日本林学会大会発表データベース
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口頭発表
育種
  • 生方 正俊, 上野 真一, 山田 浩雄, 矢野 慶介
    セッションID: A01
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    アイソザイム分析により,東日本地域に分布するケヤキ天然林6集団の遺伝的多様性を解析し,集団間の比較を行った。分析を行った11酵素種で17遺伝子座,合計55個の対立遺伝子が推定された。このうち全集団で共通に解析できた10遺伝子座を用いて集団間の比較を行った。集団別および全体の遺伝的多様度を示す統計量を表-1にまとめて示す。全集団における1遺伝子座当たりの平均遺伝子数(na)は3.30,1遺伝子座当たりの対立遺伝子の有効数(ne)は1.67,ヘテロ接合体率の観察値(Ho)は0.307,ヘテロ接合体率の期待値(He)は0.338,近交係数(FIS)は0.092となった。集団全体をとおして集団内の遺伝的多様度は比較的高い傾向がみられたが,集団間のばらつきは小さかった。集団の遺伝的分化の程度を示す指標である遺伝子分化係数(GST)は,0.050だった。今回の調査は,秋田県から岐阜県までの東日本地域全域に散在する6集団を対象としたものであるが,全体の遺伝的変異のうち,わずか5%が集団間に存在するという結果となった。
  • 武津 英太郎, 渡邊 敦史, 磯田 圭哉, 平尾 知士, 高橋 誠
    セッションID: A02
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的
     ケヤキ(Zelkova serrata)は日本では本州、四国、九州に広く天然分布している。また、屋敷林の構成樹種や街路樹などとして、ケヤキは平野部でも広く植栽されており、広葉樹材としての需要も高い。近年の森林に期待される機能の多様化や、用材としての利用による全国的なケヤキ資源の枯渇のため、ケヤキについても造林の要望が高まっており、そのため有用な形質を持ったケヤキ品種の育成が求められている。効果的な育種のためには、精度の高い系統管理や、有用諸形質の遺伝様式の解明、採種園などにおける花粉の有効飛散距離に関する情報などが必要となる。また、天然林ではケヤキは孤立木もしくは小集団で存在することが多く、その遺伝資源の保全を推進するためにも、集団の遺伝的な多様性の評価や花粉の飛散による遺伝子流動の範囲についての解析のために高解像度の遺伝情報が必要となる。
     SSR(Simple Sequence Repeats)マーカーは共優性でありなおかつ多型性が非常に高く、ゲノム中の遺伝子座の数も多いとされている(Litt and Lutty, 1989)。したがって、上記の課題を明らかにするために適した分子マーカーであるといえる。今回、ケヤキに関してSSRマーカーの開発を行ったので、その結果をここで報告する。

    2.材料と方法
     ケヤキ1個体から抽出したゲノムDNAより、磁性ビーズを用いて(AC)nを多く含んだゲノムライブラリを作成した(Hamiltonら、1999)。ポジティブコロニーの塩基配列をABI Prism 3100 (ABI社)により決定し、プライマー設計を行った。PCR条件の決定したプライマーを用いて、ケヤキ4個体のDNAを用いて多型の確認を行い、遺伝解析に用いることができるかを確認した。多型の確認には、Genotyper ver.3.7(ABI社)を用いた。
     作成したSSRプライマーの一部を用いて、林木育種センターによって関東育種基本区より選抜されたケヤキ優良個体18個体及びその周辺より採取されたケヤキ3個体の遺伝子型を決定した。得られた遺伝子型情報に基づいて、各座の多型性を示す指標として各遺伝子座の対立遺伝子数(Na)、対立遺伝子の有効数(ne)、ヘテロ接合度の観察値(Ho)、ヘテロ接合度の期待値の不偏推定値(He)(Nei, 1987)をISOZYME ver.1.0(Takahashi and Tomaru、未発表)により算出した。また、開発したSSRマーカーを用いて、上記21個体の識別を行った。

    3.結果と考察
     本研究では、作成したゲノムライブラリーの中から113コロニーの塩基配列の決定を行った。その中で、ユニークなクローンは112クローンであった。112クローンのすべてにSSR領域が含まれていたが、そのうち36クローンはSSR領域が決定された領域の末端付近に位置しており、プライマーの設計が不可能であった。残りの76クローンより、今回は40クローンについてプライマー・セットを設計した。ケヤキ4個体を利用して単一断片の増幅と多型性の確認を行い、16プライマーセットが解析に利用可能であることを確認した。
     16プライマーセットのうち、5プライマーを用いて21個体のケヤキの遺伝子型を決定した。その結果より、プライマーの特性を算出した。Naは5_から_11で、平均は8.8であった。一方、neは2.8_から_5.5で、平均は4.7であった。neはNaより低い値(53%)を示しており、対立遺伝子頻度の偏りが大きいことを示している。Heは、0.660_から_0.839で、平均は0.793であり、高い多型性を示した。 5つのSSRマーカーを用いて、ケヤキの21個体の識別を行ったところ、完全に識別することが可能であった。このことより、今回開発したSSRマーカーはクローン識別に有用であることが示された。
  • 平尾 知士, 渡邉 敦史, 近藤 禎二
    セッションID: A03
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    関東育種基本区にはスギ精英樹936クローンが登録されている。採種園や採穂園など種苗生産に関わるこれら精英樹の実用的な管理には、確実なクローン管理が必要不可欠となる。これまでスギのクローン識別は、RAPD分析を用いて行われており、その有効性が検証されている。しかし、RAPD分析による識別は、多くのプライマーを要することから、多大な労力を必要とするだけでなく、分析手法自体の再現性の低さについても問題がある。一方でSSR分析は、繰り返し数が変異に富むことから、対立遺伝子数が非常に多く、共優性マーカーであり、再現性が高いことから、多くの動植物において個体識別や親子鑑定に有効であることが報告されている。本研究では、関東育種基本区内のスギ精英樹を対象としてSSR分析によるクローン識別を試み、その有効性について検証した。また、これまでRAPD分析によるクローン識別が行われている精英樹のデータとSSR分析の識別能力を比較し、その有効性について検討した。本研究に用いたサンプルは、金山ら(2002)がRAPD分析を行った関東育種基本区のスギ精英樹855クローンのうち、765クローンである。DNAサンプルには、金山ら(2002)と同一のDNA抽出液を用いた。SSR分析に用いたプライマーは、Moriguchiら(2003)が報告したスギのSSRプライマー3種類である。使用した各プライマーの情報量は、対立遺伝子数(アリル数)、ヘテロ接合体率(H(O))、期待されるヘテロ接合体率(H(E))、多型情報量(PIC)であり、CERVUS 2.0を用いて算出した。識別率の算出は、金山ら(2002)と同様にTessierら(1999)のdiscrimination power (DL)に従い、各マーカーにおける遺伝子型頻度(Pi)から識別率(DL)を算出した。それぞれのプライマーにおける対立遺伝子数は、Cjgssr077で43、Cjgssr149で51、Cjgssr175では48であった。観察されたヘテロ接合体率は、期待されるヘテロ接合体率よりもやや低い値を示した。PIC・DLは、いずれのプライマーも高い値を示し、識別能力の高さを表している。実際に識別した結果、765クローンのうち587クローン(87.5%)が識別可能であった。さらに2クローンまで識別されたクローンは、78タイプ156クローン(11.6%)であり、3クローンまで識別されたクローンは4タイプ12クローン(0.6%)、同様に5クローンでは2タイプ10クローン(0.3%)であった。RAPD分析では、21プライマー54マーカーを用いることにより、629クローン(75.2%)が識別されている(金山ら 2002)。一方、本研究ではSSRプライマー3対を用いることにより、RAPD分析に比べて高い識別率を示した。RAPDマーカーに基づいて算出されたDL値は平均0.643であったのに対し、本実験で用いたSSRプライマーのDL値はいずれも高く、3プライマーの平均は0.858であった。従ってRAPD分析で同一クローンとして識別されていた多くの個体が、SSR分析を用いることにより、異なるクローンとして識別できた。一方で、識別できなかったクローンも未だ存在し、新たなプライマーを追加することによってクローン識別が可能か検討する必要がある。
  • 松浦 崇遠
    セッションID: A04
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    根元曲がり抵抗性が異なるスギ品種を対象に,積雪による樹幹の倒伏と消雪後の立ち上がりの過程を明らかにするため,樹幹の傾斜角を測定した。樹幹の傾斜角は品種によって異なっていたが,成長との間に明瞭な関係は認められなかった。根元曲がりが大きい品種では樹幹の傾斜角も比較的大きかった。また,倒伏と立ち上がりの過程における傾斜角の変化には,品種によってばらつきが認められた。品種間のこのような違いは,樹幹の強度や根系の支持力を反映していると考えられた。
  • 宮下 智弘, 向田 稔, 河崎 久男
    セッションID: A05
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 東北地方等の幼齢スギ林分において常習的に発生する雪圧害は、連年の埋雪の後遺症として根元曲がりを形成する。根元曲がりによる一番丸太の経済的損失は大きく、多雪・豪雪地帯の林業家にとって深刻な問題である。根元曲がり量の大きさの要因は、根系、根の太さ、ヤング率、葉量などが関与し、特に根張りのしっかりした個体は根元曲がりが生じにくい。多雪・豪雪地帯においては施肥、雪起こし、階段植栽等の雪圧害対策が実行されてきた。さらにこれらの対策に加え、育種的対応の要望の高まりから、気象害抵抗性育種事業が開始された。 現在までに、在来有名品種や精英樹クローン間、雪害抵抗性候補木クローン間にみられる傾幹幅の差が調べられた。また精英樹間の交配家系を用いた根元曲がりの遺伝様式を報告した例も若干ある。本研究では、根元曲がりに対する抵抗性個体と感受性個体とを交配したデータを用いて、根元曲がりの遺伝様式を調査し、これらの交配家系からの選抜を検討し、雪圧害における遺伝獲得量を試算する事で、その育種効果を考察した。2.方法 雪圧害の激害林分において、根元曲がりが少ない個体を雪害抵抗性候補木として選抜した。また、成長期においても倒伏していた個体を感受性個体として選抜した。これら雪害抵抗性候補木5クローンと、感受性個体2クローンを用いて要因交配を行った。雄親数は4、雌親数は3である。感受性個体は雄雌両親として1個体づつ供試している。得られた交配家系は育苗した後、山形県真室川町に植栽した。試験地の傾斜は約10度と緩く、最深積雪深は2.5mと推定される。家系毎に1ブロック50個体を列状植栽し、ランダムに列を割り当てた。ブロック数は3である。樹齢が10年に達した2000年9月に、プロット毎に外縁木を除く30個体を調査した。調査形質は樹高、胸高直径、傾幹幅、倒伏、枯損である。倒伏は傾幹幅が1.2m以上の個体、および、幹長が1.2m以上でありながら地上高1.2m以下で完全に倒伏した個体とした。 樹高、直径、傾幹幅について、系統内における個々の個体の値を用いて相関分析を行った。さらに、樹高、直径、傾幹幅の3形質について分散分析を行った。遺伝分散の推定値をもとに狭義の遺伝率を計算した。その後、これらの個体から第二世代の選抜を行った場合の遺伝獲得量を試算した。選抜は傾幹幅が30cm以下という条件で行った。この時、半兄弟の重複を容認して全個体から傾幹幅が30cm以下の個体を選抜する方法Aと、傾幹幅の交配家系平均値が小さい家系を親が重複しないように複数選抜した後、選抜家系群の全個体から傾幹幅が30cm以下の個体を選抜する方法Bを考えた。Bの方法の場合、選抜家系数を増やす事でその家系群の平均値がどの程度減少するかという点と、選抜強度の2点を考慮した上で家系数を決める事とした。この両選抜方法によって、第二世代の樹高、直径、傾幹幅における遺伝獲得量を試算した。3.結果 全個体の生存率、樹高、直径、傾幹幅の平均値は、69.8%、5.0m、8.3cm、83.0cmだった。各系統の傾幹幅と樹高・直径との相関係数は、-0.06から-0.61だった。抵抗性候補木が母樹の時、感受性個体が花粉親として関与すると、傾幹幅の平均値が大きくなった。母樹が感受性個体の時、花粉親に関わらず全交配家系の傾幹幅平均値は100cm以上となり、1交配家系以外の全家系で、70%以上の個体が倒伏していた。これが正逆交雑差のためか、親の性質によるものかは、交配デザインが要因交配のため不明である。 樹高、直径、傾幹幅について分散分析を行い、3形質全てにおいて、雌親間で有意差が認められ、雄親間には認められなかった。傾幹幅に関しては全分散の約50%を雌親間分散が占めていた。樹高、直径、傾幹幅の遺伝率は、11.6%、13.7%、62.2%だった。 選抜シミュレーションを行った結果、Aの方法の場合、選抜率は20.8%となった。この時の樹高、直径、傾幹幅の遺伝獲得量は、0.1m、0.2cm、-38.9cmだった。しかし、選抜個体の両親の寄与率は特定の親で高く、少数の優秀な親が関与する家系が多く選抜された。Bの方法による選抜では、選抜差の関係上、二つの家系のみを選抜した。選抜率は6.6%となった。樹高、直径、傾幹幅の遺伝獲得量は、0.1m、0.3cm、-39.2cmだった。両方法の問題点として、Aの場合、選抜個体の近交度が上がる事、Bの場合、選抜強度が強くなる事が示された。しかし、両方法に遺伝獲得量の大きな差はなかった。特に根元曲がりは約40cmと大きな効果が認められ、雪圧害に対する育種は有効である事がわかった。
