2024 年 2024 巻 1 号 p. 181-193
渡部 永愛(大仙市立大曲中学校)志村 昭暢(北海道教育大学)
キーワード:小中連携,ビリーフ,学習効果
本稿では,小学校英語教育の成果に関する教師の意識を調査した,萬谷他(2013)と萬谷他(2017)の研究を基に,小学校外国語科担当教師と中学校英語教師を対象とした質問紙調査を行い,小学校外国語科の成果に関する意識について,その特徴や違いについて考察した。結果は小学校外国語科担当教師と中学校英語教師の外国語活動の成果に関する意識として,「聞く話す」,「読み書き」,「コミュニケーション力」,「偶発的学習」の四つ特徴があることが明らかになった。また,小学校外国語科担当教師と中学校英語教師の意識の違いとして,「聞く話す」,「読み書き」,「偶発的学習」の三つの意識について差がみられることが明らかとなり,「聞く話す」,「読み書き」については小学校教師の方が高い成果と考えており,「偶発的学習」については中学校英語教師の方が高い成果であると考えていることが示された。これらの差が生じた要因として,互いの学校種の指導目標を正しく認識していないことが示され,自身の学校種の目標と異なる場合は特にその傾向が強まることも明らかになった。
2017年の小学校学習指導要領の改訂により,2020年から小学校3,4年生で外国語活動が早期化,5,
6年生で外国語が教科化され,公立小学校における英語教育の充実が図られた(文部科学省, 2017a)。これにより,我が国における小学校,中学校,高等学校の8年間を通した英語教育について,言語活動を通して行うことや,コミュニケーション能力の育成についてすべての学校種で統一した方針が示されたといえる。これにより,各学校種間における英語教育の連携が重要になると考えられるが,小学校では外国語科が教科化されたことにより,これまでの外国語活動における英語への慣れ親しみの時代から定着へとフェーズが変わったこともあり,学習者の英語能力育成に向け,小学校と中学校の英語教育における連携がこれまで以上に重要になると考えられる。
英語教育における小中連携の現状について,令和 3 年度の英語教育実施状況調査(文部科学省, 2021)の結果によると,小学校との連携に取り組んでいると回答した中学校が全国で 72.5%であり,全体の傾向として比較的進んでいると評価される一方で,地域による差もみられ,最も高い地域で 100%,最も低い地域は 4.8%と,地域毎に大きな差がみられるという課題がある。また,中学校と小学校の連携の形態として,授業参観や年間指導計画の交換等の情報交換(62.6%)が最も多く,次いで指導方
法等についての検討会や授業参観後の研究協議等を行う交流(39.7%),小中連携したカリキュラムの作成(20.2%)が挙げられている。授業参観や研究計画の交換のような短期間で行うことができることは多くの学校で行われているが,小中連携したカリキュラム作成のような長期間に渡る交流はあまり行われていないことが課題と考えられる。英語教育における小中連携に関する研究として,櫂(2007)では韓国における小学校英語の成果が中学校に引き継がれていないことが指摘されており,Rixon
(2013)においても小学校英語を推し進めるほとんどの国で小中連携が課題となっていると指摘されていることから,英語指導における小中連携は世界中で共通の課題となっている。小学校教師と中学校英語教師が従来から積極的に行われてきた各種の交流だけでなく,学習者に対する指導の成果や指導観等のビリーフについても連携することで,より効果的な英語指導を継続させることが可能となるのではないか。
本稿では,小学校英語教育の成果に関する意識を調査した萬谷他(2013)と萬谷他(2017)の研究を基に,小学校外国語科担当教師と中学校英語教師を対象とした質問紙調査を行い,小学校外国語科の成果に関する意識について,その特徴や違いについて考察した。
小学校と中学校英語教育の接続や連携に関する研究について,小学校英語教育の成果に関する意識に関する研究として萬谷他(2013)と萬谷他(2017)がある。
萬谷他(2013)は必修化された小学校外国語活動を学習した経験のある中学生を指導した英語教師を対象とした質問調査を行い,外国語活動の成果と外国語活動に関する教師の意識を明らかにした。結果は学習者の英語力に差があること,コミュニケーション能力の素地が身についていると考えている教師がいる一方,その当時の小学校では扱うことが想定されていない,英語の読み書きや文法能力が低いと考えていた教師が多いことが示された。また,小学校外国語活動に対する中学校教師の意識について,肯定派•改善派•否定派という三つのグループに分類され,改善派•肯定派が多く,否定派が少ないという傾向が示された。ただし,否定派の中には,「小学校ではアルファベットを全てかけるようにして欲しい」など,小学校の学習指導要領を理解していないことが原因で否定的に考えている教師がいる可能性があることが示された。また,中学校教師に対する小学校外国語科に関する研修の参加経験と教師の意識について比較したところ,統計的に有意な差がみられず,研修の経験があまり影響しないことが示された。
