有効と考えられた。また,IAT陽性妊娠馬からの子ウマの各自己赤血球と各母ウマ血清との問でIATを実施したところ,64.3%が陽性であった。