  • 三浦 真弘, 久保田 正裕, 栗延 晋
    セッションID: A06
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 玉城 聡, 山野邉 太郎, 織部 雄一朗, 久保田 正裕, 金子 浩
    セッションID: A07
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    はじめに)保育作業の省力化が可能であることや,森林の持つ公益的機能を発揮する効果が高いことから,複層林施業に対して社会的な関心が高まっている。このため,複層林施業に適する耐陰性種苗の供給が求められている。このような背景から,関西地区林業試験研究機関連絡協議会育種部会の共同研究によって,庇陰された生育条件下におかれた時に,1)全光下に比べて成長の落ち込みが少ないこと,2)樹高成長と直径成長のバランスがとれていること,3)枯死しにくいことを基準として,関西育種基本区内で選抜されたスギ・ヒノキ精英樹の中から,スギ19クローンとヒノキ15家系が耐陰性系統として選抜されている*)。今回は,これらの耐陰性系統を樹下植栽し,1・2成長期後の樹高成長量を調査したので報告する。この研究は,林木育種センター関西育種場と四国森林管理局森林技術センターが共同でおこなった。
  • 平  英彰, 吉井 エリ
    セッションID: A08
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 宮下 久哉, 向田 稔
    セッションID: A09
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    林木育種センター東北育種場では、材質の優れた品種を創出するため、材質育種事業によりスギ精英樹クローンの材質調査を行っている。この調査の対象形質には、含水率、容積密度、ヤング率等がある。本研究では、東北育種基本区から選抜されたスギ精英樹クローンを用いて、材質特性について検討した。
  • 倉原 雄二, 藤沢 義武, 平川 泰彦
    セッションID: A10
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    スギ材について精英樹や在来品種の将来的な材質評価のためにクローン材料から遺伝母数の推定を行っている例は多いが、実生による遺伝母数の推定が行われている例は少ない。我が国のスギ人工造林では実生による造林も盛んであることから、クローン材料のみならず実生による遺伝母数の推定も重要である。今回、人工交配家系のスギ遺伝試験林で採取した材料から容積密度、含水率、ヤング率等の材質形質を測定し、狭義の遺伝率、表現型相関、遺伝相関を求めた。
  • 小山 泰弘, 岡田 充弘, 家塚 舞
    セッションID: A11
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.調査の目的
     カメムシ類によるヒノキ種子吸汁被害は,全国各地で報告されている。長野県においても,これまでは被害が無いとされていたが,2002年に県南部にある県営高森採種園で被害が確認された。そこで,県内に3カ所ある全てのヒノキ採種園で被害実態を把握するため,カメムシ類の夏期の発生状況と,袋掛け処理の有無による被害実態を調査した。
    2.調査地と調査方法
     調査は,長野県内のヒノキ採種園を対象とし,2003年の5月から10月にかけて実施した。
    1)カメムシ類の発生状況調査 調査は,2003年7月28日に採種園内の採種木10本を対象として,それぞれ10枝の球果着生枝を捕虫網で囲み、カメムシ頭数をカウントした。このうちの3枝を採取し,球果の吸汁被害状況を調査した。
    2)袋掛け処理による被害実態の把握 調査は,2003年5月に採種園内で球果の着生量が多い3本(高森のみ6本)の採種木を対象とした。対象木のうち球果の着生がよい10枝に白色寒冷紗(100メッシュ)製の袋(60×90cm)を掛けた。袋掛けは、カメムシ類に加害されないように2003年5月上旬から10月中旬まで行った。10月中旬に,袋掛けした球果と,無処理の球果を採取し,発芽試験に供した。なお,2003年におけるヒノキ採種園の着果量はいずれの採種園でも凶作であった。
    3.調査結果
    1)カメムシ類の発生状況調査 7月下旬に行ったカメムシ類の確認頭数は,採種園ごとに異なった。確認されたカメムシはチャバネアオカメムシとクサギカメムシの幼虫が多かった。しかし確認頭数は,最も多い高森採種園でも採種枝1枝あたり(枝長50cm程度)1頭以下であった。吸汁痕は,全ての採種園で認められ,高森採種園では球果が変形するような激しい被害が多く,健全球果が認められなかった。しかし,中箕輪採種園では健全球果が多く,球果が変形するものは認められないなど,採種園ごとに違いが認められた。
    2)袋掛け処理による被害実態の把握 袋掛け処理によって全ての採種園で発芽率の向上が認められ,カメムシによる吸汁被害が確認された。袋掛け処理による発芽率が50%を上回った一が、無処理の発芽率はどの採種園でも10%程度と低く,カメムシ類の発生状況と異なった。 この原因として,凶作年であったために,少ない球果にカメムシ類の加害が集中した可能性と,2003年の7_から_8月の気温が低く,9月上旬に気温が上昇したため,カメムシ類の発生時期が通常よりも遅くなり,7月下旬には見つからなかった可能性が考えられたが,今回の結果からは原因の特定には至らなかった。
    4.おわりに
     長野県では,カメムシ吸汁被害が顕著ではないと考えられてきたが,今回の結果から県下全てのヒノキ採種園で被害が確認された。採種園ごとにカメムシの確認頭数や吸汁痕の発生度合いが異なったものの,吸汁被害の程度には差がなく,夏期に少数でもカメムシが確認された場合には発芽率が大きく低下していた。しかし,今回の調査が球果の着生量が少ない凶作年での一例であるため,今後は並作以上の作柄における調査を行い,県内採種園における被害実態の更なる解明に努めていきたい。
  • 東 暁史, 錦織 正智, 松村 幹了, 堀川 洋
    セッションID: A12
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     アオダモ(Fraxinus lanuginosa Koidz.)は温帯性の落葉高木樹であり,その堅くて強い材質からバット材として評価が高い。しかし近年ではその資源量が激減し,国産のバット材の枯渇が危惧されている。今後は量と質の両面を視野に入れた資源の回復が課題である。しかしながら,現況では実生生産である苗木は種子の豊凶により安定確保が困難であり,また効率的に育種を進めるために必要な栄養繁殖方法も確立していない。そこで苗木の大量生産が可能であり,選抜育種を可能にする繁殖方法としての組織培養法である節培養系の開発について検討をおこなった。材料には常法により殺菌した種子および腋芽から,それぞれ胚軸とシュート頂を摘出し培養に用いた。 その結果,初代培養において,胚軸ではBAP0.2と0.6mg/l区でシュート頂の成長数が多く,一方,腋芽ではBAP0.2と4.0mg/l区で多かった。継代培養においては,いずれもBAP8.0mg/l区で平均増殖倍率が最大となった。また外植体間のシュートの形態に大きな差異は無く,これらは同一の培養法,培地組成で増殖できることが明らかとなった。シュートの発根に適したNAA濃度はNAA0.2~0.6mg/lであった。
  • 細井 佳久, 丸山 エミリオ, 石井 克明
    セッションID: A13
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的 サワラについては114回の林学会大会でプロトプラストからの植物体再生について報告した。しかし、ヒノキについては未だプロトプラスト培養による植物体再生の報告がないため、未熟種子胚から誘導した不定胚形成細胞についてプロトプラスト培養を行った。また、プロトプラストの培養では、一般に培養に適した密度やプロトプラスト数があるため、単一のプロトプラストだけを培養することは困難である。そこでヒノキの単細胞やサワラのプロトプラストについて単独の細胞、あるいはプロトプラストの培養を試みた。2.方法2-1.ヒノキについて(1)プロトプラスト培養  茨城県林業技術センターに植栽されている精英樹の箱根2号の未熟種子から不定胚形成細胞を誘導した。得られた細胞からプロトプラストを単離し、0.6Mマンニトールを含む改変MS液体培地で培養した。(2)単細胞培養 不定胚形成細胞をナイロンメッシュで漉し、得られた単細胞を96ウエル培養プレートで培養した。1ウエルあたり1細胞置床した。2-2.サワラについて(1)プロトプラスト培養用の培養細胞の誘導 森林総合研究所内のサワラから未熟種子を採取し、不定胚形成細胞を誘導した。(2)単一プロトプラストの培養 得られた不定胚形成細胞からプロトプラストを単離し、24ウエル培養プレートで単独培養した。ウエルにはあらかじめミネラルオイルを0.3ml分注し、その中にマイクロマニピュレーターを用いて液体培地を約50nl注入後、プロトプラストを置床した。3.結果3-1.ヒノキについて(1)プロトプラスト培養 カゼイン加水分解物を含み、2,4-DとBAPを添加したMS改変培地で培養すると不定胚形成細胞が誘導できた。得られた細胞からプロトプラストを単離、培養すると不定胚形成細胞の再分化がみられた。(2)単細胞の培養 培地条件により異なるが、最高で30%以上の単細胞が分裂し、不定胚形成細胞塊を形成した。3-2.サワラについて(1)プロトプラスト単離用培養細胞の誘導 2,4-Dを添加したDCR液体培地で培養すると不定胚形成細胞を誘導することができた。(2)単一プロトプラストの培養 培養開始2週間後、一部で細胞の分裂がみられた。しかし、不定胚形成細胞の再分化までには至らなかった。
T2 従来の育種技術とバイオテクノロジー等新技術との統合による新たな林木育種の展開
  • 白石 進, 冨田 啓治, 黄 発新, 張 変香, 伊藤 一弥
    セッションID: A14
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    今日、二酸化炭素の吸収源としての森林への期待が高まっている。また、将来の木質資源確保への対応から森林資源の増大の必要性が叫ばれている。この両者を達成するために海外植林が盛んに行われている。海外植林では、ユーカリ類(Eucalyptus spp.)が主流となっている。オーストラリアの温帯地域等では、パルプ特性が極めて優れているE. globulus(タスマニアブルーガム)が広く植林されており、クローン林業が指向されている。本研究では、ブルーガムにおいて、DNAによるクローン管理技術を組込んだ新育種システムを実行する上での基盤となるMuPS(multiplex PCR of SCAR markers)分析系を開発した。その結果、多型を示す***個のSCARマーカーが開発された。この中から18個のマーカーを選び、6個のSCARマーカーを1回のPCRで増幅できるMuPS分析系を確立した。このユーカリMuPSを利用することにより、(1)採穂園において、MuPS型でクローン鑑定を行うことで、高い信頼性をもつクローン管理が可能となった。また、(2)白石は、DNA分子マーカーによる家系/クローン管理技術を組込んだ新育種システムを提唱し、これにより一般植林地での次代検定が可能となることを報告している。今回開発したMuPSを実際のユーカリの育種に導入することにより、一般植林地での次代検定が可能となり、きめ細かい、高いレベルで育種されたクローン林業への展開が可能となる。
  • 冨田 啓治, 参鍋 秀樹, アントニウス ウィディアットモコ, 白石 進, 伊藤 一弥, 楠 和隆
    セッションID: A15
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    ベトナムQPFLでは1998年からアカシアハイブリッドのクローン植林を行っている。現在までに46クローンの優良木が導入されているが、採穂園では一部、クロスコンタミネーションが確認されており、採穂園の再整理が必要な状況である。そこでMuPS分析を用いてクローン識別を行い、採穂園におけるクロスコンタミネーションの程度を確認し、再整理を検討した。その結果、異なるクローンであるにもかかわらず、採穂園には同じクローンが多く植栽されていたり、これまでに導入した46クローン以上のMuPS型が存在し、本来の優良クローン以外のクローンの混入も示唆されるなど、採穂園内で起こっているクロスコンタミネーションは相当な程度まで進んでいることが判明した。
  • 久枝 和彦, 白石 進, 宮原 文彦, 宮崎 潤二, 宮島 寛
    セッションID: A16
