2023 年 23 巻 01 号 p. 67-82
山口 美穂(大阪青山大学) 吉澤 寛之(岐阜大学)
要旨
本研究では,小学校外国語科「話すこと[やり取り]」の領域におけるSmall Talk で,児童がどのような発話をしているかについて,会話音声の分析により発話内容の経時的な変化を明らかにした。さらに,児童の対人関係に対する情意と Small Talk に対する緊張感が Small Talk の発話の経時的な変化に影響を与えるという仮説に基づき,児童を情意面の指標で分類し,指標のペアの組み合わせごとにSmall Talk の発話の変化を比較した。固定したペアで 6 か月 Small Talk を実施した結果,友人関係の満足度の低い児童は,友人関係の満足度,周りの受容を感じる度合い,緊張感のすべてにおいて平均的な児童と継続的に Small Talk をすることにより,発話の総語数の増加,主語・動詞・目的語(補語)の整った文,会話のターン数,相手の話に反応する語数の増加が認められた。しかし,Small Talk 時の緊張感が高い児童は,どの特性を示す相手との組み合わせでも,有意な経時的な変化が認められなかった。これらの分析より,Small Talk を実施する際,児童の情意面の特性に配慮したペアの組み合わせをすることで Small Talk の実践の効果を高められることが明らかになった。
学習指導要領(文部科学省,2017b)が告示され,小学校高学年では,年間 70 時間の外国語の教科
学習が始まった。小学校高学年の外国語活動では 4 技能 5 領域が示され「聞くこと」,「話すこと」に加え,「読むこと」「書くこと」を扱っている。「話すこと」の技能については,「話すこと[やり取り]」
「話すこと[発表]」と 2 つの領域に分かれた。新学習指導要領の外国語科「話すこと[やり取り]」の領域での目標は「イ 日常生活に関する身近で簡単な事柄について,自分の考えや気持ちなどを, 簡単な語句や基本的な表現を用いて伝え合うことができるようにする。」「ウ 自分や相手のこと及び身の回りの物に関する事柄について,簡単な語句や基本的な表現を用いてその場で質問をしたり質問 に答えたりして,伝え合うことができるようにする。」と示されている。「その場で」とは自分のこと や身の回りの物に関する事柄について,相手とのやり取りの際,それまでの学習や経験で蓄積した英語での話す力・聞く力を駆使して,自分の力で質問したり,答えたりして,意味のある会話を継続し
ていくことができるようになることを指している。会話は相手の質問に答えたり,相手の話に反応したりすることにより継続していく。上記の指摘には,相手に配慮しながらコミュニケ―ションを図ることに重点を置いて指導していかなければいけないことが示唆されている。
文科省の学習指導案例の中では,Small Talk が言語活動の一つとして提示されている。『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』(文部科学省,2017a)では「Small Talk とは,高学年新教材で設定されている活動である。2 時間に 1 回程度,帯活動で,あるテーマのもと,指導者のまとまった話を聞いたり,ペアで自分の考えや気持ちを伝え合ったりすることである。また,5 年生は指導者の話を聞くことを中心に,6 年生はペアで伝え合うことを中心に行う。」と示されている。また,「児童が興味・関心のある身近な話題について,自分自身の考えや気持ちを楽しみながら伝え合う中で,既習表現を繰り返し使用し,その定着を図るために行うもの」と述べられている。Small Talk を行う主な目的は,既習表現を繰り返し使用してその定着を図ることや,対話を続ける方略を身につけることである。 教科化に伴い複数の教科書で Small Talk が掲載され,その実践は徐々に広がりをみせている。Small Talk では提示された目的・場面・状況について,児童は既習表現を用いて 1 回目のペアでの会話を行い,その後一斉指導による中間評価を受け,それを踏まえて 2 回目のペアでの会話を実施する。川村
(2020)は,小学校での Small Talk の実践を対象とした中間評価時の指導者の対応を,(1)確認,(2)既習表現の想起,(3)言い換え,(4)翻訳の 4 つに分類し,各実施回数を調べている。その結果から,
「Small Talk の中間評価ではコミュニケーションの方略の指導が行われていた。」と結論づけている。しかし,中間評価は一斉指導で行われているためコミュニケーション方略の指導が可能であるが, Small Talk は学級の児童がペアで同時に話す活動であるため,実際に各ペアがどのような会話をしているかを見届けることが難しいという課題がある。したがって,個別のペアの会話内容を分析し,実 態を明らかにすることは,効果的な Small Talk の在り方を考える上で,重要な視点であると考える。
山口・巽(2020)は,会話中の発話の変化が児童の情意面に関係していることに着目し,Small Talkの学習効果の向上を目的に,英語学習に対する情意面と児童の発話パフォーマンスとの相関関係を分析した。その結果,「緊張しないで話せる」と言う情意が発話総語数,話題数の変化に影響を与えることを示している。松宮(2009)は,HRT(学級担任)の目から見た児童の様子について質問紙調査を行った結果,他教科に比べて英語の方が不安や緊張を感じる場面が多いことを指摘している。染谷
(2014)は,小学校外国語活動における児童の不安が聴解力に与える影響を検証し,不安は,他者意識や失敗に対する不安である「他者意識失敗不安」と「授業不安」に分類され,その2つには相関関係があり,「授業不安」が聴解力に負の影響を与えることを示している。Small Talk 時の不安を軽減させるためには,経験を積ませ,友達と楽しく会話できたという自己効力感を高めていくことにことが 効果的ではないかと考える。児童の不安を軽減し「緊張しないで話せる」という情意面の変化を促す ことは,結果として発話パフォーマンスを向上させる可能性があることが示唆される。これらの先行 知見を踏まえて,本研究では,小学校外国語科「話すこと[やり取り]」領域における Small Talk を, 毎時間の外国語科の授業で行い,Small Talk 時に実際に発話した会話内容を記録する。その分析結果から,児童のコミュニケーション力の経時的な変容を明らかにし,Small Talk の活動の効果を検証することを目的とする。
