メラネシア島嶼地域に暮らす人びとにとって,土地(熱帯林)は伝統的な相続財であると同時に,焼畑耕作などの生業活動をおこなうための場でもある。本稿で具体的に取りあげるソロモン諸島国では,近年,その土地を利用した森林伐採事業などの経済開発が外国資本を中心に計画され,一部の地域で実施されている。現地の人びとは,現代の開発の文脈において,どのように土地(熱帯林)との関係を維持しようとしているのであろうか。本稿は,同地域にある「カスタム」という広義の伝統的事物および現象全般をさす概念と経済開発との相互関係に注目しながら,メラネシアにおける熱帯林「管理」の姿を明らかにすることを目的とする。本稿では,熱帯林(慣習地)および熱帯林を利用した焼畑などの活動が,森林伐採やエコツーリズムなどの開発の文脈に組み込まれることによって,「持続可能な開発」という理念を伴いながら「政治性」を帯び,関係する人びとの文化的シンボルとしての「カスタム」として立ち上がってくる点を指摘する。そして,そのような認識において熱帯林を「管理」,「運用」し,状況の自律性を確保しようとしている点を指摘する。