協同組合をはじめとする非株式会社組織に関する経済理論モデルに基づいた議論は日本において多くはなく,それら組織の理論的解明が求められて久しい(小野澤 2017,2021).近代経済学における協同組合の理論研究はWard(1958)に始まり,労働者管理企業(LMF)や労働者協同組合など労働力を提供する人達によって所有される組織を,おもな研究対象として発展してきた.
そして近年では,協同組合をはじめパートナーシップ,非営利企業,相互所有企業,行政機関などの非株式会社組織が株式会社に比して効率的となる環境を分析する研究,またはそれらの組織による株式会社とは異なる役割に焦点を当てた研究も,顕著に現れるようになった.それらの多くはHansmann(1996)に触発されたものであり,Grossman and Hart(1986),Hart and Moore(1990)らによって構築された不完備契約に基づく財産権理論等による組織の経済学アプローチに依拠している.
本稿ではLMFに関する理論研究および組織の経済学における非株式会社組織研究を俯瞰するとともに,Hart and Moore(1996,1998),Bubb and Kaufman(2013)を中心に,利用者所有企業に関する理論モデルにおける仮定およびそこから導かれる帰結について解説を試みる.また,これら理論モデルの意義,および日本の協同組合や相互所有企業に対する示唆について考察を行う.
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