2020 年 66 巻 2 号 p. 1-9
本研究は,チトワン郡D村を対象に,コミュニティフォレスト(CF)とリースホールドフォレスト(LHF)の利用実態を把握することで,両森林が地域住民の森林資源採取に果たす役割を明らかにした。村落内の世帯は社会経済的な階層に基づきA,B,C,Dランクに分類され,各ランク世帯の分布割合に沿うよう全世帯の30%に相当する51世帯を抽出し聞き取りを行った。LHF政策は貧困緩和を目的として導入され,資源採取の点で利便性に優れていた。しかし,村落内の裕福層(Aランク世帯)の保有率が最大であり,貧困層(Dランク世帯)の保有率は最小であった。多くの家畜を飼育し,それらの売却を主収入源とする裕福層にとってLHFは必要な資源採取の場である一方,貧困層はCFから必要な資源を採取していた。全ての階層の住民は,どちらかの森林から資源を採取することができ,資源採取に不満を抱えていなかった。しかし,LHFの元来の目的を鑑みると,裕福層に偏ったLHFの配分は将来的に貧困格差を助長する存在になってしまうことが懸念される。そのため,行政は貧困層の取り込みに留意しつつ各世帯の経済状況を考慮し,必要に応じてLHFを再配分することが求められる。