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 九州地方では古くからスギのさし木造林が行われており、多数のさし木品種(在来品種)が成立している。宮島(1989)はこれらの品種について、形態的な特徴を主な指標として分類・同定を行った。また、スギ品種のうち、アヤスギ、ホンスギ、メアサ、ヤブクグリの系統に関しては、社寺の老齢木に形態の類似した個体がみられることから、社寺老齢木がこれらの起源である可能性を示唆した。 近年、環境要因の影響を受けず、客観的にスギ品種の識別を行う指標として、 DNAマーカーが用いられるようになってきた。久枝・白石は、簡便にスギ品種・クローンを識別できる再現性の高いDNA分子マーカーとしてMuPS(multiplex PCR of SCAR markers)を開発し、主な九州産スギ在来品種について、DNA型(MuPS型)に基づくデータベースを構築した。 本研究では、北部九州の社寺などに植栽されている古木群のMuPS型を決定し、北部九州在来品種の成立過程について考察した。2.材料と方法 北部九州の神社などに植栽されている34ヶ所のスギ古木群(計128個体)から針葉を採取した。それぞれの針葉から改変CTAB法により全DNAを抽出した。PCRの溶液組成(10μl)は、1×PCR Buffer, MgCl2 2.5mM, 200mM 各dNTP, Platinum Taq DNA Polymerase (Invitrogen) 0.25units, primer mixture, 鋳型DNA 20ng/10μlである。反応処理はGeneAmpTM PCR System 9600(PERKIN ELMER)を用い、94℃・30秒の後, 94℃・30秒, 65℃・30秒, 72℃・90秒を30サイクル, 最後に 72℃ 5分の温度条件で行った。PCR産物は、1.5%アガロースゲルで電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、302nmUVトランスイルミネーター上で観察した。同一サンプルを2回繰り返し分析した。各遺伝子座のフラグメントの有無を1/0で表記した19桁の数字をMuPS型とした。なお、フラグメントの増幅が明瞭でない遺伝子座については“9”と表記し、識別に用いないこととした。3.結果および考察 各個体のMuPS型を在来品種のデータベースと照合した結果、在来品種アカバ、カゾウ、シャカイン、ホンスギ、メアサ、ヤブクグリのMuPS型がそれぞれ検出された(表1)。これらは、いずれもかなりの老齢木であり、これらの在来品種の起源である可能性が示唆された。なかでも、カゾウ、シャカインは、これまでその由来についてはっきりしておらず、今回MuPS型が検出された個体がそれらの品種の起源で有る可能性が示唆された。また、ヤブクグリについては、この品種の主要造林地域である大分県の古木群で検出されず、佐賀県の古木群で検出された。  また、今回調査した古木のMuPS型のうち、主要九州産在来品種のMuPS型と一致しなかったもののなかで、14種類のMuPS型が複数の古木で検出された(表2)。このことから、在来品種以外にも、古くから多くのクローンが神社の神木などとしてさし木により伝播していたことが明らかになった。
  • 渡邉 敦史, 磯田 圭哉, 平尾 知士, 近藤 禎二
    セッションID: A17
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    今回,2つの異なる方法によってアカマツのSSRマーカーを開発し,開発にかかる効率性や手法の簡便さといった観点から手法の比較を行なったので報告する。また,SSR分析を行なった際に1プライマー対から2領域以上の断片が検出され,解析に困難さが伴うことがある。スギを対象としたSSR分析の結果に基づいてその実例について報告する。まず,アカマツSSRの単離には2つの方法を利用した。一つはエンリッチメント法であり,Hamilton et al(1999)に従った。もう一つは,Lian and Hogetsu (2002)によって報告されたsuppression PCRを利用する方法である。エンリッチメント法では(AC)nを繰り返し単位とするSSRの単離を試みた。54プライマー対についてPCR増幅した結果,68.5%にあたる37プライマー対から期待されるサイズのフラグメントが得られた。アカマツ10個体を利用して,単一フラグメントの増幅と多型の有無について確認した結果,33プライマー対は単一な断片が増幅されることを確認した。このうち,3プライマー対は単型的であり,残る30プライマー対からは2_から_13個の対立遺伝子を確認した。エンリッチメント法と同様にアカマツ1個体を利用してLian and Hogetsu (2002)の方法に従ってSSRを単離した。63クローンについてプライマー設計し,増幅した36クローンについて二度目のシーケンシングを行なった。その結果,16クローンがSSRマーカー候補として選抜された。16クローンについてPCR増幅した結果,期待されるサイズの断片を増幅した14のうち,9プライマー対が単一の断片を増幅し,2_から_13の対立遺伝子を確認できた。 関東育種基本区のスギ精英樹936クローンのうち、765クローンをMoriguchiら(2003)が報告したスギSSR3プライマー対について実際にSSR分析した。使用したプライマーのうち,Cjgssr149では多くの個体で1領域に由来すると考えられる対立遺伝子を確認出来た一方で,2領域に由来すると考えられる断片が検出された。そこで,シーケンスしたところ,目的とした領域の一部が重複した類似領域であることが判明した。 Lian and Hogetsu (2002)の方法では,プライマー設計した63プライマーのうち,14.3%にあたる9プライマーのみを最終的にマーカーとすることが出来た。一方,エンリッチメント法ではプライマー設計し,PCR増幅した54プライマー対のうち,約60%にあたるプライマー対をマーカーとして考えることが出来た。しかし,この結果だけに基づいてエンリッチメント法が効率面で優れていると判断することは困難である。エンリッチメント法では,ポジティブクローンを選抜する段階でその3倍にあたるコロニー(768コロニー)を選抜しており,これらのコロニーにSSRが含まれているか確認する作業を行なう必要性がある上に,実験操作もハイブリダイゼーションなど熟練者以外には容易でない場合も多い。一方で,Lian and Hogetsu (2002)の方法は選抜したコロニーの90%以上がポジティブであり,操作もまたPCRを主体とした手法の連続であることから比較的容易にマーカー開発を進めることが出来る。但し,コスト面ではLian and Hogetsu (2002)の方法は,二度にわたるシーケンシングとプライマー設計を行なう必要性から,エンリッチメント法よりも負担は大きい。 SSRマーカーは開発に労力がかかる一方で,得られる情報量の大きさや再現性の高さから,きわめて有益なマーカーである。しかし,針葉樹は染色体倍加を伴わないゲノム重複が生じているとの報告もあり,類似する領域がゲノム中に散在している可能性も高い。実際,アカマツで増幅したプライマー対のうちマーカーとして選抜できなかった理由の多くは2領域以上と考えられる断片が検出されたことにあった。複数領域が検出されたとき,分離比検定やシーケンシングを行ない,領域間の関係を明確にすることで,初めて解析に利用できると考える。
  • I.L.G. Nurtjahjaningsih, 斉藤 陽子, 練 春蘭, 津田 吉晃, 井出 雄二
    セッションID: A18
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    Pinus merkusiiは熱帯のマツ科樹木であり、赤道付近から南半球にかけて分布している。インドネシアにおいては、スマトラ島に3ヶ所天然林があり、アチェ個体群は大きな純林を形成しているが、タパヌリとケリンチ山の2ヶ所は小さく広葉樹との混交林である。インドネシアにおいては本種の育種プログラムが確立されており、ジャワ島の人工林の母樹から採種した種子を材料とした、600家系3,600本からなる実生採種林が96haある。育種と遺伝子保存のためには遺伝的な多様性が重要となるため、実生採種林の遺伝的な多様性を把握することが不可欠である。また、実生採種園における交配様式を明らかにすることは採種園の設計の改善と管理に役立つ。 核SSRマーカーは共優性で多型性の高いDNAマーカーであり、遺伝的多様性、母性・父性解析などに有効であることが知られている。そこで本研究ではPinus merkusiiのSSRマーカーを開発することとした。 P. merkusiiの芽生えを用いて、Lian らの方法(2002)によりマイクロサテライト部位を増幅するためのプライマーセットを12セット設計した。これらのプライマーセットについて、実生採種園の成木64個体の針葉を用いて、増幅の程度や多型性を確認した。さらに、P. merkusiiと同じマツ科の3種P. densiflora (Lian et al., 2000), P. pinaster (Mariette et al., 2001) および P. taeda (Elsik et al., 2000)で開発された既存の12のマイクロサテライトマーカーについて、P. merkusiiに適用可能であるかを検討した。 その結果、P. merkusiiについて12のプライマーセットを設計し、このうち4セットがSSRマーカーとして利用可能であると考えられた。また、既存の12のマイクロサテライトプライマーセットのうち7セットがP. merkusiiで増幅したが、そのうち、5マーカーが適用可能であると考えられた。今後さらに検討を進める予定である。
  • 西川 浩己, 津田 吉晃, 清藤 城宏, 井出 雄二
    セッションID: A19
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     甲州手彫印章は、山梨県の伝統的工芸品であり主要な地場産業である。近年、オノオレカンバの材質が印材として適当であるとして商品化され、県内に生育する天然生木の需要が生じた。そのため、本種資源の安定供給およ び遺伝資源保全の観点から、県内材の永続的確保のための方策を利用と並行して講ずる必要がある。資源としてのオノオレカンバの適正な管理や保全を考えるにあたって、地域集団の遺伝的特徴についての知見が重要である。しかし、本種の遺伝的多様性やその維持のメカニズムに関する研究はこれまでまったくない。一方、近年カバノキ属樹木のマイクロサテライトマーカーの開発が進み、これを用いた遺伝的多様性に関する研究が容易になって きている。そこで、他のカバノキ属樹木で開発されたマイクロサテライトマーカーを適用して、オノオレカンバの集団内および集団間の遺伝的多様性を、山梨県内の集団を中心に 調査した。 山梨県内の4集団および東京大学秩父演習林の計5集団とし、各集団につき32個体を供試した。葉、枝および幹の形成層からを用いてDNAを抽出し、PCRのテンプレートとした。多型解析には、ウダイカンバの5種およびシラ カンバの3種の計8種のマイクロサテライトマーカーを用いた。集団内で遺伝的多様性を示す統計量として、1遺伝子座あたりの対立遺伝子数(A)、ヘテロ接合度の観察値(Ho)および期待値(He)、近親交配の程度を示す 近交係数(FIS)を算出した。また、FIS の0からの偏りの有意性の検定および集団間の遺伝的分化程度を示すFSTについては遺伝解析ソフトFSTATを用いて算出した。また、遺伝解析ソフトNJBAFDを用いてNeiの標準遺伝距離Dと Goldsteinのdelata-mu squareを求め、近隣結合法によりデンドログラムを作成した。さらに、集団間の地理的距離と遺伝的分化との間の関係についてマンテル検定を行った。 用いた8マーカーのうち1マーカーは単型 であった。5集団全体では7遺伝子座で53個の対立遺伝子が検出された。集団内の遺伝的多様性では、Aは3.286_から_3.714の値であった。Hoは0.313_から_0.460、Heは0.316_から_0.417であり、 集団内の遺伝的多様性の差は小さく、いずれの集団も同程度の多様性を保持していた。いずれの遺伝子座においてもFISの0からの偏りは有意でなかったことから、調査集団は任意交配集団とみなすことができた。 用いたマーカーのうち、ウダイカンバで開発されたマーカーの方がシラカンバで開発されたものより高い多型性を示し、これらのみでHeを算出したところ、0.481_から_0.611となった。このことから近縁種のマイクロサテライトマーカーの流用は可能であるが、遺伝的多様性の詳細な検討には、適用すべき種に対する独自のマーカー開発が必要と思われた。集団間のFSTは0.051であった。集団間の遺伝的距離については、Neiの標準遺伝距離Dと delata-mu squareを用いたどちらの場合でもデンドログラムは同型で、両者とも集団間の地理的な距離と遺伝的な距離には傾向が認められなかった。また、全調査集団総当たりの地理的距離とFSTの関係については傾向が認められなかった。しかし、富士河口湖町西湖を除いた場合には有意な関係が認められ、地理的な距離以外の要因が、集団間の遺伝的分化に影響していることが示唆された。
  • 森口 喜成, 谷 尚樹, 伊藤 信治, 平 英彰, 津村 義彦
    セッションID: A20
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    父親としての貢献度と着花量、開花期の同調性、距離などのデータとの間の関係を6座のマイクロサテライトマーカーを用いて評価した。調査した新潟県のミニチュア採種園における平均混入率は38.7%で、平均自殖率は1.7%であった。構成クローンの父親としての貢献度にはクローン間で有意な差があった。最も高い貢献度を示す5クローンは、混入を除いた種子の約30%を占めた。開花期の同調性および着花量は、構成クローン間で大きな差があった。各構成クローンの父親としての貢献した種子数と花粉量および開花期の同調性との間の関係を調べるために、ピアソンの積率相関係数rを算出した結果、花粉量との間には正の相関があったが、開花期の同調性との間には相関はみられなかった。ただし、開花期のほとんど同調していないクローンの父親としての貢献度は低い傾向にあった。開花期を3つの開花型(早期、中期、晩期)に分けて解析を行ったが、開花型の違いによる影響は見出せなかった。父親としての貢献度に最も影響を及ぼす要因は花粉総量であると考えられるが、距離も父親としての貢献度に影響を与えていることが示唆された。
  • 谷口 亨, 栗田  学, 大宮 泰徳, 近藤 禎二
    セッションID: A21