また,角谷(2021)はブレンディッド・ラーニングの要素についての研究で,ペア・グループ活動 を行わなかった実践では,パフォーマンステストにおいて「相手に尋ねかける」「ジェスチャー表出」
の力が高まらなかったことを示し,相手を意識したペアでの会話の経験の必要性を示唆している。ペ アでの会話時にペア間の差が見られるかについて,内田他(2014)は,大学の情報基礎教育にペアワークを導入し,ペアワーク時の発話量に影響を及ぼす一要因として考えられる学習者のパーソナリテ ィについて調査を行った。東大式エコグラム新版 TEGⅡを用いた結果,依存的な性格・行動パターンがペアの発話量に関与していることを報告している。この知見より,Small Talk 時のペアの組み合わせにより,児童の発話量に差があるのではないかという仮説が立てられる。そこで本研究では,アン ケート調査から児童の情意面を分析し,友人関係に対する情意や英語学習に対する情意に基づくペアの組み合わせの違いにより,Small talk を継続した前後の児童の発話における変化に与える影響を明らかにする。これらの分析に基づき効果的な Small Talk の指導法について提言することを目的とする。
Small Talk は目的・場面・状況を示し,そのタスクについて既習表現を用いて自由に会話する活動であり,CLT(communicative language teaching)の指導法の 1 つである。Savignon(1991)は,CLT が現代の国際的な言語学習者のニーズに応えるメソッドであると述べている。その後 30 年を経た 2022 年においても CLT は求められている。Hunter(2011)はワシントンのゴンザゴ大学の学生に Small Talkの授業を実践し,言語多様性とコーパス言語学の必要性,個々の学習者のニーズに注意深く目を向け, そこから生まれる応答的な教育法が必要であると述べている。Hunter は大学生での実践であるが,本研究では小学生にもこの学習者のニーズに応じた応答的な教育法が効果的であるか検証する。児童のSmall Talk についての研究として,山口・巽(2020)は,Small Talk を実践した小学校 6 年生児童(実践群)に,ALT(外国人指導助手)との個別のパフォーマンステストを実践開始直後の 7 月と実践を
6 か月間続けた 2 月に実施した。Small Talk を全く実践していない 6 年生児童(統制群)にも 2 月に同様のパフォーマンステストを実施し,発話の「発話総語数」「話題数」「ターン数」「3 語以上の文の数」
「会話時間」「会話中のポーズの時間の割合」「相槌の回数」を比較した。Small Talk を実施した 6 年生では発話総語数が増加し,話題数や 1 つの話題でのやり取り数が増加していた。単語での応答から「主語+動詞+目的語」の英文で答えられ,相槌を打つなど円滑に会話を進めるスキルも増加していた。統制群の 2 月のパフォーマンステストの全指標において,実践群の 7 月の指標とほぼ同数であったことから,Small Talk を継続する効果が確認された。しかし,この研究では,Small Talk の効果を検証するために,ALT とのパフォーマンステストを実施していたが,友人同士で自由に会話する Small Talk とALT と会話するパフォーマンステストでは条件が異なっている。また,学年末の ALT と会話するパフォーマンステストでは Small Talk 以外の外国語の授業で学んだ内容が影響を与えていることが推察され,純粋に Small Talk の活動の効果を検証することはできていないことが課題として挙げられる。そこで,本研究では,実際の Small Talk 時の会話を経時的に記録し,会話内での変化を検証し,その効果を明確にすることを目的とする。
発話内容の分析方法として,飯野・籔田(2013)は,音読・シャドーイングとスピーキングの関係を調べる研究において,スピーキングの音声データを書き起こし,総語数 ÷ 発話時間で分析している。この分析を参考に本研究でも音声データを書き起こしたスクリプトを,発話総語数という量的デ ータに変えて分析する。 Hunter (2011)は,Small Talk 時の会話を録音し,124 分の会話で 1270 回の
ターンがあったと報告しており,会話を分析する指標の1つとして,ターン数を挙げている。先行研究に見られる指標はいずれも児童の発話を分析する上でも重要であると考えられる。しかし,Small Talk を行うねらいや,小学校外国語の目標に基づいた,本研究に適した児童の発話の分析指標も必要である。学習指導要領では,小学校外国語の主体的に学習に取り組む態度について,「外国語の背景にある文化に対する理解を深め,他者に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを 図ろうとする態度を養う」(文部科学省,2017b)と示されている。そこで,他者に配慮しながら会話を継続する力として,「相手の話に反応する力」に注目するため,相手の話の内容を繰り返したり,相槌を打ったりする表現を,「反応数」として分析の指標に加えることとする。また,会話の中で,自分の伝えたいことを単語のみで伝える方略から,「主語+動詞+目的語(補語)」の英文で答えることができるようになることも,英語の力の向上を見る重要な指標であるため,後者が成立している程度を指標に取り入れることとする。
