Japanese Journal of Equine Science
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―特別寄稿―事実と真実と美術解剖学
中尾 喜保
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1993 年 4 巻 2 号 p. 137-144

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抄録

美術家のための解剖学(美術解剖学)は,ヒトやあるいはウマを中心とした動物を観察してそれを表現するための諸知識や作品を批判する方法論を述べたもので,西洋のルネッサンスにレオナルド・ダ・ヴィンチらが Anatomia を導入した時以来の名称を継承しているが,内容は外貌や動き,また生理・病理的症状をも含めた広義の解剖学であると同時に造形上の表現理論や技法についての知識をも包含するものである。19Cになって,いわゆる抽象絵画(彫刻)の流行や写真技術の発明によって一時は衰退の傾向を見せたものの,最近では物の本質を観察しようとする気運によって,再び美術解剖学の観察力や方法が見直されてきている。
本論では,作家がタブローを仕上げるまでの過程や,解剖図譜の問題点,あるいは芸談等を示しつつ,科学的に正確な事実を表現する標本画と“それらしさ”を表現する造形作品との相違を述べ,さらに具体的な作例の解説をしつつ,美術作品の虚構性や詩的真実について論説した。最後にあまりにも異分野の知識を併せ持つ必要性から,分析・評価方法の確立が困難な美術解剖学であるが故に,ことウマに関する美術解剖学の研究方法論の確立・発展の場として,本学会に大いに期待するという願望と提案を述べた。

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© 日本ウマ科学会
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