萬谷他(2017)は萬谷他(2013)の外国語活動導入直後の学習を経験した学習者についての中学校英語教師の意識と,外国語活動がある程度定着したと考えられる 5 年後の学習者に対する英語教師の意識についての比較研究を行った。結果は小学校外国語活動の成果として,必修化直後と比べ,積極性が高いと考える傾向が強いことが示された。また,外国語活動に関する意識としては,否定派が減り,肯定派が増えるという結果が示された。これは外国語活動の指導法がある程度確立され,学習者の英語力や動機づけが高まったと判断した中学校教師が増えたことや,外国語活動に関する知見が深まったことことが原因であると考えられる。また,中学校教師の外国語活動に関する研修の参加経験が教師の外国語活動に関する意識に影響していることが示され,研修を受けた教師は小学校外国語活動の成果を発揮できるような授業づくりを行うことができるとともに,小学校での指導内容への関心が高
まると考えられる。
中学校英語教師の小中連携に関する意識を調査したものに,野村•竹本•岡田(2020)がある。中学校英語教師を対象に,小中の学びの接続の重要性に関する認知や学習者の小学校での学びを把握していること,小中連携を円滑に行うことを困難にしていることについて,面接及び質問紙調査を行った。結果は小中の学びの接続に関する重要性について,82.2%の教師がかなり重要であると回答しており,学習者の小学校での学びを把握しているかについては 47.0%の教師が把握している,もしくはやや把握していると回答している。特に注目すべき点としては,小中接続を円滑に行うことを困難にしている「制限」の概念モデルを提示し,困難をもたらす要因として,小中の引継ぎシステムの不足や校区の広さなどの物理的要因,小学校への遠慮•先入観回避などの心理的要因,小中連続の重要性に関する基盤となる知識不足などの三つの要因があることを示したことが挙げられる。
以上のような先行研究を踏まえ,萬谷他(2017)と萬谷他(2013)の質問紙を基に,小学校外国語科教科化後の小学校外国語科担当教師と中学校英語教師の外国語科の成果に関する意識を明らかにするために,小学校教師と中学校教師を対象とした質問紙調査を実施し,以下研究課題を設定した。
RQ1. 小学校外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識の特徴は何か。
RQ2. 小学校外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識の違いは何か。
小学校外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識とその違いを明らかにするために,小学校教師と中学校英語教師を対象とした質問紙調査を行った。参加者は主に北海道内の小学校•中学校に勤務している教師で,小学校教師は 5,6 年生の外国語科の指導経験がある教師,中学校英語教師はで外国語科を経験した学習者を指導した経験がある教師のみを抽出したところ,小学校教師 27 名,中学校教師 36 名が対象となった。参加者の教師年数を以下に示す(表 1)が,おむね年齢層に偏りがないと判断した。質問紙調査は Google Form を利用し,著者の勤務校が主催の小学校英語オンライン講座(北海道教育大学, 2020)の参加者と,著者の勤務校の卒業生や関係する教師に依頼した。
表 1 参加者の教師年数
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26 年以上 | ||
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4 | 3 | 4 | 5 | 3 | 8 |
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14.81% | 11.11% | 14.81% | 18.52% | 11.11% | 29.63% | |
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10 | 8 | 1 | 8 | 4 | 5 |
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27.78% | 22.22% | 2.78% | 22.22% | 11.11% | 13.89% |
調査方法として質問紙を採用した。萬谷他(2013)と萬谷他(2017)において開発された質問項目を採用したが,この二つの研究は中学校英語教師を対象としたものであり,小学校外国語活動を学習した経験のある生徒を想定したものであった。そのため,すべての項目について,小学校教師が回答できるように改訂したが,中学校教師しか回答できない項目は削除した。また,「英語のテストをされることに不安を感じている」という項目について,萬谷他(2013)と萬谷他(2017)ではペーパーテストを想定していたが,現行の小学校学習指導要領(文部科学省, 2017a; 文部科学省, 2017b)ではパフォーマンステストの実施も推奨されていることから,ペーパーテストをされることの不安と,パフォーマンステストをされる不安の 2 項目に分割した。全 29 項目中,6 項目を反転項目と解釈し,回答を反転させた。また,小学校教師には,「中学校英語教育に望むこと」,中学校英語教師には「小学校での英語教育に望むこと」という自由記述による項目を付加した。作成した質問項目は付録として添付した。回答は 1(全くそう思わない)から 5(非常にそう思う)までの 5 段階の Likert scale を用いた。質問項目は日本語で行い,プライバシーを特定するような項目は入れず,研究目的以外には使用しないことを明記し,すべての参加者から調査結果を研究で使用することへの同意を得た。