L2(第 2 言語)と情意面に関する研究として,小磯(2014)は,成人 20 代から 70 代において情意要因は読解力よりも会話力により強く影響を表すこと,高年齢層では自己効力感の英語力への影響が高いことを報告している。外国語教育に関して,八島(2003)は,Willingness to Communicate (以下, WTC; MacIntyre et al, 1998)モデルに直接影響する要因として,「気の合った友人が相手の場合と初対面の相手と話す場合とでは心理的反応はかなり違うであろう」と述べている。これらは成人や高校生を対象としているが,物井(2015)は,児童用モデルを提案し,L2 でのコミュニケーションに関する不安を取り除くことにより,教室内での児童一人ひとりの国際的志向性の高まりや自身の L2 によるコミュニケーション能力の肯定的な評価につながることが期待できるとしている。また,タイプの異 なる学習者への配慮が必要であり,各人の外向性が大いに影響することを主眼に置き,そうでない児童が活躍できる配慮ある授業の構成にすることが望ましいと述べている。ペア・グループ学習は,児 童の不安を軽減させる重要な役割を果たすとし,課題として,児童の心の動きがいかに英語の運用能力の変化に影響を与えるかを明らかにしておかなくてはならないと述べている。英語教育と情意の関 係の研究は多くなされているが,児童の人間関係に対する情意に焦点をあてた研究は少なく,検証する価値があると考える。Storch(2002)は,メルボルン大学の ESL 教室における 10 組の成人のダイアディック相互作用に,「協調的/協調的」「支配的/支配的」「支配的/受動的」「専門家/初心者」の4 つの異なるペア・パターンを見出し,ペアの関係が言語学習に与える影響を調査した。その結果,言語学習は「協調的/協調的」「専門家/初心者」で成立しやすいことを示唆した。これらの先行研究から,ペアの関係性を考慮した検証が重要であることが分かる。したがって本研究では,情意面の特性の異なる児童のペアの組み合わせが,Small Talk 時の発話の変化にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とする。
参加者
本研究における参加者は,G 市にある公立 A 小学校 6 年生児童 84 人(男子 47 人,女子 37 人)である。A 校における英語科教育のカリキュラムでは,小学校 1 年時と 2 年時は HRT(学級担任)とALT の TT(チーム・ティーチング)授業で年間 18 時間,隔週 1 回程度の英語科授業を実施し,3 年
時と 4 年時は HRT 単独で 17 時間,HRT とALT の TT 授業で 18 時間,年間 35 時間の英語科授業を実施してきた。5 年時は HRT とALT で週 35 時間,専科教員単独で 35 時間,年間 70 時間の英語科授業を実施し毎時間授業開始直後に 10 分程度の Small Talk を実施した。本研究は,これらの経験を踏まえた 6 年生の授業開始直後に 10 分程度の Small Talk を実施し,IC レコーダーで会話を録音する。6 年生時の英語授業は HRT とALT で週 35 時間,専科教員単独で 35 時間,年間 70 時間実施する。
2020 年 6 月から 6 年生児童に週 2 回,年間 70 時間の小学校外国語の授業において,毎時間 Small Talk を実施した。この児童の 5 年生時の Small Talk の実施方法は,最初に ALT とHRT もしくは HRT と児童の1回のやり取りの様子を示した後,目的・場面・状況を提示し児童同士がペアで1 分半の会話をした。1回の Small Talk 終了後に Discussion Time を設け,伝えたいけれど分からなかった英語表現をクラスの児童全員で共有した。その後,ペアを代えて,もう1回同様の話題で Small Talk を実施した。話題は,好きな食べ物,ペットにしたい動物,季節や学校行事に関係するものなど,児童が身近で話したくなる話題を提示した。6 年生に進級した時点で,新型コロナウイルスの感染拡大による制限があり,Small Talk は毎時同一のペアで 1 回のみの実施とした。隣同士でペアを組み 1 年間ペアを固定して,毎時間 Small Talk を実施した。6 年時は Small Talk の会話を毎回 IC レコーダーで録音した。録音後に自己の会話を聞き省察した。分析の対象とする 3 回(6 月 18 日,8 月 28 日,11 月 6 日) は話題の話しやすさの影響を受けないように,すべて「好きな季節」に関するものとした。IC レコーダーで記録したSmall Talk の発話は文字に起こし,「総語数」は会話の中で発語された単語の数,「SVO/C の文の数」は主語+動詞+目的語/補語の文の数,「ターン数」は往復の会話の数,「反応数」は「繰り返 し」「Oh」など相手の話に反応した単語の数(me too, I see.は 1 語)として数え,量的データに変換した。数え方の例を図 1 に示す。なお,山森他(2016)は相手の話を聞き,積極的に会話を続けていく姿勢や技能を「反応力」と呼び,英語による反応力を育成することが求められるとしている。山口・ 巽(2020)は「反応数」を「相槌の回数」として操作的に定義し,相手の話に反応して相手の発話語の「繰り返し」や‟Me, too.” “Really?” “I see.” “Good.” “Nice.” “Thank you.” ‟Yes(相槌として使用した時)”を使用した回数を数え,その回数が経時的な増加量を示し,会話が円滑に継続されるようになったことを報告している。量的データへの変換は第1 筆者が実施したが,授業に補助ティチャーとして参加し Small Talk の実施方法,目的を理解している英文科大学院生が独立で変換したデータとの間でスピアマンの相関分析を実施した結果,「総語数」(r=.996, p<.001)「SVO/C の文の数」(r=.956, p<.001)「ターン数」(r=.942, p<.001)であったため,十分な信頼性があるといえる。
