抄録
国民にとって望ましい自然資源のありかたを実現するためには,対象となっている自然資源の存在が人々にどれほどの効用を与えているのかを把握していることが前提となる。このような考え方を背景として,環境経済評価法は,国民が自然資源から享受している便益の大きさを貨幣単位で把握するための方法論として主に欧米で発達してきた。本稿では,その評価法の中でも,森林に関するあらゆる便益の計測に適用できるコンティンジェント・バリュエーション法を用いて,北海道の野幌原生林を事例として便益評価を行なった。近郊市町村の住民を対象に,原生林の生態系が現在のまま維持されることに対する支払意志額(Willingness To Pay)をアンケートにて尋ねた。その結果,便益の大きさは,現時点での非利用者も含めて一年当たり5億1300万円であった。一人あたりの支払意志額は,個人が持っている様々な属性によって決定される。ここでは,原生林に生息している鳥類についての情報や,レクリエーションの頻度,あるいは年収などが支払意志額に影響を与えていることがわかった。