質問紙調査の回答結果について,小学校教師と中学校英語教師の回答を合わせて探索的因子分析(最尤法•プロマックス回転)を試みた。その後,因子に貢献しない項目を除外して再分析し,最終的に 14 項目で因子分析が収束した。小学校教師と中学校英語教師の外国語科の成果に関する意識の差を明らかにするために,所属する学校種を独立変数,因子分析によって得られた各因子の因子得点を従属変数とした 2 元配置分散分析を行った。自由記述の内容については,因子と関連づいた記述を抽出し,結果の解釈のために,考察で使用した。因子分析には HAD 18 (Shimizu, 2016)を使用し,2 元配置分散分析には Langtest(Mizumoto, n.d.)を利用した。
小学校外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識の特徴を明らかにするために,因子分析を行い(最尤法•プロマックス回転),どの因子にも貢献しない項目を除外し,再度分析したところ,最終的に固有値 1 以上の 4 因子が抽出された 。表 2 は項目の因子行列(パターン行列)の因子負荷量について因子毎に降順に並べたものである。
第 1 因子は「Q2 小学校外国語科を経験した生徒は,発音がよい(.78)」,「Q29 小学校外国語科を経験した生徒は,英語を話す(やりとり)力がある (.69)」,「Q28 小学校外国語科を経験した生徒は,英語を話す(発表)力がある(.59)」,「Q14 学校外国語科を経験した生徒は,英語への興味•関心が高い(.58)」,「Q26 小学校外国語科を経験した生徒は,英語を聞く力がある(.55)」の項目における因子負荷量が高いことから,「聞く•話す」と命名した。第 2 因子は,「Q17 小学校外国語科を経験した生徒は,文字で書かれた単語•文を見て音声化する力がある(.78)」,これは音読する能力と解釈し,
「Q12 小学校外国語科を経験した生徒は,文法事項をよく覚えている(.66)」,「Q9 小学校外国語科を
経験した生徒は,文字への抵抗感がある(反転)(.60)」は反転項目なので,文字への抵抗感が低いと解釈し,「Q25 小学校外国語科を経験した生徒は,英語を書く力がある(.53)」,「Q10 小学校外国語科は,小学校時代に英語嫌いの子どもを生み出している(反転)(.53)」の因子負荷量が高いことから,
「読み書き」と命名した。第 3 因子は「Q1 小学校外国語科を経験した生徒はコミュニケーション活動に積極的に参加する(.52)」,「Q6 小学校外国語科を経験した生徒は,語彙をたくさん知っている(.48)」の因子負荷量が高く,語彙を多く知っていることにより,コミュニケーションの幅を広げることができると解釈し,「コミュニケーション能力」と命名した。第 4 因子は「Q27 小学校外国語科を経験した生徒は,英語が「学習」であるという意識に乏しい(反転)(.72)」は反転項目なので,英語を学習と思わず,自然な形で学習していると解釈し,「Q30 小学校外国語科を経験した生徒は,英語=ゲームという発想がある(.49)」は英語を楽しんで学習していると解釈し,これらの項目の因子負荷量が高い ことから,学習よりも習得に近い形の学習である,「偶発的学習」と命名した。
以上のように,第 1 因子が「話す聞く」,第 2 因子が「読み書き」,第 3 因子が「コミュニケーショ
ン力」,第 4 因子が「偶発的学習」と命名されたことから,小学校教員と中学校英語教員の外国語科の成果に対する意識には,上記五つの特徴があることが示された。
表 2 小学校外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識に関する項目の因子行列
項目 Factor1 Factor2 Factor3 Factor4
聞く話す 読み書き
コミュニケーション力
偶発的学習
りとり)力がある。表)力がある。
関心が高い。ある。
単語•文を見て音声化する力がある。覚えている。
がある(反転)。ある。
もを生み出している(反転)。ョン活動に積極的に参加する。知っている。
であるという意識に乏しい(反転)。いう発想がある。
小学校外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識を比較するために,教師の学校種(Teacher)を独立変数,各因子の因子得点(Factor)を従属変数とした 2 元配置分散分析を行ったところ,学校種の主効果と因子間の主効果について,いずれも統計的に有意な差がみられなかったが, TeachersXFactor の交互作用において,統計的に有意な差がみられ,効果量も Large であった(F (2,61)
= 6.69, p = .00, ri2=.14)。各因子の小学校教師と中学校教師の因子得点の記述統計(表 3)と 2 元配置分散分析の結果(表 4)を以下に示す。次に,各因子の小学校教師と中学校英語教師間の単純主効果の検定を行ったところ(表 5),第2 因子の「読み書き」(F (1,61) = 20.91, p = .00, ri2=.26),第4