児童の対人関係の情意面を捉えるために,STAR(School-related Task Assessment & Resolution; 吉澤他, 2021)をタブレットによる個別に回答をする方法で実施した。STAR では友人関係について,Laird et al. (1999) の良好な関係を測定する尺度 5 項目,Bukowski et al. (1994) の関係の悪さを測定する尺度 4 項目を邦訳して用いた(各 4 件法)。その結果より,「友人関係の満足度」「周りの仲間の受容」の 2 つの下位尺度を得点化した。英語学習に対する情意面を質問紙で測定するため,「Small Talk を実施している時に緊張するか」という質問に対して「緊張しない」「やや緊張しない」「やや緊張する」「緊張する」の 4 件法で回答を求めた。
図 1 児童の Small Talk の書き起こしと語数,SVO/C の文,ターン数,反応数の数え方の例
研究について学校長の許可を得たうえで,その指導のもと保護者,児童には事前に研究の趣旨を説 明して同意を得ており,個人情報の匿名化,個人情報の管理にも配慮した。
分析計画として,まず,情意面の 3 指標を用いた階層的クラスター分析の結果に基づき,児童を情
意面の特性で 4 つのタイプに分類し,タイプ間の組み合わせでペアのパターンを抽出した。発話総語数,SVO/C の文の数,ターン数,反応数を従属変数,時期(1 回目:6 月 18 日,2 回目:8 月 28 日, 3 回目:11 月 6 日)と組み合わせペア・パターンを独立変数とした 2 要因分散分析を実施した。
4.1 Small Talk 時の発話の経時変化
6 月,8 月,11 月の Small Talk で発話された総語数について,時期を独立変数,総語数を従属変数として 1 要因 3 水準の対応のある分散分析を実施した。分析の結果,有意であったため(F(1,116)=36.143, p<.01),Holm 法の多重比較を行った。その結果,6 月から 8 月にかけては有意な差(p<.05)が認められ増加し,6 月から 11 月にかけて有意な差(p<.01)が認められ増加していた。8 月から 11 月も有意な差(p<.01)が認められ増加していた。継続的な実施により Small Talk 時の会話量が増えることが明らかになった。(図 2)。
次に 6 月,8 月,11 月の Small Talk で発話された SVO/C の文の数について,時期を独立変数,SVO/C のある文の数を従属変数として,1 要因 3 水準の対応のある分散分析を実施した。分析の結果,有意であったため(F(1,116)=30.346, p<.01)Holm 法の多重比較を行った。その結果,6 月から 8 月にかけては有意な差(p<.01)が認められ,6 月から 11 月にかけても有意な差(p<.01)が認められ,8 月から 11 月も有意な差(p<.01)が認められ,いずれも 11 月にかけて増加していた(図3)。継続によりSmall Talk 時にみられる SVO/C の整った文は増加することが示された。
6 月,8 月,11 月の Small Talk でやり取りした会話のターン数について,時期を独立変数,ターン数を従属変数として 1 要因 3 水準の対応のある分散分析を実施した。分析の結果,有意であったため
(F(1,116)=50.938, p<.01),Holm 法の多重比較を行った。その結果,6 月から 8 月にかけては有意な差が認められなかったが,6 月から 11 月にかけては有意な差(p<.01)が認められ,8 月から 11 月も有意な差(p<.01)が認められ増加していた(図4)。継続により Small Talk でやり取りしたターン数は増加することが示された。
6 月,8 月,11 月の Small Talk の会話で見られた反応数について,時期を独立変数,ターン数を従属変数として 1 要因 3 水準の対応のある分散分析を実施した。分析の結果,有意であったため(F(1,116)
=7.685, p<.01),Holm 法の多重比較を行った。その結果,6 月から8 月にかけては有意な差が認められ
図 2 発話総語数 図 3 SVO/C 文の数 図 4 ターン数 図 5 反応数
50 10
語 文
数 の
数
0 0
6月 8月 11月
10 10
タ
語 5
ン 数
数
0 0
6月 8月 11月
表 1 Small Talk の反応で見られた表現
なかった。6 月から 11 月にかけては有意な差(p<.01)が認められ,8 月から 11 月も有意な差(p<.01) が認められ増加している。継続的実施により Small Talk 時の会話で見られた反応の数は増加することが示された(図 5)。反応数は 6 月から 8 月にかけては増加が見られなかったが 11 月には増加したことから,反応を習得するには,ある程度の時間と経験が必要であることが示唆された。出現した反応表現から,6 月から 11 月にかけて使用する種類が増加し,‟Oh,”や相手の話した単語の繰り返し,
‟Why”など理由を尋ねて話を継続していく表現の使用が増えていることが分かる(表 1)。
ペアの情緒面の組み合わせによる Small Talk 時の発話の経時変化における差異
ペアの情緒面の組み合わせにおける違いにより,Small Talk 時の発話の経時変化における差異を比較する。他方,発話パフォーマンスは,各児童が身に付けている Speaking 以外の英語能力の影響を受ける可能性が考えられる。そこで,6 年生 12 月に実施した児童英検 Silver の得点と,発話総語数, SVO/C 文の数,ターン数,反応数との相関分析を実施した(表 2)。その結果,英検との関連は,SVO/Cの文の数以外では,各時点で一貫した相関は認められなかったため,英検の得点は今後の分析の対象から除外することとした。児童の情緒の指標によるグループ分けをするために「友人関係の満足度」
「周りの仲間の受容」「Small Talk 時の緊張感」について階層的クラスター分析を実施した(ユークリッド距離の平方・ウォード式)。その結果,デンドログラム及び解釈可能性を考慮した上で,4 クラスター解を抽出した(図 6)。
