日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: B06
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林政 I
地域住民による自然休養林の管理運営実態
八曽自然休養林を事例として
*渡邉 宏美大浦 由美
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抄録
1.はじめに国有林野事業における「改善計画」以降の「民営化」路線を受けて,森林レクリエーション事業においても,地元公共団体等へレクリエーション施設の管理運営を委託する方針へ転換し,また利用者がレクリエーションの森の整備費用を負担する森林環境整備推進協力金制度が制定された。このような森林レク事業の「民営化」によって管理運営の主体となった民間の取組みの現状や,レクリエーションの森整備の財源となりうる協力金の収受額は,地域によって様々であり,それによる自然休養林の管理運営の実態も異なると考えられる。そこで本研究では,地域住民を主体とした八曽自然休養林の管理運営の実態を,主として愛知森林管理事務所,地域住民への聞取り調査により明らかにし,森林レクリエーション利用を通じた国有林管理について考察することを目的とする。2.尾張西三河国有林野事業と森林レクリエーション 愛知県尾張西三河地区は,森林面積102,504ha(森林率31%),うち3,285ha(3%)が国有林である。国有林の生産事業はほとんど行われておらず,森林と人との共生林が59%を占めている。名古屋市から車で1時間以内の場所に位置し,都市近郊とあって森林レクリエーション的利用が中心となっている。レクリエーションの森には,犬山・八曽自然休養林等計1,942ha (2002年3月現在)が設定されており,年間利用者数は約2万人となっている。3.八曽自然休養林の管理運営実態愛知県犬山市に位置する犬山・八曽自然休養林は,犬山地区,八曽地区に分れており,そのうち,後者が八曽自然休養林である。面積は751.16ha,そのすべてが国定公園であり,開園当初から開発規制が厳しく,それ故自然が多く残されてきた。八曽国有林は1974年に自然休養林に指定され,翌年開園した。その際,自然休養林の管理運営は「協定」を結ぶという形で,営林署から地元入鹿地区住民によって構成される入鹿森林愛護組合に委託され,野営場と駐車場が組合によって整備された。1985年には,増加するキャンプ客に対応するため,組合が野営場を増設した。2001年度の入込者数は, 11,864人であった。運営については,駐車料金,貸テント料金からの収入でまかなっており,駐車料金500円のうち200円が森林環境整備推進協力金(以下,協力金)となる。支出は組合員の賃金,施設の維持管理費,国有林への野営場使用料である。協力金は毎年約60万円集まり,一旦国有林野特別会計に納められ,森林環境整備の予算として事務所と組合に下り,主に歩道,トイレ,案内板,キャンプ場内施設の新設及び修理に充てられる。4.地域住民による管理運営の取組み・入鹿森林愛護組合終戦直後までの地域住民と国有林との間には,国有林の冬季雇用等を通じた関係があった。その後,木材生産が行われなくなり,代わって八曽自然休養林が開設し,入鹿森林愛護組合が管理運営に参加することとなった。組合は,地元の高齢者雇用対策事業として,国からの働きかけにより1975年に発足した。入鹿地区54戸で組合員が構成され,そのうち組合長,副組合長等計10名が2年交代で役員となり,管理運営の中心的役割を担う。しかし一方では,若手の組合員は恒常的勤務者が多く,休日にキャンプ場の仕事を手伝うことを嫌がる人もおり,高齢者が管理運営の中心的存在となっている。5.考察入鹿地区住民にとって,八曽自然休養林の管理運営を国有林から委託されたことは,高齢者や定年退職者の雇用創出となり,また交代で数人ずつキャンプ場の管理を行うことで地元の人々の繋がりも維持された。さらに観光客との交流も出来,地域住民はやりがいを感じている。役員の中でも,若者のアイディアやエネルギーを積極的に取入れて組合の存続を図ろうとするなど,八曽の森林を守っていく意識は高い。しかし実際に管理運営に携っているのは主に高齢者のみであり,若手は仕事を忌避する傾向にあることから,このままでは組合の存続と今後の管理が危惧される。今回は八曽自然休養林の事例を明らかにしたが,地域によって国有林管理の実態は様々であり,高齢化などで管理運営主体となる組織の存続が困難な箇所もあるだろう。このように現在,レクリエーション施設の管理運営は不安定な主体に任されている事が懸念され,国有林は管理運営の方針を見直す時期にきている。今後は個々の自然休養林の管理運営実態を明らかにし,それぞれの事例を比較検討していくことが課題とされる。
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© 2003 日本林学会
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