因子の「偶発的学習(F (1,61) = 4.21, p = .04, ri2=.06)について統計的に有意な差がみられ,第 2 因子の効果量は Large で,第 4 因子の効果量は Medium であった。第 1 因子の「聞く話す」(F (1,61)
= 3.62, p = .06, ri2=.06 )は有意傾向であったが,効果量が Medium であったことから,有意差がみられた項目と同様に解釈した。第 3 因子の「コミュニケーション力」(F (1,61) = 0.53, p = .47, ri2=.01)については統計的に有意な差がみられず,効果量も Small であった。平均値を比較したところ,第 1 因子の「聞く話す」と第 2 因子「読み書き」は小学校教師の因子得点の方が高く,第 4 因子の「偶発的学習」については中学校英語教師の因子得点が有意に高いことが示された。
表 3 各因子における小学校教師と中学校英語教師の外国語科成果に対する意識の記述統計(因子得点)
Teacher
小学校教師 中学校英語教師
( n =27 ) ( n =36 )
Factor | M |
|
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||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
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0.81 | -0.19 | 0.97 | ||||
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0.69 | -0.39 | 0.86 | ||||
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0.9 | 0.07 | 0.78 | ||||
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0.86 | 0.18 | 0.75 |
表 4 2 元配置分散分析による外国語科成果に対する意識比較の統計結果
Source |
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||||
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2.39 | 1 | 2.39 |
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.04 | ||||
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63.44 | 61 | 10.30 | |||||||
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0.34 | 2 | 0.13 |
|
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.00 | ||||
|
16.66 | 2 | 6.69 |
|
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||||
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105.70 | 152 | 0.70 |
表 5 各因子間の小学校教師と中学校教師の意識における単純主効果の検定の結果
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2.98 | 1 | 2.98 | 3.62 | .06 | .06 | |
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50.19 | 61 | 0.82 | |||||
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13.01 | 1 | 13.01 | 20.91 | .00 | .26 | |
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37.96 | 61 | 0.62 | |||||
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0.36 | 1 | 0.36 | 0.53 | .47 |
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41.99 | 61 | 0.69 | |||||
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2.69 | 1 | 2.69 | 4.21 | .04 | .06 | |
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39.00 | 61 | 0.64 |
以上の結果から,外国語科の成果についての意識に関して,小学校教師と中学校英語科教師の間に「聞く話す」,「読み書き」,「偶発的学習」で差がみられることが明らかとなった。
前節において,外国語科の成果に関する意識について,小学校教師と中学校英語教師の意識として,