各クラスターの特徴を明らかにするため,クラスター間で情緒の指標を比較する分散分析を実施した結果,友人関係の満足度は有意な差が見られた(F(3,75)=175.738, p <.01)。多重比較の結果,クラスター1 と 3,クラスター2 と 3,クラスター3 と 4 のそれぞれの間に有意差が認められ(p<.001),クラスター3 の友人関係の満足度が低かった。
周りの仲間の受容感は,有意な差が見られた(F(3,75)=39.051, p<.01)。多重比較の結果,クラスター1 と 2,クラスター2 と3,クラスター2 と 4 のそれぞれの間に有意差(p<.01)認められ,クラスター2 の周りの仲間の受容が低かった。クラスター1 と 3 の間に有意差(p<.01)が認められ,クラスター
3 の周りの仲間の受容が低かった。クラスター1 とクラスター4 の間に有意差(p<.05)が認められクラスター4 の周りの仲間の受容が低かった。
表 2 英検得点と各時期の総語数,SVO/C 文の数,ターン数,反応数との相関
図 6 「友人関係満足度」「周りの仲間の受容」「緊張」によるクラスター分析
2
0 友人関関係の満足足度
周りのの仲間の受受容
-2 緊張
-4
Small Talk 時の緊張感は,有意な差(F(3,75)=41.309, p<.01)
が認められた。多重比較の結果,クラスター1 と 4,クラスター2 と 4,クラスター3 と 4 のそれぞれの間に有意差(p<.01)が認められ,クラスター4 の緊張感が高かった。
クラスター1 は友人関係の満足度,周りの仲間の受容,Small Talk 時の緊張感が標準化得点で 0 に近いため「平均型」(サンプル数 44)と名付けた。クラスター2 は周りの仲間の受容が低いため,「仲間受容低型」(サンプル数 13)と名付けた。クラスター3 は友人関係の満足度が非常に低いため,「友人関係満足低型」(サンプル数 11)と名付けた。クラスター4 はSmall Talk 時の緊張感が高いため,
「高緊張型」(サンプル数 11)と名付けた。
平均型の児童同士のペアは組み合わせ 1「平均-平均」,平均型の児童と仲間の受容低型の児童のペアは組み合わせ 2「平均-仲間受容低」,平均型の児童と友人関係満足低型の児童とのペアを組み合わせ 3「平均-友人関係満足低」,平均型児童と高緊張型児童とのペアを組み合わせ 4「平均-高緊張」, 仲間の受容低型の児童と友人関係満足低型児童のペアを組み合わせ 5「仲間受容低-友人関係満足低」, 友人関係満足低型児童と高緊張型のペアを組み合わせ 6「友人関係満足低-高緊張」,高緊張型児童同士のペアを組み合わせ 7「高緊張-高緊張」とした。以上の 7 種類の組み合わせのペア間で,各 3 時点における Small Talk の会話分析の結果を比較することとした。ペアの組み合わせに偏りが見られたのは,最初から意図的にペアの組み合わせをしたのではなく,隣の席同士のペアというように自然な組 み合わせで Small Talk の実践を続けた後に,それぞれのペアの組み合わせの特徴を分析したためである。組み合わせ(7 水準)と時期(3 水準)を独立変数として,総語数,SVO/C の文の数,ターン数, 反応数を従属変数とした混合計画の 2 要因分散分析の結果を以下に報告する。
時期と組み合わせの交互作用は有意であった(F(12,100)=2.368, p<.05)。交互作用が有意であったため,単純主効果の検定を行った。各時期における組み合わせの単純主効果は 11 月に有意であった
(F(6,150)=3.985, p<.01)。多重比較では 1「平均―平均」(p<.05)と 2「平均―仲間受容低」(p<.05),
5「仲間受容低-友人関係満足低」(p<.05)が有意であった。それぞれの 11 月の総語数の平均を見ると 1「平均―平均」は 2「平均―仲間受容低」より総語数が多く,3「平均―友人関係満足低」は 1「平均―平均」より総語数が多く,7 種類の組み合わせの中で最も多くなっている。3「平均―友人関係満足低」のように友人関係に満足を感じていない児童は,友人関係の満足度,周りの仲間の受容,Small
Talk の緊張度が平均の児童と Small Talk のペアを組むと,総語数が増えることが分かった(図 7)。
図7 6月と11月の総語数における各組合せ間の比較
平均―平均 平均―仲間受容低 平均―友人関係満足低
平均―緊張 仲間受容低ー友人関係満足低 友人関係満足低ー緊張
50..0
40..0
30..0
20..0
10..0
0.00
時期=66月総語
時期=11月総総語
図8 各組み合わせにおける総語数の変化
40
30
20
10
0
1 2 3 4 5 6 7
各組み合わせにおける時期の単純主効果は, 1「平均―平均」(F(2,100)=19.139, p<.01),3「平均―友人関係満足低」(F(2,100)=12.605, p<.01),4「平均―緊張」(F(2,100)=3,917, p<.05),5「仲間受容低
―友人関係満足低」(F(2,100)=5.025, p<.05)で有意であった。多重比較では 1「平均―平均」の 6 月から 8 月にかけては有意な差(p<.05)が見られ 6 月より 8 月は増加している。6 月から 11 月にかけ
ても有意な差(p<.01)が見られ 6 月より 11 月は増加している。8 月から 11 月も有意な差(p<.01)が
見られ 8 月より 11 月が増加している。3「平均―友人関係満足低」の 6 月から 8 月にかけては有意差が見られなかったが,6 月から 11 月にかけては有意差(p<.01)が見られ増加している。8 月から 11 月も有意差(p<.01)が認められ増加している。これらの結果から友人関係の満足度,仲間の受容感,緊張感が平均の児童同士,平均の児童と周りの仲間の受容感が低い児童,平均の児童と友人関係の満足 度の低い児童,仲間の受容の感の低い児童と友人関係の満足度の低い児童が Small Talk のペアを組むと総語数が増えることに効果があることが分かったが,緊張感が高い児童は有意な増加が見られないことが分かった(図 8)。