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)は、日本を代表する造林用樹種であり、近年の新規植林面積はスギを抜き第一位となっている。ヒノキの精英樹が選抜され、その次代検定が行われているが、ヒノキ精英樹に病虫害抵抗性等の有用形質に関係する外来遺伝子を導入して新品種を開発することは新たな林木育種の方法として期待がもてる。そのためにはヒノキへの外来遺伝子の導入方法と植物体の再分化方法の開発が必要である。今回は、ヒノキ精英樹10クローンの未熟種子からの不定胚誘導と植物体の再生について、また、不定胚による再分化系を利用した緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子の導入と形質転換体の作出について報告する。 2003年7月上旬に林木育種センター交配園のヒノキ精英樹10クローンから採取した未熟種子から実体顕微鏡下で未熟胚を含む雌性配偶体を無菌的に取り出し、Embryonic Tissue Capture Medium で培養した。4週間後にEmbryogenesis Medium、さらに4週間後にEmbryo Develop Medium (SM-dev培地と略す)に移植した。誘導されたembryogenic tissueは、SM-dev培地で2_から_3週間間隔で継代培養した。不定胚を誘導するためにembryogenic tissueをポリエチレングリコール4000、ABA、活性炭、マルトースを加えたSM-dev培地(不定胚誘導培地)で培養した。2か月後に誘導された不定胚を発芽させるためにWPM培地に移植した。発芽時は25度16時間日長、それ以外は25度暗所で培養した。 2002年に精英樹(恵那3号)の未熟種子から誘導したembryogenic tissueにGFP遺伝子とカナマイシン耐性遺伝子をもつバイナリーベクター(pBin19 -sgfp)を導入したアグロバクテリウム GV3101::pMP90株をトウヒ属で報告されている方法に従い感染させた。2日間の共存培養の後、除菌のための洗浄操作を行い、クラフォランを加えたSM-dev培地で4日間培養した。その後は、クラフォランとカナマイシンを加えた選抜除菌培地に移植し、2_から_3週間間隔で継代培養した。選抜除菌培地で1mm程の大きさに増殖した細胞塊をピンセットで取り、同組成の培地で培養した。この時、一つの細胞塊を一系統の形質転換系統とした。その後、カナマイシンを加えた不定胚誘導培地で培養し、得られた不定胚はカナマイシンを加えた発芽培地で培養した。 精英樹10クローンから採取した合計245個の未熟種子を培養、継代したところ、5か月後には168系統(1個の未熟種子由来のものを1系統とする)のembryogenic tissueが得られた。139系統のembryogenic tissueを不定胚誘導培地で培養した結果、24系統で不定胚が誘導され、15系統の不定胚を発芽培地へ移植したところ13系統の不定胚が発芽した。培養を開始してから植物体が再生するまでに6か月を要した。 感染2日後にはGFPによる緑色蛍光を発する細胞が観察され、約2か月後には除菌選抜培地上に形質転換されたと考えられる細胞塊が得られた。除菌のための洗浄の操作が不十分な場合は菌が増殖して細胞は全て死んでしまったので、洗浄操作は形質転換細胞を得るためには非常に重要なステップであると考えられる。カナマイシン濃度を25と50mg/lの2種類としたところ、25mg/lの方がシャーレ1枚(embryogenic tissue 250mg)当たり、最大で39系統と多くの細胞塊が得られた。これまでに不定胚を経て8系統の形質転換ヒノキを得ることができ、その一部は閉鎖系温室で順化させた。
  • 石井  克明, 細井 佳久, 長谷 純宏, 田中 淳
    セッションID: A22
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     これまで突然変異育種では、変異原としてγ線が主に用いられてきたが、最近日本独自の技術としてイオンビームを照射した有用品種の育成が行われるようになっていきた。イオンビームは高い生物効果を示すため、花卉ではこれまでにない新しい突然変異が報告され、2002年には初の実用品種が作出された。ここでは、ヒノキの苗条原基やスギの組織培養した芽に重イオンビームを照射した場合の致死量、生存率や形質変異について報告する。 材料は森林総合研究において組織培養を行っている、ヒノキの苗条原基及びスギの培養した芽を用いた。重イオンビームの照射は原研高崎TIARAで加速粒子4He2+(50 MeV)及び 12C5+(220MeV)及び12C6+(320MeV)を深度制御種子照射装置でそれぞれ5_から_266 グレイ(Gy)、5_から_160 Gy、1_から_20Gyの線量になるように行い、その後培養を続けて致死線量や変異体の出現を観察した。 苗条原基塊の大きさが実験に影響するが、苗条原基塊を直径2mm以下に小さくした場合の12C5+ イオンの照射では致死線量が約80 Gyであることがわかった。また、4He2+ イオン照射の実験で苗条原基が直径3mmより大きかった場合、生存した苗条より白子、黄子、ワックスリッチと認められる葉条変異体が得られた。変異体の出現頻度やその種類と照射線量との間には明確な関連は見られず、低線量においても変異体が観察された。照射有効深度の影響により、苗条原基塊が約3mm以上の時は致死線量の境界値が明確に判らなかったが、80 Gy以上では、苗条原基表面が枯死し、その後内部で生存していた細胞が増殖してくるため、そのようになるのではと推測された。スギの培養した芽にイオンビームを照射した場合の生存率は線量が増加するにつれて、減少した。シロイヌナズナを用いたモデル試験では、イオンビームで誘発される突然変異の半分が点突然変異などの小さな変異であり、あとの半分が遺伝子全体を含むような大きな欠失や逆位であるという1)。また、花卉での照射結果では、バーベナで不稔性付与による花持ちの良い変異体(不稔花コーラルピンク、不稔花手毬サクラ)や、ペチュニアとカーネーションで花弁の色素変異である複色体(新花色サフィニアローズベイン、ビタルイオンシリーズ)が得られている。今回のヒノキで得られた色素変異は単色的であったが、高頻度で生じた理由は、照射対象が苗条原基であり、活発な分裂組織を多く含んでいたことがひとつの理由として考えられる。また、ワックスリッチの変異体は、林業的にはあまり意味が無いと思われるが、色素変異では難しかったシュートからの発根による個体の再生が可能であったので、植木園芸的な発展が期待される。 スギの実験では、現在までのところ明確な色素変異や形態変異は観察されていないが、再生植物体の中には、イオンビームの照射の影響を受けたものが存在する可能性があり、今後紫外線耐性や雄性不稔個体等の変異体が生じているかどうかの検定を予定している。 今後、活性の高い組織培養組織に重イオンビームを照射することによって、樹木についての新しい変異体の作出が大いに期待されると思われる。
  • 黒丸 亮, 来田 和人, 内山 和子
    セッションID: A23
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     これまでに開発したグイマツ雑種F1幼苗からのさし木増殖法によって、登録品種「グリーム」の増殖実証試験を行った。その結果、533本のさし木台木から5924本のさし穂をさし付け、翌年秋にはその内の4001本が実生山出し規格に合格した。台木1本当りからの増殖率は7.5倍であった。試験の中で、発根剤の効果(IBA100ppm水溶液に数十秒浸漬後さし付け)を検討した結果、対照区と比べ、苗のサイズでのちがいはなかったが、床替え後の枯死率が低い値(処理区9.7%、対照区15.7%)であった。一方、実生苗とのサイズを比べた結果、さし木苗は明らかに大きく、苗長1mを超えるものも35%認められた。これは、さし木苗がさし付け当年夏から翌年秋まで床替床に据置枯れた分、播種翌年春に床替えされた実生苗よりも根系が発達したためと考えられる。ただし、苗長階別の本数割合でみると、相対的に小さい苗長40_から_60cmでは実生苗の本数割合の方が低い値となった。これは、実生苗がサイズ別に床替えしたのに対し、さし木苗ではクローン別に順に床替えしたため、個体間の競争の影響が実生苗の場合よりも大きかったことが考えられた。 以上の結果から、種子供給が制限される品種「グリーム」等の優良家系を幼苗段階でさし木増殖することは十分可能である。本試験で示された幾つかの課題を克服することで、コスト面では現状よりも1_から_2割程度安く生産できる可能性があり、ブランドさし木苗生産の事業化に道が開ける。
T1 樹木の環境適応とストレスフィジオロジー
  • 古川原 聡, 山ノ下 卓, 則定 真利子, 益守 眞也, 小島 克己
    セッションID: A24
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    根圏の低酸素濃度条件に対して成長が阻害されるEucalyptus camaldulensisと阻害されないMelaleuca cajuputiで根への光合成産物の転流が受ける影響が異なることを安定同位体13Cを用いて実験的に明らかにした。低酸素濃度ストレス耐性の高いM. cajuputiは低酸素濃度条件でも根への転流が阻害されないが、E.camaldulensisは著しく阻害されることが分かった。これは根の低酸素濃度ストレス耐性が根で糖を代謝できるかどうかということを反映していると考えられる。
  • クヤンスー ヨニ
    セッションID: A25
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 田原 恒, 則定 真利子, 益守 眞也, 宝月 岱造, 小島 克己
    セッションID: A26
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     強酸性土壌ではアルミニウム(Al)が有害化し植物の成長を阻害する場合がある。樹木には高濃度のAlに対して強い耐性を持つものがあり、東南アジアやオーストラリアに分布しフトモモ科に属するMelaleuca cajuputiもそのような樹木の一つである。植物とAlに関する研究に主な材料として使われてきた草本作物の多くは数十オMのAlで成長が阻害されるのに対し、M. cajuputiは数mMレベルのAlが根圏に存在しても生育できる高いAl耐性を持っている。我々はM. cajuputiと同属でM. cajuputiよりも明らかにAl耐性の低いM. bracteataを見出している。この同属2種のAl対する反応を比較することによって、M. cajuputiの持つ高いAl耐性の機構を明らかにすることを目的とする。最も顕著に現れるAl害は、根の伸長阻害である。そこで、根が伸長している根端部分のAlに対する反応の違いをM. cajuputiとM. bracteataについて比較した。 耐性種M. cajuputiは1 mMのAlによって根の伸長が阻害されなかったが、感受性種M. bracteataは1 mMのAlによって根の伸長が大きく阻害された。AlによるM. bracteataの根の伸長阻害は、Al処理開始3時間後から見られた。 根端に集積したAl(アポプラストAl+シンプラストAl+残余Al)は、3時間後以降M. bracteataの濃度がM. cajuputiよりも高い傾向にあったが、M. cajuputiの6-24時間後の濃度が根の伸長阻害が見られ始めた3時間後のM. bracteataと同程度がそれ以上だった。このことは、M. bracteataで根の伸長が阻害は根端全体へのAl濃度とは関係がないことを示している。根端のアポプラストAlとシンプラストAlは、根の伸長阻害が現れる処理開始3時間後までに感受性種M. bracteataが耐性種M. cajuputiよりも高くなかった。このことは、アポプラストAlやシンプラストAlの濃度も根の伸長阻害を決める要因ではないことを示している。残余Alはいずれの時間でもM. bracteataでM. cajuputiより濃度が高かった。残余Alは、除去液によっても根端から離れなかったことから、根端に強く結合している。残余AlがAlによる根の伸長阻害を引き起こしている可能性がある。 植物のAl耐性機構の一つとして根端内部でAlを無害化することが考えられる。フェノール物質は、Alと結合してAlを無害化できる物質の一つである。根端の可溶性フェノール物質濃度は、種や処理によって違わなかった。壁結合性フェノール物質は、対照区では種間に濃度の差がなかった。M. cajuputiでは壁結合性フェノール物質濃度に処理による違いはなかったが、M. bracteataではAl区のほうが対照区より高かった。植物は傷害に反応してリグニンを生成することがある。M. bracteataでAlに反応して増加する壁結合性フェノール物質の正体はリグニンである可能性がある。 根端のリグニン濃度を調べたところ、M. cajuputiではAlによって根端のリグニンが増加しなかったのに対し、M. bracteataではAl処理開始3時間後までにリグニンが増加した。このリグニンは傷害誘導性のものであろう。 Alによって障害を受けた根では、多糖類の一種であるカロース(b-1,3-グルカン)が生成することが知られている。そこで2種の根端におけるカロースの生成について調べた。M. cajuputiではAlによってわずかに根端のカロース濃度が高くなった。M. bracteataではAlによって根端のカロース濃度が著しく高くなり、その濃度上昇は処理開始3時間後には見られた。リグニンやカロースは細胞壁に沈着するので、Alによって生成したリグニンやカロースが細胞壁の伸展性を低下させ根の伸長を阻害する原因となった可能性がある。
  • 富岡 利恵, 竹中 千里
    セッションID: A27
