抄録
本研究では,古今東西の造形539作例に描かれたウマを,実馬の外貌や機構に照らして分析し,体表のレリーフ表現における時代的あるいは地域的な特徴を検討した。 作例の分析に先立ち,指標となる実馬の体表の特徴的な構造物(指標構造物)20か所の運動中の変形状態や視認性の変化を動作分析により調べた。これを基に,個々の作例中のウマに描かれた指標構造物の写実度を実馬の形態に照らして三段階評価で採点した。作例別にこの評価点を合計し,実馬同様にそれらの指標構造物が描かれた場合を100とした時の写実度を百分率として求め,これを「構造利用度」と名付けた。539作例の構造利用度の平均は62%であった。西洋のいわゆる写実派の時代では,構造利用度は総体的に高い値を示した。中世の西洋,秦から唐にかけての中国などの作例は,構造利用度が低い傾向にあった。古代オリエントや20世紀の西洋,あるいは時代を問わず日本の作例では構造利用度の高いものと低いものが混在し,特に一定の傾向はみられなかった。また,各構造物の描写頻度を調べたところ,下腿部の筋,浅胸筋,腰角および上腕三頭筋などが多くの作品で積極的に描写されていることがわかった。