組み合わせの主効果は有意でなかった(F(6,50)=2.088, ns)。時期の主効果は有意であった(F(12,100)
=23.062, p<.001)。時期の多重比較では,6 月から 8 月にかけては有意差(p<.05)が見られ 8 月に増え
ていた。6 月から 11 月にかけて有意差(p<.01)がみられ 11 月が増えていた。8 月から 11 月にかけて
有意差(p<.01)が見られ 11 月が増えていた。
SVO/C の文の数の変化
SVO/C の文の数の時期と組み合わせの交互作用は有意であった(F(12,100)=2.347, p<.05)。組み合わせの主効果は有意でなかった(F(12,100)=2.347, ns)。時期の主効果は有意であった(F(12,100)=2.347, p<.001)。時期の多重比較では,6 月から 8 月にかけて有意差(p<.05)がみられ増えていた。6 月から 11 月にかけて,8 月から 11 月にかけてはいずれも有意差(p<.01)がみられ増えていた。
各時期における組み合わせの単純主効果は 11 月に有意であった(F(6,150)=4.169, p<.01)。 多重比較では1「平均―平均」と 6「友人関係満足低―緊張」が有意であり(p<.01),1「平均―平均」と 2
「平均―仲間受容低」,1「平均―平均」と4「平均―緊張」の差が有意(p<.05)であった。それぞれの組み合わせの 11 月の SVO/C の数の平均を見ると 1「平均―平均」は2「平均―仲間受容低」,4「平均―緊張」,6「友人関係満足低―緊張」より SVO/C の文の数が多くなっている。11 月では 1「平均― 平均」が 7 種類の組み合わせの中で最も多くなっている(図 9)。1「平均―平均」のように友人関係の満足度,周りの仲間の受容, Small Talk の緊張度が平均の児童同士が組むと SVO/C の文で会話できる力が伸びていくが,緊張度の高い児童は単語での応答が多く,文を生成する力を伸ばすことが難しいと考えられる。
各組み合わせにおける時期の単純主効果は,1「平均―平均」(F(2,100)=28.134, p<.01),3「平均―友人関係満足低」(F(2,100)=7.347, p<.01),6「友人関係満足低―緊張」(F(2,100)=4.787, p<.05)で有意であった。多重比較では,1「平均―平均」の 6 月から 8 月にかけては有意な差は認められなかったが,6 月から 11 月にかけてと,8 月から 11 月にかけては有意な差(p<.01)が見られ増えている。3「平均―友人関係満足低」の 6 月から 8 月にかけては有意な差が見られなかったが,6 月から 11 月にかけては有意な差(p<.01)が見られ増えている。8 月から 11 月も有意な差(p<.05)が見られ増えている。 6「友人関係満足低―緊張」は 6 月から 8 月にかけてと 8 月から 11 月にかけては有意な差が認められなかったが,6 月から 11 月にかけては有意な差(p<.05)が見られ増加している(図 10)。したがって友人関係の満足度,仲間の受容感,緊張感が平均の児童同士ペアで Small Talk を続けると SVO/C の文の増加に最も影響することが示された。また,平均の児童と友人関係の満足度が低い児童,友人関係の満足度が低い児童と仲間の受容感が低い児童とのペアで Small Talk を続けると SVO/C の文の数が増えることに効果があることが分かった。
図 9 6 月と 11 月の SVO/C の各組合せの比較
平均―平均 平均―仲間受容低 平均―友友人関係満足低
平均―緊張 仲間受容低ー友人関係満足低 友人関係係満足低ー緊張緊張―緊張
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
時期=66月SVO/C
時期=11月SVO/C
図 10 組み合わせによる 6 月 8 月 11 月の SVO/C の文の数の変化
7
6
5
4
3
2
1
0
1 2 3 4 5 6 7
ターン数の時期と組み合わせの交互作用は有意であった(F(12,100)=2.038, p<.05)。組み合わせの主効果は有意であった(F(6,50)=3.388, p<.01)。組み合わせの多重比較では,1「平均―平均」と 2「平均
―仲間の受容低」,2「平均―仲間の受容低」と3「平均―友人関係満足低」に有意差 (p<.05)が見られ,ターン数は 2「平均―仲間の受容低」より 3「平均―友人関係満足低」が多く,1「平均―平均」より 3「平均―友人関係満足低」が多くなった。時期の主効果は有意が認められた(F(2,100)=34.442, p<.01)。時期の多重比較では,6 月から 8 月にかけては有意であった。6 月から 11 月と,8 月から 11月はそれぞれ有意差(p<.01)がみられ増えていた。
各時期における組み合わせの単純主効果は 11 月に有意であった(F(6,150)=5.754, p<.01)。多重比較では 1「平均―平均」と 2「平均―仲間の受容低」の間で有意差(p<.01)があり,1「平均―平均」が高かった。2「平均―仲間の受容低」と 3「平均―友人関係満足低」の間で有意差(p<.01)があり,「3 平均―友人関係満足低」が高かった。1「平均―平均」と6「友人関係満足低―緊張」の間で有意差(ps<.05) があり,1「平均―平均」が高かった。3「平均―友人関係満足低」と 6「友人関係満足低―緊張」の間で有意差(p<.05)があり,3「平均―友人関係満足低」が高かった。それぞれの組み合わせの11 月のターン数の平均を見ると1「平均―平均」は2「平均―仲間の受容低」より多く,3「平均―友人関係満足 低」は4「平均―緊張」より多くなっている。さらに1「平均―平均」は6「友人関係満足低―緊張」よ り多く,3「平均―友人関係満足低」は6「友人関係満足低―緊張」より多い(図11)。11 月では 1「平