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 吉田 耕治, 三宅 博, 竹中 千里, 手塚 修文
    セッションID: A28
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. はじめに
    神奈川県西部,丹沢山地の大山では1960年代にモミの立ち枯れが発生した。その後枯損木の発生は減少し,1980年代以降は急速枯損から慢性的な衰弱が見られる。この地域では酸性度の高い霧が頻繁に観測されていることから,酸性霧とモミの衰退との関連が示唆されている。演者らはこれまでに,モミ苗木を用いた長期にわたる酸性霧暴露とさまざまな付加ストレスの複合ストレス実験を行ない,乾燥ストレスやオゾン暴露下で,酸性霧の暴露を受けた個体はこれらのストレスに対してより感受性が高まること,酸性霧の単独暴露では特に,夏期において気孔コンダクタンスの有意な上昇を明らかにし,元素含有量やアブシジン酸 (ABA) 含有量を含めた検討を行ってきた。
     そこで本研究では,長期の酸性霧暴露がモミ苗木針葉の気孔開閉メカニズムに及ぼす影響をより明確にするため,長期間酸性霧を暴露させたモミ苗木の葉面状態を中心に検討を行った。
    2. 材料と方法
     1999年4月中旬,3年生のモミ(Abies firma Sieb. et Zucc.)苗を,腐葉土と赤玉土を1:2の割合で混合した土壌を用いて,1/2000 aワグネルポット(13 L)に植栽した。苗木は名古屋大学構内のビニールハウス内で生育させた。潅水は井水を用いて適時行った。
     暴露する酸性霧は,大山で観測された霧水の成分組成を参考にしてpH 3となるよう調製した。酸性霧の暴露は1999年7月中旬から開始し,1週間に2回,10分間ずつ行った。酸性霧暴露はモミ苗木の地上部への影響を目的としているため,暴露時は土壌をビニールで覆い,土壌の酸性化を防いだ。
     2003年11月,光飽和下,暗黒下の当年葉の光合成活性(気孔コンダクタンス,蒸散速度,純光合成速度)の測定を行なった。また,同日に当年葉を採取し,すぐに液体窒素で凍結させた。これを凍結乾燥させ,走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて葉面状態を観察した。
    3. 結果と考察
     モミ苗木当年葉の光飽和下における気孔コンダクタンスは,酸性霧暴露区(F区)の値は無処理区(C区)に比べて有意に上昇し,酸性霧の暴露によって気孔が過剰に開放するというこれまでの結果と一致した。一方,暗黒下の蒸散速度はC区とF区との間に有意な差は見られず,酸性霧の影響の一つとして考えられている,クチクラワックスの流亡・変質によるクチクラ蒸散の増大は生じていないことが示唆された。SEMによる観察の結果,葉面のクチクラワックスの結晶構造はC区,F区いずれも発達しており,暗黒下における蒸散速度の結果を支持した。さらに,SEMによる気孔の開閉状態の観察結果を含めて解析をおこなう。
  • 本間 環, 三宅 翼, 平井 麻梨, 桝田 信彌
    セッションID: A29
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 石井 義朗, 李 玉霊, 斯 慶図, 坂本 圭児, 王 林和, 吉川 賢
    セッションID: A30
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的
    中国内蒙古自治区の毛烏素沙地に自生する臭柏(Sabina vulgaris Ant.)は常緑針葉樹であるため,夏の高温,乾燥だけでなく,冬の極低温にもさらされる。そういったストレス条件下では,気孔閉鎖やRubiscoの不活性化が起きるため,葉に照射される光エネルギーはCO2固定で利用する量を超え,有害な活性酸素を誘発する。したがって臭柏は1年を通じて,活性酸素による光酸化的ダメージから光合成器官を保護するために,過剰な励起エネルギーを消去しなければならない。
     本研究の目的は,臭柏が高温・乾燥ストレスや低温ストレス条件下で生育を可能にする生理学的メカニズムを解明することである。そのために,臭柏のクロロフィル蛍光反応と葉の色素組成の季節的変化を調べた。

    2.材料と方法
     材料は,毛烏素沙地開発整治研究センター内の試験地に自生する臭柏群落を用いた。生育立地の影響を考慮して,砂丘下部から上部までに生育する3群落を選んだ。2001年8月における測定群落の地下水面からの距離はそれぞれ1.7m,1.9m,5.1mであった。
     1群落につき匍匐枝を3本選び,その先端の当年葉の部分で夜明け前と南中時にクロロフィル蛍光反応を測定した。測定はクロロフィル蛍光分析計(MNI-PAM,WALZ社)を用いて,2001年6月から2002年5月まで行った。また,2001年6月から2002年2月まで蛍光反応を測定した枝に近い直立枝から当年葉を夜明け前に採取し,高速液体クロマトグラフィー(JASCO社)により色素組成を分析した。

    3.結果と考察
     夏の成長期において,いずれの立地に生育する臭柏でも南中時のPS_II_量子収率(ΔF/Fm′)は高温・乾燥期に低下し0.1以下となったが,夜明け前のPS_II_量子収率(Fv/Fm)は一定して0.8前後の高い値を示した。したがって高温・乾燥条件下では,日中に量子収率を低下させることで光合成器官の光酸化的ダメージを回避し,慢性的ストレスを受けずに生育が可能だと考えられた。
     色素組成を見ると,高温・乾燥期にクロロフィルa/b比(Chla/b比)が高くなる傾向にあった。これはアンテナサイズを小さくし光捕集能力を低下させることを示している(Anderson and Osmond 1987)。その傾向は生育立地が地下水面から遠くなるほど顕著であった。
     周囲の落葉樹が落葉する時,臭柏はΔF/Fm′とFv/Fmを大幅に低下させた。同時にキサントフィルサイクル色素の総量(ビオラキサンチン(V),アンテラキサンチン(A),ゼアキサンチン(Z)の総量:VAZ量)が爆発的に増加し,脱エポキシ化によって熱散逸色素であるAとZが大幅に増えた。Chla/b比も漸次上昇したが,Chla/b比が最高値にあるときVAZ量は減少した。低温期のVAZ量の減少はVからABAが生成されたことを示唆し(Ederli et al. 1997),ABAが2次メッセンジャーとなりタンパク質を増加させ,耐凍性を高めた(Veisz et al. 1996)と考えられた。
    VAZ量とChla/b比の間には高い負の相関が認められた。このことは熱散逸能力が低下した場合に捕捉する光量を減少させることを示唆している。つまり, 熱散逸能力と光捕集能力は相互補完的に作用し,安定した光防御能力を維持すると考えられた。
     他のカロテノイドでは,ルテイン(Lut)が低温期に増加した。LutもA,Zと同様に,熱散逸を行う(Müller et al.2001)。よって臭柏は低温期にA,ZとともにLutを増加させ,過剰な励起エネルギーを熱として無害に散逸したと考えられた。
     以上のことから,低温条件下では,臭柏は夜明け前から多量のA+ZとLutを保持し,一日を通じて熱散逸能力を高めていた。また耐凍性獲得のためにABAを生成して熱散逸能力が低下する可能性が示唆されたが,それは光捕集能力の調節により補償することで,過剰な励起エネルギーの発生を抑制することが示唆された。
  • 松本 一穂, 太田 岳史
    セッションID: A31
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    本研究ではコナラの気孔コンダクタンスの環境応答特性についてJarvis型モデルを用いて検討を行なった。その結果、PPFDや飽差などの環境因子と並んで、葉内葉緑素濃度の変動が気孔コンダクタンスに強く影響していることや、気孔コンダクタンスの環境応答特性は樹齢や季節によってはほとんど変化しないことなどが示された。また、気孔コンダクタンスに対する各環境因子の影響度の順位は、季節に関わらずPPFD>飽差>葉温>土壌水分となったが、葉緑素濃度のみ春季と秋季に影響度が高くなり、夏季には低下するという季節変化をみせた。
  • 橋本 良二, 白旗 学
    セッションID: A32
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     ヒバを材料とした森づくりが,北東北を中心に活発化してきている。天然更新はもとより人工造林で行くにしても,実生のもつ成長特性に対する理解は,更新の成否あるいは育苗技術確立の面で重要である。現場でしばしばヒバの適地が問題になるが,とくに土地栄養条件に対する成長反応がスギなどと比べてどうちがうのか,よく知っておく必要がある。葉の光合成は,環境に最も敏感に反応する生理作用の一つである。本研究では,ヒバの芽生えについて培地の無機養分条件を変えて葉の光合成への影響を調べた。アカマツとスギを対照樹種とし,ヒバがそれらと栄養生理の面でどうちがうかを検討した。<BR> 培地の養分濃度が光合成に与える影響は,樹種により特徴的であり,Φ_II_OとrETRmaxの二つのパラメータを通して二元的にとらえることができた。ここで,Φ_II_Oは生育環境下での光ストレスの指標であるとともに,PS_II_の最大量子収率,最大励起捕捉率を示し,光合成光反応曲線の弱光域での能力と直接に結びつくものである。rETRmaxは光飽和時の電子伝達系の能力を示し,CO2同化能力と高く相関する。養分欠乏のマイナス影響は,アカマツではrETRmaxの大きな低下のみであったのに対し,スギではΦ_II_OとrETRmaxの両者の大きな低下として表れた。一方,ヒバではΦ_II_OとrETRmaxはともに低いレベルにあり,養分濃度の影響は出にくかったが,養分欠乏下ではスギに比べ両パラメータとも明らかに高い値を示した。<BR> rETRmaxの樹種間のちがいや培地養分濃度によるちがいには,ECEとqPの両者がともに関与していた。しかし,十分な施肥条件下で育ったスギとヒバでは,スギでの高いrETRmaxはECEのみで説明された。このことは,ECEとqPの相対レベルが樹種で異なることを意味する。クロロフィル励起状態の解放をめぐってECEとNPQが拮抗して変動することから,樹種のもつECEレベルはキサントフィル・サイクルへの依存の強さを通して決まっていると見られる。<BR> スギの高いECEレベルは高いΦ_II_Oとも結びついており,中弱光下での光合成に有利に働く。これに対し,ヒバの低いECEレベルはキサントフィル・サイクルの強化と結びついていると見られ,強光下でも光阻害に見舞われることなく光合成ができる。したがって,PS_II_の反応性をよりどころにすると,土地栄養条件の良いところではむしろスギが陰性である。一方,ヒバは貧栄養条件の強光下で耐性である。<BR>
  • 横田 智
    セッションID: A33
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 二村 典宏, 谷 尚樹, 津村 義彦, 篠原 健司
    セッションID: A34
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     近年、スギ花粉症患者が急増し、社会問題となっている。他の植物でのアレルギー研究から、多くの感染特異的タンパク質がアレルゲン活性を有していることが明らかになっている。筆者らは、北米で報告されているビャクシン(Juniperus ashei)花粉症の感染特異的タンパク質アレルゲンJun a 3に相同性のあるスギcDNAを6種類(Cry j 3.1からCry j 3.6)単離し、各器官での発現特性を報告した。今回は、感染特異的タンパクPR-5ファミリーに属するCry j 3.1からCry j 3.6それぞれについて、多型を検出して基礎連鎖地図にマッピングすることを試みると共に、各種ストレスや植物ホルモンによる発現誘導について解析した。 Cry j 3.1からCry j 3.6cDNAをプローブとしたときのRFLP (Restriction Fragment Length Polymorphism) とCry j 3.1からCry j 3.6を特異的に増幅するPCRにより多型の検出を試みた。YI96×YI38のきょうだい交配によって得られたF2分離世代150個体を解析に用いた。連鎖地図へのマッピングには、JoinMap Ver. 3.0を使用した。 連鎖解析の結果、Cry j 3.1からCry j 3.3は第3連鎖群上の互いに分離できない近傍にマッピングされた。Cry j 3.4も第3連鎖群上にマッピングされた。Cry j 3.5は第10連鎖群上にマッピングされた。 Cry j 3.1からCry j 3.3が高い相同性(アミノ酸配列で86%から92%)を示すだけでなくゲノム上の非常に近い位置に存在すること、Cry j 3.1からCry j 3.3と比較的相同性が低いCry j 3.5 (約40%)が別々の連鎖群上にマッピングされたことは、分子進化を考える上で興味深い。 ストレス処理及び植物ホルモン処理には、湿らせた濾紙上で発芽させたスギ芽生えを用い、水もしくは各種溶液を張ったシャーレに移してストレス処理を行った。UVストレスは、UV-Bを88.1J/m2hの強度で16時間照射することにより行った。その他に、塩処理(220mM NaCl)、植物ホルモン処理 [2mM サリチル酸 (SA)、100mMジャスモン酸メチルエステル (MJ)、10mM エテホン]、エリシター処理 [300mMもしくは3mMアラキドン酸 (AA)、25mg/L セルラーゼ、両者の組み合わせ]を行った。処理前と処理後24時間の芽生え全体からCTAB法により全RNAを抽出し、RNAゲルブロット法により各遺伝子の発現特性を調べた。 ストレスや植物ホルモン処理による発現誘導を調べるため、Cry j 3.1, Cry j 3.3, Cry j 3.4, Cry j 3.5, Cry j 3.6の5種類のプローブを用いて、互いにクロスハイブリしない条件で、RNAゲルブロットを行った。Cry j 3.4はエテホン処理を施したときに最も顕著に発現誘導が見られた。また、Cry j 3.4はサリチル酸や塩ストレスによっても発現が誘導された。Cry j 3.1は植物ホルモン処理では殆ど発現が誘導されなかったが、UVおよび塩ストレスにより発現が誘導された。その他の処理区では、発現誘導のレベルは低いか、あるいはまったく見られなかった。 このように、各種ストレスや植物ホルモンによる各遺伝子の発現誘導のされ方に差異が見られた。 Cry j 3.1からCry j 3.6の感染特異的タンパク質としての役割を調べるため、エリシターとしてセルラーゼとアラキドン酸処理をしたときの各遺伝子の発現誘導を調べた。その結果、Cry j 3.3, Cry j 3.4, Cry j 3.6に関しては、アラキドン酸単独もしくはアラキドン酸とセルラーゼとの組み合わせにより発現が顕著に誘導された。Cry 3.1に関しても0.3mMアラキドン酸と25mg/Lセルラーゼをあわせて処理したときにわずかに発現が誘導された。これに対し、Cry j 3.5に関してはエリシターによる発現の誘導効果は殆ど認められなかった。 以上の結果から、Cry j 3ファミリーを構成するメンバー間に、役割の違いがあり、発現誘導に至るカスケードにも違いがあることが示唆された。