「聞く話す」,「読み書き」,「コミュニケーション力」,「偶発的学習」の四つの因子が抽出された。また,「コミュニケーション力」以外の三つの項目について,小学校教師と中学校教師の意識に差がみられることが明らかとなった。本節ではそれらが生じた理由について考察する。
外国語科の「聞く話す」の成果に関して,中学校英語教師よりも小学校教師の方が高いと考えていることについて,現行の小学校学習指導要領において(文部科学省, 2017a),外国語科の目標として英語を「聞くこと」,「話すこと」がこれまでの外国語活動時代の慣れ親しみから定着に目標が変化したことにより,外国語科の成果として「聞く話す」がこれまで以上に定着していると感じていると考えられる。また,外国語科では Small Talk を用いた提携表現の獲得と言語活動による定着に力を入れて指導することが求められており(文部科学省, 2017c; 佐々木•巽, 2020),小学校教師が「聞く話す」の指導に力を入れていることから, 成果が高いと感じているのかもしれない。一方で,中学校教師については,小学校外国語科指導に望むことに関する自由記述の中で,「十分や語彙や表現がない段階で無理に会話をさせることはしなくてもいい」や「話すも発表などさせないで,丁寧なやり取りを増やしたら楽しい授業になる」などの記述があり,学習指導要領が変わり,外国語科で聞くことと話すことの定着が目標となったことを認識していないことや,誤った指導観を抱いていることにより,外国語科の成果を小学校教師よりも低く評価しているのではないだろうか。
外国語科の「読み書き」の成果に関して,中学校英語教師よりも小学校教師の方が高いと考えていることについて,小学校教師の中学校英語科の指導に望むことに関する自由記述の中で,「単語や文法を教える学習ではなく,字は書き写すまでで行うことを理解してほしい」や「小学校外国語が音声中心であることを共通認識してほしい」など,中学校からの「読み書き」に関する期待が高く,それに困惑している様子がうかがえる。おそらく,小中連携で中学校英語教師から同様の指摘がなされており,中学校英語教師に外国語科の指導目標を正しく理解してほしいという小学校教師の気持ちが示されていると考えられる。中学校教師の自由記述からは,「書く力がもっとついてほしい」や「文字を丁寧に,形や大きさ,位置についてもっと確実に指導してほしい」という回答があったことから,この意識についても,外国語科で「読み書き」について,小学校学習指導要領に定めされているような,大文字,小文字を活字体で書くことができるや語順を意識しながら音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を書き写すことができるようにする,例文を参考に,音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を用いて書くことができるようにする(文部科学省, 2017a)といった,目
標を十分に理解していないことが推察される。そのため,小学校で「読み書き」を学んでいるはずなのに,学習者があまりできていないと考え,成果を低く判断していると考えられる。
外国語科の「コミュニケーション力」の成果に関して,小学校教師と中学校英語教師の意識に差がみられなかったことについて,小学校学習指導要領において,小学校外国語科も中学校英語科も目標として,コミュニケーション能力を養うことが求められており,外国語科ではコミュニケーションを図る基礎となる資質•能力の育成(文部科学省, 2017a),中学校では簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質•能力(文部科学省, 2017b)とされている。そのため,コミュニケーションに関する目標はレベルの差はあるがおおむね同じであり,小学校教師と中学校英語教師ともに「コミュニケーション力」に関しては共通した認識を持っていることから,外国語科の「コミュニケーション力」の成果に差が生じなかったと考えられる。
外国語科の「偶発的学習の成果」に関して,「聞く話す」および「読み書き」とは異なり,小学校教師よりも中学校英語教師の方が高いと考えていることについて,文部科学省(2021)によると,児童生徒の英語による言語活動の状況を調査したところ,小学校 5,6 年生では 92.0%,中学校は 1 年生で 73.0%と小学校の方が英語による言語活動の扱いが多いことが示されており,小学校学習指導要領が求めている,言語活動を通したコミュニケーションを図る資質•能力の育成について,小学校の方が中学校よりも成功していると判断される。そのため,中学校教師は学習者が英語を勉強としてはなく自然な状態で学習している,つまり偶発的な学習スタイルとなっていることを評価していると考えられる。中学校教師の自由記述にも,「絵本の読み聞かせ,歌,を教材としながら外国語の音声と語彙に慣れ親しみ,母親が子どもに語りかけ,思いと言葉を引き出すようなやりとりをしていただくことで自然な言語習得を促していただきたい」という回答があったこともあり,小学校での偶発的な学習を期待していると考えられる。そのため,小学校教師よりも学習者の「偶発的学習」に対する成果への意識が高くなったのではないか。また,小学校教師は外国語科が教科かされたこともあり,外国語活動時代に多く行われていた,歌やゲーム中心の授業からの脱却し,より習得を目的とした活動への指導方針の転換が求められていると判断した可能性がある。そのため,小学校教師が体験的な「偶発的な学習」について,外国語科として期待される成果としては低く評価したのではないだろうか。
