抄録
2001年11月モロッコのマラケシュで開かれたCOP7では、同年7月のCOP6再開会合で得られた合意を元に京都議定書の運用ルールについて合意に至ったが、森林吸収源の取り扱いが大きな論点となった。本報告では、マラケシュ合意における森林吸収源の論点を整理し、現在IPCCによって作成中であるIPCCグッドプラクティスガイダンスでの議論を踏まえながら、その問題点と方向性を示す。 (1) 森林管理の定義 各国の事情に配慮したため森林管理の定義は未だあいまいであり、具体的にどのくらいの活動までが森林管理に入るのかが明らかではない。GPGではマラケシュ合意以上に踏み込んだ定義をする意図はなく、SBSTAあるいは審査者の判断に委ねられるものと推測される。そのため、各国が森林管理として含めたい活動については、人為的活動としての理論整理と報告のための情報整備が求められるだろう。(2) 炭素蓄積変化の測定 技術的問題として、森林の不確実性をふまえた測定手法と数値を提示できるかが問題となる。特に、5つの炭素蓄積の変動をいかに測定するかは、現在の科学的な現状から難しい部分も多いものと考えられる。そのため、科学的な背景をふまえながら、現実的な対応策を検討する必要があろう。(3) 土地の同定 3条3項・4項の対象地は、数量のみならずその位置も示す必要があるが、林分単位で全ての林分を示すためには極めて膨大な作業量が必要となる。また、森林管理活動がなされた林分を遠隔探査で把握することは難しいため、我が国であれば森林簿や補助事業書類など行政情報を利用する必要があろう。なお、GPGでは、ある程度まとまった地域を示して土地の同定としても良いという方法も提案されているが、3条3項・4項による吸収量に直接関わる部分であり、今後の動向が注目される。当面、技術的な対応策の開発と同時に、情報整備が大きな課題となる。(4) QA/QC GPGではQA/QC(品質保証・品質管理)という章を設け、報告のための精度向上を求めている。特に、森林吸収源に関する国内システムについて、品質向上のためのシステムと、その結果として精度を提示することを求めており、我が国においてもこれに対応したシステムを構築する必要がある。