図 11 6 月と 11 月のターン数の各組合せの比較
平均―平平均 平均―仲間受容低 平均―友友人関係係満足低低
平均―緊緊張 仲間受容低ー友人関係満足低 友人関係係満足低低ー緊張張緊張―緊緊張
12..0
10..0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
時期=6月ターーン数 時期=11月ターン数
図 12 組み合わせによる 6 月 8 月 11 月のターン数の変
12
10
8
6
4
2
0
1 2 3 4 5 6 7
均―平均」が 7 種類の組み合わせの中で最も多くなっている。したがって,友人関係の満足度,周りの仲間の受容, Small Talk の緊張度が平均の児童同士がペアの場合と,平均と友人関係の満足度の低い児童がペアの場合にターン数が多くなっていくことが示された。
各組み合わせにおける時期の単純主効果は,1「平均―平均」(F(2,100)=34.584, p<.01),3「平均―友人関係満足低」(F(2,100)=113.282, p<.01),7「緊張―緊張」(F(2,100)=5.418, p<.01),6「友人関係満足低―緊張」(F(2,100)=4.787, p<.05)で有意であった。多重比較では,1「平均―平均」の 6 月から 8 月にかけては有意な差は認められなかったが,6 月から 11 月にかけてと,8 月から 11 月にかけては有意な差(p<.01)が認められ増加している。3「平均―友人関係満足低」の 6 月から 8 月にかけては有意な差が認められなかったが,6 月から 11 月にかけてと,8 月から 11 月にかけて有意な差(p<.01)が認められ増加している。7「緊張―緊張」は 6 月から 8 月にかけてと 8 月から 11 月にかけては有意な差が認められなかったが,6 月から 11 月にかけては有意な差(p<.01)が認められ増加している。6「友 人関係満足低―緊張」は 6 月から 8 月にかけては有意な差が認められなかったが,6 月から 11 月と,
8 月から 11 月は有意な差(p<.05)が認められ増加している(図 12)。したがって,友人関係の満足度,仲間の受容感,緊張感が平均の児童同士ペアや平均の児童と友人関係の満足度が低い児童,緊張感が 高い児童同士,友人の満足度は低い児童と緊張感の高い児童,友人関係の満足度が低い児童と仲間の 受容感が低い児童とのペアでSmall Talk を続けるとターンの数が増えることに効果があると分かった。7「緊張―緊張」のペアはターン数だけで有意な増加が見られたことから,緊張のため単語で答えてす ぐに相手が話すターンに譲る傾向が見られるのではないかと推察される。
反応数の時期と組み合わせの交互作用は有意ではなかった(F(12,100)=0.780, ns)組み合わせの主効果は有意でなかった(F(6,50)=2.804, p<.05)。組み合わせの多重比較では,3「平均―友人関係満足低」と 6「友人関係満足低組―緊張」で有意差(p<.05)が認められ,3「平均―友人関係満足低」の反応が多かった。時期の主効果は有意が認められた(F(2,100)=4.375, p<.05)。時期の多重比較では,6 月から 8 月にかけては有意でなかった。6 月から 11 月と,8 月から 11 月はそれぞれ有意差(p<.01)がみられ11 月が多かった。各時期における組み合わせの単純主効果は6 月に有意であった(F(6,147)=2.489, p<.05)が,多重比較ではどの組み合わせも有意差が認められなかった。反応数は時期による組み合わ せ間の差はないことが明らかになった(図 13)。
図 13 6 月と 11 月の反応数の各組合せの比較
8.00
6.00
4.00
2.00
0.00
時期=66月反応 時期=11月反応
図14 組み合わせによる6月8月11月の反応数の変化
7 時期 = 6月反応 時期 = 8月反応 時期 = 11月反応
6
5
4
3
2
1
0
1 2 3 4 5 6 7
各組み合わせにおける時期の単純主効果は,組み合わせ 1「平均-平均」(F(2,98)=6.197, p<.01)で有意であった。多重比較では,組み合わせ 1「平均―平均」の 6 月から 8 月にかけては有意な差は認められなかったが,6 月から 11 月にかけてと,8 月から 11 月にかけては有意な差(p<.05)が認められ増加している(図 14)。したがって,友人関係の満足度,仲間の受容感,緊張感が平均の児童同士ペアは 6 月から 11 月にかけて反応数が有意に増えていることが明らかになった。
Small Talk 時の会話音声を経時的に分析した結果, Small Talk を継続すると,Small Talk 時の会話の中で,発話語数,SVO/C の文の数,ターン数,反応数などの増加が認められた。この結果から Small Talk のような即興的な会話の経験を続けることが,自発的な発話量を増やしていくことや会話の質の向上に効果があると考えられる。
さらに,ペアの組み合わせごとで,Small Talk 時の発話における縦断的変化を分析した結果(時期の単純主効果)の効果量を表 3 に示す。友人関係に対する満足度,周りの仲間の受容に対する意識,Small Talk 時の緊張感がすべて平均な児童同士の組み合わせで,6 月から 11 月にかけて総語数,SVO/C の文の数,ターン数が増加し変化が大きかったことから,Small Talk の会話の向上が見られたと考えられる。平均の児童と友人の満足度が低い児童との組み合わせで,6 月から 11 月にかけて総語数,SVO/C の文,ターン数の増加が他の組み合わせと比較して顕著であった。このことより,友人関係の満足度が低い児童は Small Talk で友人と会話すると,英語で自分の情報を楽しく伝え合う中で徐々に人間関係に対する肯定的な評価が高まるためではないかと考える。周りの受容を感じるのが低い児童と友人関係の満足度が低い児童の組み合わせの変化が顕著であったことも,Small Talk のように話す場を設