  • 西口 満, 吉田 和正, 角園 敏郎
    セッションID: A35
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     原子力は産業や医療、学術利用を通じて、人間社会に多大な貢献をしている。しかし、利用に伴って放出される電離放射線(以下、放射線)は、ヒトを含めた様々な生物の細胞に影響を及ぼし、時に身体的傷害や遺伝的影響を残す。このような危険性を軽減するためには、放射線の生物への影響評価やその防護に関する知識が重要となる。従来、樹木に関しては、ガンマ線を初めとする放射線に対する感受性や、照射による形態的な変化が調査され、また有用変異体の作出が進められてきた。しかし、そのような現象が生じる機構に関して、DNA損傷等の分子レベルでの説明を可能にする知識は得られていない。我々は、放射線の樹木への影響や、その影響を低減する防御機構を解明することを目指して、ガンマ線照射による樹木の成長への影響を解析し、加えて、損傷DNAの修復への関与が推定される遺伝子を単離した。
     挿し木により増殖した同遺伝子型のポプラ(Populus nigra var. italica)の苗木にガンマ線を急照射した。照射線量は20時間当り10、20、50、100グレイ(Gy)で、対照として非照射区を設定した。照射後、苗木を明期16時間、暗期8時間、25℃で10週間にわたり育成した。育成期間中に枯死した個体は無かったが、照射線量の増加に伴い樹高は低下した。特に、100Gy照射区では照射後2週間内の成長阻害効果が高く、その後も完全には回復せず、10週後の樹高は非照射区の約65%であった。根元直径や葉数は非照射区と10_から_50Gy照射区ではあまり差が認められないが、100Gy照射区では減少傾向にあった。また、10週後の乾燥重量は各処理区において変動しているものの、十分な規則性は類推できなかった。形態異常は、50、100Gy照射区において照射後2_から_6週間で生じた。節間内での茎の分岐、対生した葉(通常、ポプラの葉序は互生)、葉柄の屈曲、葉の断裂や複葉化が観察された。しかし、これらの変異は局所的なものであり、全ての照射個体や、個体中の全ての葉に見られるものでは無かった。また、その後、茎頂より伸長する茎や展開してくる葉の形態は正常だった。今回の実験では、各照射区内での個体間差が大きく、これは、同遺伝子型であっても、照射時の植物の状態やその後の成長過程等によって、放射線の影響に差異があるためと考えられる。また、形態異常の出現箇所や時期が限定されていたことについては、照射によって生じた損傷が修復された可能性と、傷害を被らなかった分裂細胞からその後の器官分化が起こっている可能性の二つがある。実際に、ガンマ線照射によって、DNA等の細胞内物質に異常が生じているかどうかを確認する必要がある。
     ポプラのDNA損傷修復機構を解明するために、相同組換え修復に関与すると予想されるRad51相同遺伝子の単離を行った。シロイヌナズナのAtRAD51と相同性を示す遺伝子をポプラ(P. trichocarpa)のゲノムDNA塩基配列からBlastプログロムを用いて検索した。相同性を示す領域の塩基配列に基づいてPCR用のプライマーを設計し、P. nigra var. italica芽由来のRNAを用いて、RT-PCRを行った。増幅したDNA断片をクローニング後、塩基配列を決定した結果、PnRAD51遺伝子を単離した。予想されるPnRAD51タンパク質は、342アミノ酸残基から成り、推定分子量は約37kDaであった。シロイヌナズナAtRAD51、ヒトhRAD51、酵母RAD51、大腸菌RecAとは、それぞれ91、68、63、19%の相同性を示した。
  • 伊ヶ崎 知弘, 篠原 健司
    セッションID: A36
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    近年、CO2排出による地球温暖化は大きな社会問題となっている。林木は、極めて長い期間にわたり光合成によりCO2を固定することができ、地球温暖化防止の一翼を担うと期待されている。ジベレリンは、植物の成長を制御する植物ホルモンで、実験植物を中心にその生合成経路やシグナル伝達経路が詳細に解明されている(図1)。そこで、我々は、ジベレリン生合成経路上の遺伝子やシグナル伝達経路上の遺伝子を利用して、林木の成長を制御することを目的に研究を進めている。今回は、ポプラの一種であるセイヨウハコヤナギやギンドロからジベレリン生合成遺伝子の単離等について報告する。
  • 楠城 時彦, 二村 典宏, 西口 満, 伊ヶ崎 知弘, 篠崎 一雄, 篠原 健司
    セッションID: A37
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    地球環境の保全や修復のため,耐乾性,耐塩性や耐凍性など環境ストレス耐性を向上させた組換え樹木の開発が期待されている。そのためには,まず樹木の環境ストレス応答や耐性のメカニズムを知る必要がある。近年のゲノム科学的解析手法の発展により,シロイヌナズナ等のモデル植物ではストレス応答やストレス耐性に関与する遺伝子が数百個以上存在することが知られている。一方,樹木でも米国を中心にポプラ全ゲノム解読プロジェクトが進行しており,ポプラの「モデル樹木」としての重要性が一層増している。本研究では,無菌的に栽培したセイヨウハコヤナギ(Populus nigra var. italica)組織培養体の葉に,乾燥,高塩濃度,低温,高温,アブシジン酸や過酸化水素の各種ストレス処理を行い,各々の試料から調製したRNAを用いて完全長鎖に富むcDNAライブラリーを構築した。さらに,そのライブラリーから30,000個以上のcDNAクローンの末端塩基配列情報(ESTs)を収集した。これら発現遺伝子群の情報をもとに,ポプラとモデル草本植物の相同性及び特異性について比較ゲノム学的見地から考察する。
  • 小林 善親, 津山 孝人, 石内 修
    セッションID: A38
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 小池 孝良
    セッションID: A39
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    森林のCO2固定機能は樹木が光合成作用により大気中のCO2をどのように固定し貯留するかを調べ、森林がどのようにCO2を放出するか(主に土壌呼吸速度)を測定することで評価できる。理屈は簡単だが、人の背丈をはるかに越え、巨大で長生きする樹木の集団を対象にした研究では、「樹木は枝と葉を合わせた単位(=シュート:モジュール;建築部品)の集合体である。」という仮説を基礎に、多くの研究者の共同研究によってようやく形を見せてくる。本稿では、個葉→個体→群落の各レベルでの研究を紹介し、森林のCO2応答に言及する。また、北大北方生物圏フィールド科学センターで行われている温暖化に対する森林生態系応答の研究についても、事例を紹介する。
  • 奥田 尚孝, 中島 敦司, 櫛田 達矢, 山本 将功
    セッションID: A40
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに
     温暖化の進行に伴う様々な影響が危惧される中,二酸化炭素の固定等,森林の果たす役割は大きいと考えらる。このため,環境問題に貢献できる森林の保全,育成技術が求められている。そこで,持続的な森利用を前提とした適正な森林育成を行うためには,樹木の環境変動に対する反応性を理解しておく必要がある。
     我々研究グループは,これまで,人工気象室を用いて常に一定温度を加温する条件の下で数種の温帯樹木を育成することで,気温の上昇が数種の温帯樹木に及ぼす影響を検討してきた(2000年から2003年報告)。そこで今回は,研究を開始してから5年が経過したことから,これまで得られた知見の整理および様々な樹種に共通して認められた気温の上昇の影響を整理した。
    2.材料および方法
     実験には,和歌山大学システム工学部屋上に設置した5基の自然採光型人工気象室を用いた。1999年から2002年5月末までの間,人工気象室内の温度条件は,野外の気温より常に+1.5℃,+3.0℃,+4.5℃加温した条件(+1.5℃,+3.0℃,+4.5℃),野外の気温と同じ条件(±0.0℃),野外の気温より常に1.5℃低い条件(-1.5℃)の5種類とした。また,2002年6月以降,人工気象室内の温度条件は,野外の気温より常に+1.0℃,+2.0℃,+3.0℃加温した条件(+1.0℃,+2.0℃,+3.0℃),野外の気温と同じ条件(±0.0℃),野外の気温より常に1.0℃低い条件(-1.0℃)の5種類とした。湿度はいずれの処理区も外気に追従するよう制御し,日長調整は行わなかった。
     供試植物は,ビニルポットに植え付けた,数種の温帯樹木の実生苗および挿し木苗とした。各処理区につき10個体ずつ搬入し育成実験を行った。その後,樹種毎に,樹高伸長量,フラッシュの回数,土用芽の発生,地際直径,針葉束数,針葉束長,葉間長,着生葉数,葉面積,SPAD値,光合成速度,乾物重量,春季の成長開始時期,春季の成長開始時期に対する温度要求量,紅葉の開始時期,紅葉の進行,落葉の開始時期,落葉の進行等の項目について観察および測定を行った。
    3.結果および考察
     本研究で得られた結果のうち,温暖化に伴う気温の上昇がPopurus euroamericanaQuercus serrataPinus densifloraFagus crenataの成長と生物季節現象に及ぼす影響について整理した。
     この結果,全ての樹種に共通して認められた気温の上昇の影響は,春季の成長開始時期が早くなることと,成長開始に必要な温度要求量が上がるということであった。また,落葉広葉樹に共通して認められた気温の上昇の影響は,紅葉の開始が遅れることと,その後の落葉の進行が遅れるということであった。
  • 清水 英之, 津山 孝人, 本田 朋子, 渕上 佳代, 河津 哲, 小林 善親
    セッションID: A41
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    ●目的 これまでに、我々は樹木葉の膜脂質を構成する脂肪酸の組成と温度ストレス耐性との関係について研究を行ってきた。その結果、樹木葉の膜脂質を構成する脂肪酸組成は、夏に飽和脂肪酸の割合が高く、秋から冬にかけて多価不飽和脂肪酸の割合が増加することを見出した。このことは気温の変化に応じて膜の流動性を維持するために重要であると考えられる。しかしながら、樹木葉における脂肪酸組成と温度ストレス耐性との関係は不明な点が多い。 本研究では、脂肪酸不飽和度と温度ストレス耐性との関係を明らかにするために、まず不飽和度が減少および増加した高等植物を得ることを目的とした。並びに、2つ以上の遺伝子の発現を同時に抑制および促進する手法についても検討した。●方法 高等植物細胞の脂肪酸不飽和化には真核型と原核型の2つの経路が存在し、真核型は小胞体の脂肪酸不飽和化を、原核型は葉緑体の脂肪酸不飽和化を行うことが知られている。それぞれの経路での脂肪酸不飽和化は、小胞体局在型および葉緑体局在型の脂肪酸不飽和化酵素(FAD)が担っている。 本研究ではモデル植物としてタバコ(Nicotiana tabacum var. Samsun)を用い、FAD遺伝子の発現を制御することにより、 ・小胞体膜の脂肪酸不飽和度が減少 ・葉緑体膜の脂肪酸不飽和度が減少 ・小胞体膜と葉緑体膜の脂肪酸不飽和度が減少 ・小胞体膜の脂肪酸不飽和度が増加 ・葉緑体膜の脂肪酸不飽和度が増加 ・小胞体膜と葉緑体膜の脂肪酸不飽和度が増加の、6種類の形質転換タバコの作製を試みた。 タバコでは、NtFAD3が小胞体膜のC18:2→C18:3の不飽和化を触媒し、NtFAD7が葉緑体膜のC18:2→C18:3およびC16:2→C16:3の不飽和化を行う。このため、これらのFADをコードする遺伝子の発現を抑制することで、膜脂肪酸不飽和度の減少したタバコを作製することが可能であると考えられる。NtFAD3とNtFAD9遺伝子のORF領域は相同性が高いため、比較的相同性の低い3ユUTR領域を単離し、RNAi(RNA干渉)法により、NtRAD3およびNtFAD7の発現がそれぞれ抑制される形質転換タバコを作製した。さらに、2つの3ユUTRを組換えPCR法によって連結し、これをRNAi法でタバコに組込むことで、NtFAD3とNtFAD9の発現が同時に抑制される形質転換タバコも作製した。 また、反対に膜脂肪酸不飽和度の増加したタバコを作製するため、小胞体局在型FADをコードするクロレラ由来のCvFAD3および、葉緑体局在型FADをコードするクスノキ由来のCcFAD7-1を、高発現ベクターpBE2113を用いてそれぞれタバコへ導入した。さらに、CvFAD3とCcFAD7-1を同時に発現させるため、「プロモーター ミ CvFAD3 - ターミネーター - プロモーター - CcFAD7-1 - ターミネーター」の並びで両遺伝子をpBE2113に組み込み、これをタバコへ導入した。 得られたそれぞれの形質転換タバコについて、葉よりトータル脂肪酸を抽出し、ガスクロマトグラフィーにより脂肪酸組成の測定を行った。●結果 RNAi法により不飽和度を減少させるタバコは、現在形質転換体が得られたところであり、今後ガスクロマトグラフィーにより脂肪酸組成の測定を行う。 CvFAD3を導入したタバコは、最も不飽和度が高かった物でC18:3の相対含量が63.1%と、野生株の値(56.3%)と比べて6.8%増加した(表1)。CcFAD7-1導入タバコのC18:3の相対含量も63.8%と、野生株より7.5%増加した。CvFAD3とCcFAD7-1を同時に導入したタバコの脂肪酸組成については現在測定中であるが、これまでのところ、C18:3が62.5%に増加した株が得られている。
