経済学論集
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論文
企業成長率分布の統計的性質と含意
坂井 功治渡辺 努
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2012 年 78 巻 3 号 p. 2-13

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抄録

企業成長率分布に関する最近の研究では,企業の売上をその企業が生産する全製品の売上の和とみなす統計モデルが用いられている(Fu et al. 2005; Buldyrev et al. 2007a, 2007b).本稿では,各企業の製品レベルの売上高を記録したスキャナーデータを用いることによって,企業の売上成長率とその企業の販売する個々の製品の売上成長率の関係について分析を行い,Fu et al.(2005)等の理論モデルの予測を検証した.本稿の主要な結論は以下のとおりである.第1に,企業の取り扱う製品の総数が大きいと,その企業の販売する個々の製品の売上金額も大きくなるという相関があり,またその企業の販売する個々の製品の売上成長率は互いに正で相関している.これらの相関は各企業を特徴づける重要なものである.しかし,様々な相関を人工的に除去するシミュレーションを行った結果,これらの相関だけを残しても,実際の企業成長率分布を再現できないことがわかった.つまり,企業成長率分布の生成にこのような各企業の(企業レベルの)相関は関与していない.第2に,各企業の取り扱う個々の製品の売上金額とその成長率の間にも特定の相関があるが,この相関さえ残せば,実際の企業成長率分布を再現できることがわかった.つまり,企業成長率分布の生成において重要な役割を果たしているのは,このような製品レベルの相関である.本稿の分析結果は,企業成長率分布の生成メカニズムを理解するうえでは,企業を単なる製品の束とみなして差支えないことを示している.

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© 2012 東京大学
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