以上のように,外国語活科の成果に関する意識について,小学校教師と中学校英語教師の意識に差が生じた理由として,互いの教育目標を正しく理解していないことや,求めている学習者の学習スタイルの相違が影響していると考えられる。また,これらの要因は野村•竹本•岡田(2020)の小中接続を円滑に行うことを困難にしている「制限」の概念モデルにある,小中連続の重要性に関する基盤となる知識不足なども一致しており,互いの学校種の学習指導要領を理解することの重要性が示されたと考えられる。
また,2020 年度からの外国語活動の早期化,外国語科の教科化(文部科学省, 2017a)は日本の英語
教育のフェーズを変えた大きな節目であり,これまで以上に小学校における英語教育が注目されることとなった。そのため,接続する中学校英語教師が教科化された外国語科を学んで来た学習者の英語力についての期待が高まったが,実際に中学校に入ってきた学習者の実態を見るとそれ程高くないと感じている可能性も考えられる。
本稿では小学校外国語科の成果に関する意識について,萬谷他(2013)と萬谷他(2017)の研究を基に小学校外国語科担当教師と中学校英語教師の意識の特徴とその違いについて分析を行った。本研究における二つの研究課題について,結論としてまとめる。まず,ひとつ目の研究課題である,「小学校外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識の特徴は何か」について,因子分析の結果,「聞く話す」,「読み書き」,「コミュニケーション力」,「偶発的学習」の四つの意識の特徴が明らかとなった。二つ目の研究課題である,「小学校外国語科の成果に対する小学校教師と中学校英語教師の意識の違いは何か」について,各因子の因子得点の平均値を比較したところ,「聞く話す」,「読み書き」,「偶発的学習」の三つの意識について,差がみられることが明らかとなり,「聞く話す」,「読み書き」については小学校教師の方が高い成果と考えており,「偶発的学習」については中学校英語教師の方が高い効果だと考えていることが示された。これらの差が生じた要因として,互いの学校種の指導目標を正しく認識していないことが挙げられており,自身の学校種の目標と異なる場合は特にその傾向が強まることが指摘された。また,2020 年度からの小学校における外国語活動の早期化,外国語科の教科化は日本の英語教育のフェーズを変えた大きな出来事であり,フェーズが変わるとその成果に対する期待が過剰に高まることから,中学校教師が外国語科の成果を過剰に期待したとも考えられる。
本研究により,小学校外国語科と中学校英語科は互いの英語教育の内容•指導方法,経験や成果,学習者の学習実態などを共有して,より密接に連携する努力が必要であることが示された。また,文部科学省(2021)が示しているような,中学校と小学校の連携の形態に加え,各学校種の教師ができることとして,接続する学校種の学習指導要領や教科書を理解し,それぞれの目標や指導の重点を知ることが重要である。たとえば,隣接する学校種の先生方と共同で,お互いの教科書や学習指導要領のポイントを議論することや,連携した指導目標やCANDO リストの作成を行ってはどうか。さらに,小中連携の新たな方法として,互いの学校種の教師研修に参加することも重要ではないか。それぞれの学校種に勤務する教師にとって,自分の学校種の研修だけで手が回らないかもしれないが,隣接する学校種の研修に参加することで,互いの指導の現状を理解し,互いが抱いている疑問や誤解を解消する一助になるかもしれない。最近は,オンライン上の教師研修プログラムも充実しており,YouTube文部科学省チャンネルの「外国語教育はこう変わる!シリーズ」(文部科学省, 2018)や,小学校英語教育については,北海道教育大学の小学校英語オンライン講座の web サイト(北海道教育大学, 2020)に,研修動画や授業動画が多数公開されており,それらを自分で見るだけでも,小中連携に向けた研修を行うことができるのではないだろうか。
本研究の限界として,調査対象となった小学校教師と中学校英語教師の数が十分とは言えず,一般化することは難しいかもしれない。今後参加者の人数を増やした調査を行う必要があると思われる。また,文部科学省(2021)によると,英語教育における小中連携の取り組みには地域差があることが
指摘されていることから,異なる地域における外国語科の成果に関する特徴や差を調べる必要があると考えられる。
今後の研究としては,本調査の参加者の外国語科に関する意識を長期的に調査し,3 年後,5 年後にどのように変化するかについて検証したい。さらに,本研究で得られた成果について,実際の小学校外国語科,中学校英語科の授業でどのような影響があるかについて,授業分析や学習者への質問紙調査等を用いて明らかにしていきたい。
なお,本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。
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本稿で使用した質問項目小学校教師向け
中学校英語教師向け