  • 松木 佐和子, 今野 浩太郎, 小池 孝良
    セッションID: A42
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、カバノキ科を中心とした7樹種の光合成特性と被食防衛特性がどのような関係にあるかを調べることを目的とした。平均葉寿命が短い種ほど、窒素含量が多く、最大光合成速度は速く、柔らかく、フェノール物質が少ない葉を持つ傾向にあった。また、広食性植食者であるエリサンに各樹種の葉を与えたところ、平均葉寿命が短い種ほどエリサンの生存日数は長かった。
  • 崔 東寿, Ali M Quoreshi, 丸山 温, 陳 鉉五, 小池 孝良
    セッションID: A43
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    2.材料と方法 - 植物材料は韓国の森林に一般的なカラマツ(Larix kaempferi),アカマツ(Pinus densiflora)とチヨウセンゴヨウマツ(Pinus koraiensis)を用いた。北大札幌研究林の温室で育てた3樹種のメバエは外生菌根菌(コツブダケ_-_Pisolithus tinctorius)に感染させ,森林総研北海道支所の環境調節実験棟に設けられたCO2濃度を720ppmと360ppmに制御した自然光型環境調節室(昼/夜室温=26/16 ℃,各3室,計6室)で冬芽が形成された18週間生育させた。光合成速度と葉内CO2濃度との関係(A-Ci曲線)と気孔コンダクタンスの測定には開放系の同化箱法(LI-6400,Li-Cor, USA)を用い,飽和光(1500μmol&middot;m-2&middo t;s-1)で測定した。気孔制限(stomatal limi tation;ls)は,ls=(A_-_Ai)/A x100(%)で算出した(A=葉内CO2濃度が360ppm時の光合成速度,Ai=外気CO2濃度が360ppm時の光合成速度)。測定終了後,メバエを地際から切断し,プレッシャーチャンバーを用いて木部圧ポテンシャルを測定した。その後、直径と乾重量(65℃,48時間以上)を測定し,湿式灰化後にプラズマ発光分析装置ICP(Jarrel Ash, USA)を行いて養分分析を行った。3.結果 - 外生菌根菌と高CO2処理がチョウセンゴヨウマツとカラマツの乾重量と直径に受ける有意な影響は見られなかった。しかし,アカマツでは外生菌根菌に感染したメバエで有意に良い成長が見られた。特に360ppm処理区で大きな差が見られた。光合成の測定結果は、360ppm処理区のチョウセンゴヨウマツは外生菌根菌感染個体の初期勾配は小さく,カルボキシレーション効率は低かったが,RuBP再生産速度は高い値を示した。ところが720ppm処理区の外生菌根菌に感染したチョウセンゴヨウマツとカラマツのメバエは,初期勾配とCO2飽和域の純光合成速度(RuBP再生産速度)が高い値を示した。アカマツでは両処理区ともに外生菌根菌に感染したメバエの初期勾配は2_から_3倍くらい高くなって,CO2飽和域の純光合成速度も2倍以上高かった。 また,気孔制限はアカマツではCO2濃度にかかわらず,感染個体で小さな値を示した(特に720ppm処理区で有意に低下)。ほかの2樹種では有意な傾向は見られなかった。木部圧ポテンシャルは3樹種共に有意な差は無かった。針葉中のリン含有量は,チョウセンゴヨウマツの860 ppm処理区とアカマツの360ppm処理区及び720 ppm処理区において外生菌根菌に感染したメバエで高かった(P<0.01)。しかし,カラマツでは有意差は無かった。3樹種では,大気CO2処理区に比べると,高CO2環境区で外生菌根菌の感染率が有意に高かった。4.考察 - 高CO2濃度下では,宿主樹木メバエの光合成能力が上昇し,これに伴って光合成産物の根系への転流が増加し,これを利用することで外生菌根菌の活動能力も上がって,高CO2環境下で外生菌根菌の感染率が増加したと考えられる。このように外生菌根菌の感染によって土壌中のリンや水の吸収を助ける働きによって,外生菌根菌に感染したチョウセンゴヨウマツとアカマツの針葉中のリン含有量の増加傾向が見られた(ns)。高CO2環境下で外生菌根菌に感染したチョウセンゴヨウマツメバエの針葉中のリン濃度の増加は,同様に無機リン濃度の増加ももたらし,RuBP再生産速度を増加させてCO2飽和域での光合成速度の増加をもたらしたと考えられる。さらに,A-Ci曲線でカルボキシレーション(炭素固定)効率を示す初期勾配とCO2飽和域での光合成速度の増加が見られた。また,外生菌根菌に感染したアカマツメバエは Rubiscoの活性や針葉中のリン含有量(即ち葉緑体中の無機リン)の増加で,光合成産物の転流やRuBP再生産速度が増加する傾向があった。その結果,アカマツの両処理区(360ppmと720ppm)とチョウセンゴヨウマツの720ppm処理区の乾重量及び3樹種メバエの直径の増加をたらしたと考えられる。特にアカマツでは明確な反応を示した事から,3樹種の中ではアカマツが外生菌根菌のコツブタケとの共生関係が密接だと思われる。
  • 柴田 隆紀 , 松木 佐和子, 北尾 光俊, 飛田 博順, 丸山 温, 竹内 裕一 , 小池 孝良
    セッションID: A44
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     近年、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇とそれに伴う温暖化が問題視されている。それを受けて北方林を構成する落葉広葉樹と食葉性昆虫の間に生じる生物間相互作用を調べることが重要であると考える。この生物間相互作用を調べるにあたり重要となるのが炭素と窒素のバランスが樹木の防御と食葉性昆虫に及ぼす影響である。 本研究では遷移前期種であるケヤマハンノキと遷移後期種であるイタヤカエデの葉齢約80日目の完全展開葉を食葉性昆虫であるエリサンに与えその生存と成長について検討した。その結果ケヤマハンノキを与えたほうでは予想に反して富栄養よりも貧栄養で生存も成長も良くなった。一方、イタヤカエデでは実験初期でほとんど死亡したため成長に関して論じるのは難しい。                                       
  • 江口 則和, 上田 龍四郎, 船田 良, 高木 健太郎, 日浦 勉, 笹 賀一郎, 小池 孝良
    セッションID: A45
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    将来高CO2環境となったときの森林環境予測ため、自然に近い状態でCO2を付加することのできる「開放系大気CO2増加(Free Air CO2 Enrichment; FACE)」を用いて冷温帯林構成樹木の成長と水分生理応答を調べた。FACE内のCO2濃度は、2040年ごろを想定して500ppmとした。一方、対象区は現状の約370ppmであった。また、FACE内の地面を半分に区切り、半分が褐色森林土(褐色土)、残りが北海道の土壌の特徴である貧栄養の(未成熟)火山灰土壌とした。実験材料は2年生の冷温帯林構成樹木11種とした。高CO2環境下での成長応答を調べるために、葉面積指数(LAI)、(地際樹幹直径) 2×(樹高)(=D2H)を測定した。また、高CO2環境下での水分生理応答を調べるために、気孔コンダクタンス、蒸散速度、葉温、土壌水分率を測定した。まず成長量では、D2Hに関して、褐色土で高CO2処理の方が高くなった。火山灰土壌では褐色土よりも高CO2処理の影響は少なかった。しかしながら、窒素固定菌を有するケヤマハンノキは、火山灰土壌でも高CO2処理で著しく高い成長を示した。次に水分生理では、高CO2環境下で気孔コンダクタンス、蒸散速度が低下した。また、葉温、土壌水分率は高CO2処理で高い値をとった。これらの結果から、まず成長量に関しては、将来大気中CO2濃度が高くなったとすると、樹木の成長は増加するが、土壌栄養条件に大きく影響を受ける、また、貧栄養地帯では共生菌を持つ種の成長が著しく高くなる、ということが予測される。次に水分生理に関しては、葉温、土壌水分ともに高CO2環境下で高い値を示したのは、気孔が閉じ気味になったことによる影響だと考えられる。また、このことから、将来大気中CO2濃度が高くなったとすると、葉温変化に伴う葉での酵素活性の変化や、土壌水分率の変化に伴う森林生態系への影響が示唆される。
  • 北尾 光俊, 飛田 博順, 丸山 温
    セッションID: A46
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     高CO2条件で植物を生育させた場合,光合成速度は短期的には上昇するが,長期間の順化の後には光合成能力の低下が見られることがある。この現象は光合成のダウンレギュレーションと呼ばれ,ポットサイズにより根の成長が制限される場合や栄養が制限されている時により顕著に生じる。高CO2処理による光合成のダウンレギュレーションにより,光阻害感受性が上昇する可能性が指摘されている。一方で,乾燥ストレスは,気孔閉鎖にともなう葉内CO2濃度の低下により,光合成速度を低下させることが知られている。乾燥ストレスがかかった状態で展開した葉では,電子伝達の能力を上昇させることで,葉内CO2が低下した際の光阻害感受性の上昇を緩和していることが示唆されている。また,高CO2処理によって葉内窒素濃度は低下するが,長期間の乾燥処理によって葉内窒素濃度は上昇することが報告されている。このように,高CO2処理と乾燥処理は,光合成反応および光阻害感受性に関して反対方向の影響を及ぼすことが予測される。そこで,高CO2条件下で乾燥ストレスをかけて緑化樹として多用されているシラカンバ苗木を生育させ,葉内CO2濃度に対する光合成速度,電子伝達速度,熱としてのエネルギー放出の指標となるノンフォトケミカルクエンチング(NPQ),および光阻害感受性の指標となるフォトケミカルクエンチング(qP)の反応を調べ,葉内窒素濃度との関係を検討した。 夜明け前の葉の水ポテンシャルは土壌の乾燥状態を反映することが知られている。灌水前日における夜明け前の葉の水ポテンシャルは,CO2濃度360 µmol mol-1において毎日灌水をおこなった処理区(AW区)で-0.13 MPa,乾燥処理区(AD区)で-0.52 MPaであり,CO2濃度720 µmol mol-1で毎日灌水をおこなった処理区(EW区)では-0.12 MPa,乾燥処理区(ED区)では-0.39 MPaを示した。光合成速度には乾燥処理による違いは認められなかったが,高CO2処理により光合成速度は高くなる傾向を示した。一方で,葉内CO2濃度はAD<AW<ED<EW区の順となり,高CO2処理で葉内CO2濃度は上昇するが,乾燥処理によって低下する結果が得られた。このことから,葉内CO2濃度に着目すると,乾燥処理は高CO2の影響を緩和する方向に働くと考えられる。葉内窒素濃度は乾燥処理によって上昇し,高CO2処理によって低下する傾向が見られた。qPの低下は光阻害感受性の上昇の指標となる。qPは,測定時のCO2濃度が同じ場合には,窒素濃度の増加にともない上昇する傾向が見られた。また,それぞれの個体の生育CO2条件でqPの比較をおこなった際には,AD360でEW720に対して有意に高いqPを示した。これらの結果より,乾燥処理によって高CO2による窒素濃度の低下が緩和され,光阻害感受性の上昇も緩和されることが示唆された。
風致
  • 小川 菜穂子, 深町 加津枝, 奥 敬一, 柴田 昌三, 森本 幸裕
    セッションID: B01
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.研究の背景と目的
    里山の保全を考える上では,そこにすむ人々の暮らしのサイクルの中で景観が維持されてきた仕組みや,その背景を具体的に明らかにするアプローチが重要である。特にここ数年は,社会・文化的な観点から,里山の集落景観の形成過程や,土地利用形態など,人と里山のかかわりの変化に注目した研究がなされ始めている。中でも,かやぶき集落のような伝統的建築様式の景観は,地域の歴史・伝統・文化を体現しており,地域資源と人間とのかかわりを考える上で重要である。本研究では,ササ葺き民家が残る農村集落を対象として,_丸1_人間生活の変化と共に,ササ葺き集落の景観がどのように変遷してきたかを定量的,定性的に把握し,_丸2_ササ葺き集落景観を継承していく上での問題点を整理し,今後の維持・管理の方法を模索することを目的とした。
    2.研究方法
