抄録
1.はじめに外生菌根菌は宿主樹木と共生し、樹木の水分や養分の吸収促進などに大きく寄与している。特に、海岸などの貧栄養な土壌に生育する樹木においては、この共生関係が重要な役割を果たしている。このような海岸地帯での菌根の生態を解明するために、海岸生クロマツ幼稚樹について、単木あたりの菌根量とその分布を調べ、海岸生クロマツ林における菌根に関する基礎情報を得ることを目的として本研究を行った。 2.調査地および調査方法 調査は、鳥取県、鳥取砂丘のクロマツ林の林縁部で行った。この林縁部で、クロマツ稚樹が5-10m間隔で散生しているリターのない砂地において、樹高70 cm以下の4 - 7年生の幼樹と樹高約15 cmの2年生稚樹をそれぞれ3本ずつ供試木として選定した。幼樹については、この樹幹を中心とした4方向 (東西南北) について、水平距離が10、50、100、150 cmの地点に20×20 cmのサンプリングプロット (10 cmの地点のみ10×10 cm) を設定した。これらのサンプリングプロットにおいて、深さ20 cmまでは5 cm間隔、20 - 60 cmまでは10 cm間隔の計8深度に分けて土壌を採取した。採取した土壌から中根 (直径>2 mm)、細根 (<2 mm)、菌根化した細根 (<2 mm) を選別し、それぞれの乾燥重量を測定した。稚樹については、その地際から20 cm間隔で100 cmまで同心円状に区画し、各区画について、深さ10 cm間隔ごとに90 cmまでの9深度別に根系を採取し、幼樹の場合と同様に根系のクラス分けをし、各々の乾燥重量を測定した。また、幼樹を採取した地点において、土壌における深さごとの含水率、全炭素濃度、全窒素濃度を求めた。3.結果 (1) 菌根の水平分布 2年生稚樹の根や菌根は、水平方向に1 m、垂直方向に90 cm程度の範囲内に分布していた。樹幹から20 cm以内に全菌根量 (g/本) の57 - 86% が存在した。幼樹における菌根の密度は、樹幹から10 cmの所で最大となり、これは樹幹から50 cmの場所の20倍以上であった。 (2) 菌根の垂直分布 2年生稚樹の菌根量 (g/本) は、個体間で大きくばらついたが、いずれの個体においても、深さ0 - 10 cmで菌根量 (g/本) が最大になった。 一方、幼樹の菌根は、表層 (深さ0 - 5 cm) にほとんど存在せず、深さ10 - 15 cmに最も多く分布していた。 (3) 幼樹と稚樹の菌根量の比較 木のバイオマスや葉量あたりの菌根量 (g/本) については、幼樹と2年生稚樹の間に違いが認められなかった。しかし、細根量に対する菌根量の割合 (菌根化率) は幼樹で大きかった。4.考察 サイズや樹齢の異なる樹木の菌根量の比較についての研究例は少ないが、葉量あたりの菌根量は樹齢によってはそれほど変化しない場合 (菊池,2002) と大きく変化する場合 (Vogt et al., 1987 ) が報告されている。今回の調査では、大きな変化はなかった。このことから、生育場所が同じであれば、必要な菌根量は成長に伴って大きく変化しないことが推察される。また、幼樹の場合、菌根は含水率の低かった表層 (0 - 5cm) で少なかったが、この結果は菌根が表層に最も多く分布するという既応の報告と異なっていた (菊地, 2002 )。これは、砂丘表層での乾燥が厳しく、細根の形成が妨げられたためではないかと考えられる。 以上から、海岸砂丘における菌根の役割は、林内などのリターの堆積の見られる場所と異なっていることが推察される。今後、様々な場所での菌根形成についての調査を行うことで、海岸生クロマツにおける菌根の役割を解明していきたいと考えている。