表 3 情意の特性の違いによる各ペアの時期の単純主効果における効果量(偏η2)
発話総語数 | SVO/C | ターン数 | 反応数 | |
---|---|---|---|---|
平均ー平均 | .596 | .610 | .658 | .256 |
平均ー仲間受容低 | .108 | .121 | .198 | .046 |
平均ー友人関係満足低 | .654 | .512 | .655 | .089 |
平均ー高緊張 | .029 | .066 | .153 | .196 |
仲間受容低ー友人関係満足低 | .569 | .545 | .558 | .033 |
友人関係満足低ー高緊張 | .405 | .236 | .365 | .289 |
高緊張ー高緊張 | .533 | .501 | .730 | .372 |
定し,ペアを固定することにより,徐々に互いに会話をすることに慣れてきて,友人に対する安心感が高まったり,仲間の受容を過度に意識しなくなったりして,Small Talk の向上が見られるようになってくるのではないかと考える。Storch(2002)は L2 のペア行動パターンについて,協力的な方法で相互に活動した学習者は,防御的な方法で対話する学習者よりも仲間の提案を使用して修正するため, 学習効果が高いことを述べている。効果的なペア・パターンについては,「協調的/協調的」か「専門家
/初心者」のみであると報告している。これに本研究結果を照らし合わせると,「平均―友人関係満足低」のペアは回数を重ねていくうちに,協調的な関係に変化していったために学習効果が高かったのではないかと推察される。また,Storch は「支配的/支配的」のペアではリクエストや説明が少なく,
「支配的/受容的」のペアでは決定が支配的な参加者によってなされ,交渉も同意も見られなかったた め,ペア活動が「支配的/支配的」「支配的/受容的」になった時はパートナーを変更するように勧めている。この知見を参照して本研究の結果を解釈すると,「緊張型」の児童はこの「受動的」の参加者のように,不安のため単語のみで応答してすぐに相手のターンを促すのではないかと考えられる。平均 の児童と仲間の受容が低い児童の組み合わせでは,Small Talk の向上が見られなかったが,仲間の受容の低い児童は,間違いを恐れてしまったり,相手に圧倒されてしまったりして発話を躊躇する面が あるのではないかと考える。緊張感の高い児童同士や友人の満足度の低い児童と緊張感の高い児童の組み合わせではターン数のみ増加していたことより,緊張感の高い児童は,Small Talk を続けていく中で,SVO/C の文には至らないが,単語のやり取りなどで,何とか会話を長く続けていこうとする力は伸びるが,長く多くの英語表現を使用せず,会話の主導を早く相手に渡そうとする傾向があると推察される。緊張感の高い児童の会話内容を向上させるためには,緊張を和らげる何か別の手立てでの 介入を考えなければならない。
本研究では「話すこと(やり取り)」の言語活動の 1 つである Small Talk の効果について,実際の活動で児童同士がどのような会話をしているかについて,実際に会話した音声分析により検証した。その結果,Small Talk の実践を継続していくと,Small Talk 時の児童同士の会話は,総語数の増加, ターン数の増加のような量的変化と SVO/C の文の数の増加や反応数の増加など,会話の質的変化が認められることが明らかになった。このことより,Small Talk のような既習表現を使った即興的な会話をする言語活動を継続的に実施することが,児童の発話量を増やし,会話の質的な変化を促すと示唆される。山口・巽(2020)では,Small Talk の効果を Small Talk の実践前後のパフォーマンス評価
で検証していたが,本研究では Small Talk 時に実際に児童同士が会話した内容の変化を明らかにしたところに意義があるといえる。
本研究の課題としては,児童の会話の誤用の検証ができていないことがある。Hunter (2011)は, Small Talk における学生の会話の中の誤用について個別にフィードバックすることにより,学生の会話に変化が見られると述べている。児童の Small Talk の質をさらに高めるためには,誤用に気付かせ正しい表現を習得する手立てを模索する必要がある。
児童の情意がペアの会話の経時的変化に与える影響について検証した結果,友人関係に対する満足度,周りの仲間の受容に対する意識,Small Talk 時の緊張感が平均な児童同士のペアと,平均な児童と友人関係に対する満足度が低い児童のペアで会話することにより,発話総語数,ターン数のような量的変化や SVO/C の文の数の変化のような質的変化も向上することが明らかになった。しかし,仲間の受容の満足度が低い児童や Small Talk に対する緊張感の高い児童は,どのペアの組み合わせでも有意な変化が認められなかった。このことより,友人関係の満足度の低い児童においては,平均的な児童とペアを組み合わせるように配慮し,一定期間同じペアで信頼関係を構築できるように配慮することが,Small Talk の量的変化や質的変化の向上に効果的であるといえる。
ペアの組み合わせにおける課題として,Small Talk に対する緊張感の高い児童には,さらに別の手立てを工夫して実施していかなければならないことが明らかになった。また,誰とでも分け隔てなく 仲良く会話をできるように児童を育てていくことが大切であるという教育の本質に立ち戻ると,ペア を固定する場合もある一定の期間が望ましいと考えられる。ペアを固定する期間をどれくらいに設定 するのが最も効果的かを検証することも今後の課題である。
本研究の実施に当たり御理解と御協力を頂いた児童の皆さん,岡田芳子校長先生をはじめ教職員の方々,研究を御指導頂いた岐阜大学 巽徹教授にこの場を借りて深く感謝申し上げます。
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