    調査対象地は,京都府宮津市上世屋地区である。上世屋地区には,現在では希少なものとなりつつあるササ葺き民家(チマキザサを用いる)が,表面にトタンを被せてはいるものの,全戸数の60%という非常に高い割合で現存する。上世屋における集落景観の変遷を把握し,ササ葺き民家の減少過程とその要因を抽出するために,写真,地図の判読や文献調査,および上世屋住民に対する聞き取りをおこなった。質問項目は,集落内でのササ葺き屋根の維持・管理方法から,ササ葺き屋根をやめた理由,ササ葺きに対する思い等についてである。さらに,かやぶき屋根が維持されてきた事例を,民家単位(上世屋近郊のササ葺き民家5軒),集落単位(京都府北桑田郡美山町北地区)でとりあげ,現地調査・聞き取りおよび文献調査により,屋根の維持を可能にした要因,維持・管理の現状と問題点について分析した。また,上世屋およびその近郊の3地点でカヤ刈り試験を行い,かやぶき屋根を維持する上で必要となるカヤ場面積や労力等について試算した。
    3.結果と考察
    上世屋では,集落内での相互扶助(手間貸し)によりササ葺き民家の維持・管理が行われていた。集落景観の変遷は,ササ葺き民家の動態やそれを取り巻く地域社会の変化に応じて,ササ葺き民家が比較的安定して存在しえた戦後_から_1960年(1期),その戸数が激減した1960_から_1970年(2期),リゾート開発が進みササ葺きの実習棟が復元された1970_から_1980年(3期),里山保全が重要視され始める1990_から_現在(4期)の4つに分けられた。第2期のササ葺き民家の減少要因としては,_丸1_農林業の不振や豪雪により過疎化・高齢化が急激に進行し,手間貸しが成立しなくなったこと,_丸2_薪炭材利用の減少や拡大造林により伐採跡地などササの生育適地が減少し,ササの質・量ともに低減したこと、_丸3_火災への不安などが挙げられる。聞き取りおよびカヤ刈り試験の結果から,上世屋での平均的な大きさのササ葺き民家1軒で,屋根の半分を葺きかえるためには,1000束(1束=10kg)のカヤ(カヤ場面積:0.67~1.33ha)などが必要であると試算された。
    またササ葺き民家5例においては,代々受け継いできたかやぶき屋根に対する強い愛着,こだわり,屋根葺き職人,カヤの刈り手の存在等が屋根の継続を可能にしていた。また,美山町では,地域住民によるかやぶき集落の積極的な保全活動と行政の支援策がうまく結びつき,集落景観の継承が地域活性化につながっていた。上世屋のササ葺き集落景観を継承していくためには,こうした事例に学び,住民,行政,地区外住民が維持・管理作業の役割分担を継続的に行い,利活用していく体制づくりが必要となる。
  • 深町 加津枝, 奥 敬一
    セッションID: B02
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 地域の自然や歴史と深い関わりをもった里山の地域資源には,それぞれの里山特有の分布や利用形態があり,人々の暮らしの中で不可欠な要素として機能してきた。しかし,燃料革命や農業の機械化,都市化などによって地域資源と地域住民による生活や生業との連関が途切れ,日本の里山における伝統的なシステムは失われていった。 里山が成り立っていたシステムを再構築するためには,過去にみられた地域資源の連関をふまえ,新たな機能と意味を付加した今日的な連関を創出する必要がある。 本研究では,地域資源の連関の創出に向けた萌芽的形態としての里山利用と管理をめぐる新たな動向を明らかにし,今日の地域資源の連関の中でどのような機能と意味をもっているのか考察することを目的とする。2.対象地 調査対象は,近畿地方における都市近郊の里山である滋賀県志賀町の守山地区である。守山は琵琶湖の西岸に位置し,西側を標高1,000m前後の比良山系の山々に囲まれ,東側は琵琶湖に面した扇状地で,面積約360haである。2004年現在の戸数は約230戸である。そのうち3分の2は,主に1960年代以降,外部より移住した住民である。そして,大部分の農地や森林は,3分の1を占める旧来からの住民およびその組織により所有,管理されている。 守山の主な産業は,稲作と薪生産であり,明治後期からは石材の生産も行われてきた。1960年代になると,薪炭利用はほとんど行われなくなり,琵琶湖総合開発などを契機に耕作地や里山林の宅地化,蓬莱山の観光開発,有料道路の建設が行われ,近代化,都市化が急速に進行した。また,高標高域の共有林を中心に大規模なスギ・ヒノキの植林が行われるなど,植生分布が大きく変化した。3.研究方法 本研究では,まず主に地形図(1996年発行)と空中写真(1995年撮影)により作成された植生分布図を基本に,今日の植生および地域資源の分布の特徴を把握した。 次に,現地踏査と地域住民に対する聞き取り調査を行い,地域資源としての里山の利用状況を明らかにした。また,関連する集落組織や市民組織などに対して聞き取り調査を行い,里山の管理形態や今後の見通しなどについて把握し,今日の地域資源の連関図としてまとめた。4.結果 守山においては,地域資源の空間分布や所有形態,そして過去の利用形態などによって,今日の連関のあり方に大きな相違がみられた。 例えば,社寺林や高標高域の共有林(守山財産区)にあるミズナラ林などは,地元の氏子組織や財産区組織により管理されてきており,今日も低い頻度ではあるが間伐や年中行事に合わせた下刈りなどの管理が行われていた。 また,宅地周辺から標高400m付近までのクヌギ・アベマキなどの里山林(かつて薪などとして利用)では,移住者や外部からのメンバーを中心とする市民組織による薪や落葉の採取や,琵琶湖湖岸の消波工のための粗朶採取などの地域資源の利用がみられた。一方,アカマツ林(かつて用材や薪などとして利用)は松枯れによる壊滅的な被害を受けており,枯死したアカマツの除去に苦慮していた。 農地においては,高齢者中心に稲作が行われ,「湯掛かり」という共同組織が水田に利用する山麓からの水を管理していた。増加する放棄田では,市民組織による畑利用や,藍染用の藍の栽培などの新たな利用もみられるようになった。 里山における今日の地域資源の連関は,全体の地域資源の中ではごくわずかなものであったが,具体的な動きとして,新たな視点からの日常の地域住民の生活との連関,そして異なる地域資源間の連関がみられた。また,旧来からの集落組織の役割は一部形骸化した部分もあるものの,今日的な意義は大きく,その役割が移住者や外部の人々に広がることで,地域資源の連関がより強固になる可能性があると考えられた。
  • 横山 恭子, 深町 加津枝, 奥 敬一
    セッションID: B03
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     都市近郊の里山は、高度経済成長期以降、開発適地として開発がすすんできた。現在、その多くでは、景観上の問題を各方面から指摘されてきている。一方、景観保全の方向としては、景観保全の主体として、地域住民の参加が期待されている。しかし、地域住民の里山の機能に対する考えや景観保全行動については、十分議論が進んでいないのが現状である。そこで、本研究では、地域住民の里山の機能についての考え方および属性と景観保全行動の構造的関係を解析することを目的とした。さらにその結果を開発規模の異なる2地域で比較することによって、効果的に地域住民の景観保全行動を活かしていく方策を検討することとした。 調査対象地としては、京都府南西部の淀川を挟んで対峙する天王山と男山を選定した。男山は、高度経済成長期に大規模に住宅開発が進んだが、天王山は、大規模な住宅開発が進んでいない状況にある。対象地の選定理由としては、天王山では開発反対運動等によって開発が中止された経緯があるが、男山では開発反対運動が組織的に起こっていないことから、両対象地の住民の意識と行動の構造に差異が生じていることが予想されたためである。 方法としては、両山の住民に里山の機能および景観保全行動などについてのアンケート調査を行った。アンケート配布区域としては、対岸からひとまとまりの景観として確認できる範囲とした。ただし、天王山は、一部が大阪府に属するため、行政範囲を考慮して、大山崎町に属する区域に限定した。それぞれ約1.8k_m2_である。アンケートの配布については、直接各戸のポストに2部ずつ投函する方法をとり、回収は郵送とした。男山側では、4252部配布し、有効回答は485部(11.4%)、天王山側では、2106部配布し、有効回答は262部(12.4%)が得られた。 解析には、里山の機能についての考え方・属性と景観保全行動の間の構造を明らかにするために多変量序列化手法として正準対応分析(Canonical Correspondence Analysis ; CCA)を用いた。解析に使用したデータは、有効回答から里山の機能に関する質問において、その他など順位づけられないものに回答したものを除き、男山;253、天王山;135を使用した。里山の機能としては、「自然災害からの安全性」「水・空気」「静けさ」「景観」「自然」「文化・歴史的遺産」「社寺・信仰地」「地域のシンボル性」「生活環境」「観光による地域振興」の10項目を解析項目とした。また属性は「年齢」「居住歴」「学歴」「収入」について解析した。景観保全行動については、「清掃活動」「開発反対運動」「文化・歴史遺産保全運動」「景観保全運動」「自然保護運動」「自然観察会」「緑地・植栽運動」の7項目について解析した。 CCAによる解析の結果、住民の里山の機能についての考え方・属性と景観保全行動の間には、次のような関係性が示された。まず、両地区とも属性は、大きく「学歴・収入」と「居住歴・年齢」の2つの軸で捉えることができた。「学歴・収入」の軸は、里山の機能についての考え方における「景観」「自然」「文化・歴史的遺産」との対応が認められ、「居住歴・年齢」の軸では、「社寺・信仰地」「地域のシンボル性」との対応関係が確認された。景観保全行動については両地区に共通の構造は捉えられなかった。天王山では、「学歴・収入」の軸と「開発反対運動」「自然観察会」との対応関係が見られ、「居住歴・年齢」の軸と「文化・歴史遺産保全運動」「緑地・植栽運動」に対応がみられた。しかし、男山では、各軸に対応する関係は認められなかった。里山の機能についての考え方と景観保全行動の対応については、天王山では、「開発反対運動」「自然観察会」と「景観」「自然」「文化・歴史的遺産」の対応、「文化・歴史遺産保全運動」「緑地・植栽運動」と「社寺・信仰地」「地域のシンボル性」の対応が確認された。
  • 奥 敬一, 正法院 知絵, 深町 加津枝
    セッションID: B04
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 里山の風景や文化,生態系を維持してきた,失われつつあるシステムを再構築するために,各地で様々な取り組みが始められているが,その入り口に当たる仕掛けのひとつとして,地域の里山を紹介し,理解するための散策道の設置をあげることができる。里山を利用した散策道は,レクリエーションや観光に加え,環境教育や日常的な健康増進などの面でも可能性を持っているが,魅力あるコース作りのためには適切な指標に基づく評価と,その評価に対応した計画が必要である。そこで本研究では,里山散策道の特性を歩行者の体験の面から評価するための指標を提案し,実際の散策コース上での調査を通して,里山散策道の特性把握を行うとともに,その有効性について検討を行う。2.方法 調査対象地とした滋賀県志賀町は,琵琶湖の西岸に位置する。志賀町では2002年3月に,比良山麓の里山地帯をめぐる,「比良里山散策道整備構想」を策定した。本研究では,この構想に基づいて,集落近くを通るもの,森林が多いもの,歴史的遺構が見られるものなど,タイプが異なる4コースを調査対象として選択した。 調査は,(1)現地踏査によるコースの特性の記述,および(2)被験者数名による現地での歩行体験評価実験,の2項目からなる。 (1)では,まずKaplan et al.(1998)に基づいて,環境心理的な散策道の特性を把握するための12項目の評価指標を作成した。そして,現地踏査により各コースのランドマーク,景観的なポイント,植生の状況などを1/5,000地形図上に記録し,それぞれがどの指標に対応するのかを検討した。これに基づいて,現地踏査に基づくコース特性を記述した。 (2)では各コース4_から_6名の被験者が歩行し,終点でそのコースを体験した評価についての質問紙調査を行った。設問は従来のSD法による代表的な12形容詞対5段階評定によるものと,本研究で新たに設定した12指標5段階評定によるものの2種類を同時に行った。3.結果と考察 SD法による心象評価について因子分析を行うと,第1,第2因子で,全体の56_%_を説明することができ,それぞれ,散策路の総合評価と排他的印象に関する因子と解釈できた。各コースにおける各被験者の第1,第2因子のスコアを座標軸上にプロットしたところ,コースごとの特性の違いを見出すことはできなかった。 本研究で新たに設定した評価指標について因子分析を行うと,第1_から_3因子で,全体の62_%_を説明することができ,それぞれ,散策路の安全・親近性,文化性,聖性に関連する因子と解釈できた。各コースにおける各被験者の第1,第2因子のスコアを座標軸上にプロットすると,コースごとにまとまって分布し,コースごとの特性の違いを示すことができた。 里山散策路の評価指標としては快適性などに関わる指標の重要さに加えて,その路線が安全性や親しみやすさに配慮されているか(「排他的印象」や「安全性・親近性」),集落の生活や歴史的資源などの文化性にふれられるかどうか(「利便性・文化性」),といった点も非常に重要であると言える。 また,現地踏査に基づくコース特性の記述と,新たに設定した指標による被験者の体験評価との間の関係も,比較的よく対応していた。本研究で設定した指標を用いた評価は,より具体的にコースの特性を把握しうる方法であると考えられる。
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