抄録
森林の文化的な価値や山村住民に対するまなざしの変遷を明らかにした。林野関係者は,1930年頃まで森林に害を与える存在として山村住民を見做した。農山漁村済更生運動を契機に,山村住民に配慮した主張や政策が見られたが,戦局拡大により消失する。戦災復興の合言葉として「文化」が用いられるが,経済成長期には木材生産を重視する声が勢いを増した。1960年代以降過疎化が進み,失われる民俗を記録する動きが,文化財行政や民俗分野で進む。1970年代以降「ふるさと」の資源化が進むが,今世紀に入ると,資源化されない山村の撤退を示唆する主張が出てきた一方で,林業遺産等の新たな価値付けがなされ始めた。山村住民あってこそ森林文化が存在するという再認識が求められる。